それぞれのやり方で、理想の農業を 白ねぎ生産者・浦田さんと多品目生産者・杉田さん
富山県富山市に隣接する立山町。標高3,000m級の山々が連なる立山連峰のお膝元である一方、日本海までは車で30分ほど。自然豊かな環境に恵まれた町です。
町の主要作物は水稲。また、水田活用のため園芸作物の振興に力を入れており、なかでも白ねぎは重点地域振興作物のひとつとして、生産者の育成に力を入れています。その一人が浦田周義さん(46歳)です。
浦田さんは、3年前に地元・立山町に戻り独立就農。40アールのほ場からスタートし、毎年規模を拡大してきました。
補助金制度の活用や栽培指導を受けるなど、立山町を中心に富山県富山農林振興センター(以下、振興センター)やJAアルプスなど関係機関と密に関わり、立山町の白ねぎの生産拡大と栽培技術の維持向上に貢献する生産者です。
一方、まったく異なる農業に取り組むのが、山菜海ファームの杉田篤信さん(37歳)、元公務員です。
60アールのほ場で、50品目150品種の露地・施設野菜を農薬を使わずに栽培。ホームページやSNSを活用して、旬の野菜セットとして販売しています。
バランスを意識した良質な土づくりにより、野菜本来の生命力を引き出す栽培方法で、採れたて野菜を発送している山菜海ファーム。
その食味の評価は高く、富山県内をはじめ全国からの注文も多く高いリピート率を誇っています。
会社員や公務員を経て農家に 人とのつながりを大事に、就農の相談は町へ
立山町出身の浦田さんは、県外でさまざまな仕事を経験し、30代後半で富山市に戻り、43歳で独立就農。
杉田さんは東京都出身。国家公務員から第二のキャリアとして、立山町での移住就農を選択しました。
出身もキャリアも全く異なりますが、同じ立山町で独立就農を果たした2人。これまでの歩みを振り返っていただきましょう。
Q.さまざまな職業選択がある中で、なぜ農業を選んだのですか。
浦田さん
最初は農業に興味がなかったのですが、結局、4年半勤務。その間に出会った人たちの後押しが私の就農の道を開いてくれました。
私も妻も山登りが好きで、自然の中でのびのびと子育てがしたい、家族にはおいしくて安心できるものを食べてほしい、という思いから、農業が次の職業として選択肢にあがりました。
杉田さん
浦田さん
私は勤務していた農業法人が白ねぎを栽培し、3年目にはほ場の責任を任されました。その頃に振興センターの方や地域の農家さんなど、周囲から独立を強く勧められ、当時は貯金がなかったので夢物語だと思っていたのですが、融資を受けることもでき、独立を考えるようになりました。
有機栽培でトライアンドエラーを3年ほど繰り返すと、安定的に野菜を栽培できるようになり、「職業として何とかやっていけそうだ」と思えるようになりました。
杉田さん
浦田さん
山好きということから立山連峰のお膝元の立山町が候補にあがり、役場に相談に行くと親身に対応してくださり、それが好印象でした。
杉田さん
浦田さん
それから立山町、JA、町蔬菜園芸協会の関係者の方が集まってくださり、就農相談を目的とした会合を設けてもらいました。
独立に向けて、機械や資材、農地、出荷先なども紹介してもらいましたね。
私は研修先を悩んでいましたが、富山県での就農希望者を育成する「とやま農業未来カレッジ」の存在を知り、1年間通うことを決め退職しました。
その時に立山町の借家に住み、同時に30アールの農地を借りて、引き続き家庭菜園にも取り組みました。
その様子を見ていた地域の方々が今の納屋つきの家を紹介してくださり、カレッジ卒業後は、そこを拠点に農業を始めることができました。
杉田さん
浦田さん
私は恵まれていたと思います。独立直後も、育苗ハウスや農機を探していただくなど、いろんな方の応援があって生活させてもらっていました。
杉田さん
Q.就農するまで、どこで栽培技術や知識を学びましたか。
浦田さん
独立を意識してからは、それまで以上に、吸収できるものはすべて吸収するという気概で働きましたね。
そこで研修させてもらい、栽培技術を学べたのも大きかったですね。
杉田さん
Q.立山町での農ライフは、いかがですか。
農家であれば、昆虫採集やお花摘み、そり遊びにかまくら作りなど、畑で四季折々の遊びを楽しむこともできます。
また、保育料が富山市より安かったのもありがたかったです。
杉田さん
浦田さん
独立してからは自分の裁量で時間が使えるので、作業を調整して、子どもの野球の試合を見に行くこともあります。
杉田さんは、新しい拠点での就農に不安はありませんでしたか。
私は金沢市の農家さんに、よく相談に乗っていただいています。
杉田さん
浦田さん
私は行政やJAの人たちと一緒に農業をやっているので、杉田さんより不安は少なかったかもしれません。
制度のことは役場へ、経営のことは振興センターに相談すれば、キーマンとなる人を紹介してくれるので助かります。
そういう人との出会いがなかったら、就農時にかなり苦しんでいたかもしれません。
杉田さん
「計画すれば、失敗も最小限に」町や先輩農家に相談しながら、自分らしい生き方を見出す農業という選択肢
浦田さんは、新規就農を志す人へ「農業はすぐにお金にならないので、ある程度の生活費を確保し、きちんと計画を立てて挑戦することをおすすめします」と堅実なアドバイス。
「どれくらいの馬力のトラクターが必要か、その土地の気候にあった資材は何かなど、そういう細かなことで支度金額が変わってくるので、先輩農家さんに話を聞くのが一番です」
立山町の中核的な白ねぎ生産者として期待を寄せられる浦田さんの今後の目標は、農業所得500万円を超えることです。「高いハードルですが、できる範囲で少しずつ自力をつけ、毎年規模拡大にチャレンジしていきたいです」と意気込みを話してくれました。
「将来、やりたい農業スタイルに近い人を見つけたら、そこに相談に行くのも一つの方法ですよ」と杉田さん。「より実践的な情報が得られ、就農意欲も高まるのではないでしょうか。新規就農には、きちんと生計を立てていけるのかという不安があるので、少し厳しく見積もって、綿密な計画を立てて就農すれば、大きな失敗は防げると思います。漠然とした理想よりも経営的な“数字”が大事です」と同じく現実的なアドバイスをいただきました。
自分なりの農業スタイルを模索し続け、ようやく基盤が整ってきたと話す杉田さん。「気持ちに余裕が出てきたので、家族と過ごせる幸せを大切にしながら、これからも農業を楽しんで続けていきたいですね」と笑顔を見せてくれました。
農業には多様な働き方があり、自分にあった時間の使い方、幸せを感じる生き方を追求できる職業と言えます。
あなたも、農業で自分らしい生き方を見つけてみませんか。
Q.農業を始めたいのですが、まずは何をしたらよいですか?
A.農業をなりわいにするには、「資金」「農地」「機械・施設」そして「技術」が必要です。それらを、いつ、どこで習得するかなどを、じっくりと考える必要があります。浦田さんと杉田さんが話すように計画性が必要なので、まずは市町村にご相談ください。
Q.どうすれば農地を準備することができますか?
A. 農地を確保するには、買う場合も、借りる場合も、市町村の農業委員会の許可が必要です。就農するエリアが決まっていれば、その自治体の農業委員会に相談してみましょう。利用調整を進めてくれます。
Q.資金が足りないのですが、融資を受けられますか?
A.農地の確保や機械・施設の取得など、事業内容に応じて受けられる融資があります。また、資金の支援をする補助金制度もあります。経営開始に必要な資金や経営開始後の資金計画について、就農計画を立てる際に、市町村に相談してみましょう。
Q.補助金等の制度について、気をつけることはありますか。
A.新規就農の補助金等の制度は、頻繁に内容の変更があります。「①現在も制度があるかどうか」「②あっても、自分が対象になるかどうか」の2点を必ず確かめましょう。
【取材協力】
浦田ファーム 浦田周義さん
(Instagram@urata.farm)
山菜海ファーム 杉田篤信さん
(https://yamanami-farm.com/)
(Instagram@yamanamifarm_sugichan)
「とやま就農ナビ」
【お問い合わせ】
立山町地域担い手育成総合支援協議会
TEL:076(462)9973(事務局:立山町農林課内)