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トイレ問題に熱中症対策、販路拡大! 農業分野の課題解決に企業を巻き込むノウフク・ラボ

トイレ問題に熱中症対策、販路拡大! 農業分野の課題解決に企業を巻き込むノウフク・ラボ

農福連携の取り組みが広がり、さまざまな障害や制限のある人など多様な人材が農業現場で働くようになった。そうした現場では、障害のある人のための働きやすさの工夫が他の人の働きやすさにつながる事例が見られる。「農福連携の課題解決は一般の農業現場や地域社会にとっての課題解決にもつながるのでは」。そんな考えのもと、農業や福祉の枠を超えて多様な業界のメンバーが集まり課題解決に取り組んでいるのが「ノウフク・ラボ」だ。

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一般企業を交え、多様な視点で課題解決する場を

新たなイノベーションは、組織を超えたさまざまな人材の知見やノウハウ、アイデアの共有から生まれることがある。課題の当事者の視点からは見えないことが、別の視点からは見えるということだろうか。
そんな多様な視点から農福連携現場の課題を解決しようと始まった“研究”の場が「ノウフク・ラボ」だ。「研究員」と呼ばれるメンバーは、農業や福祉関連に限らず、さまざまな業界の企業から参加している。

ノウフク・ラボ発足のきっかけは2021年3月、農福連携の優良事例を表彰する「ノウフク・アワード2020」の表彰式。プログラムの一つのトークセッションで、参加者から農福連携に関するさまざまな課題が噴出した。中でも際立ったのが「畑にトイレがないことで障害のある利用者の活動に支障がある」という切実な声だった。そこで、こうした課題について検討する場を作ることに。
ノウフク・アワードを主催する「農福連携等応援コンソーシアム(※)」会長の皆川芳嗣(みながわ・よしつぐ)さんから「コンソーシアムには農福連携を応援したいという一般企業が多く参加している。こうした企業の知恵やノウハウも活用し、よりよい解決策を模索しては」との意見もあり、多様なメンバーを交えたラボが発足することになった。

ノウフク・ラボにリモートで参加する皆川さん(写真左)

※2019年に設立された農福連携を応援するための官民による共同組織。官からは農林水産省のほか厚生労働省・文部科学省・法務省が参加。農業や福祉関係の企業・団体のほか、農業や福祉以外の業種の一般企業が賛助会員となっている。

合言葉は「異なるものとつながる力!」

2021年10月、コンソーシアム参加団体の中から24団体30人が参加し「ノウフク・ラボ」が発足。ラボのテーマには、農福連携の現場で特に切実な課題となっているものがピックアップされた。「トイレ」に加え、現場で働く人の健康リスク軽減のためにIT技術を活用する「ウェアラブル」と、農福連携商品の販売促進やブランディングを考える「ショップ」の3つだ。
「異なるものとつながる力!」を合言葉に、各界が連携し対話を通じて社会課題の解決や新たな価値創造を図るプラットフォームとなることを目指す。

どこでも・だれでも・いつでもトイレ~ラボ01:トイレ~

トイレラボには、福祉関係者だけでなく行政の担当者や学識者などもメンバーとして参加。リーダーの天野雄一郎(あまの・ゆういちろう)さんは、自身も病気のためにトイレに課題を感じる一人だ。トイレラボについて「ノウフクを真ん中に置いたトイレという問いを探求するのが目的」という。

天野雄一郎さん。社会福祉法人白鳩会の総務担当でもある

メンバーからは「トイレは農業現場で安心して働くために不可欠のもの」「世の中には病気などで排せつの問題を抱える人は多い」「すべての人が災害時などにトイレ問題に直面する」といった意見が続出。そこで、だれもが安心してトイレにアクセスできることを目指し、「どこでも・だれでも・いつでもトイレ」というビジョンが掲げられた。

ワークショップにはトヨタ自動車が参加し、先進事例として同社がリクシルと共同開発した「モバイルトイレ」を紹介。けん引してどこでも必要な場所に設置が可能で、野外イベントなど多目的トイレが不足しがちな場面で、車いす利用者が使用することを想定して開発されたもの。トイレの設置が難しい農業現場との相性の良さもメンバーの注目を集めた。

けん引が可能なモバイルトイレ

障害のある当事者から意見を聞く「ノウフクトイレリモートキャンプ」も実施。トイレの改善が心理的な課題や生産性低下の問題などの解決にもつながることが分かったという。
リーダーの天野さんは今後の活動について、「ノウフクトイレのデザインコンテストや災害時にも役立つトイレなどの開発も視野に入れていきたい」と意気込む。

IoTで安心安全な現場を実現~ラボ02:ウェアラブル~

2つ目のテーマは「ウェアラブル」。障害のある人の中には自身の体調を的確に職員に伝えることができない人も多いため、ウェアラブル端末で体の状態をモニタリングし、農作業中の熱中症リスクを軽減することなどを想定している。
ラボリーダーを務める小淵久徳(こぶち・ひさのり)さんは、利用者の作業中の安心安全を確保することにつながればと語る。

小淵久徳さん。知的障害や発達障害のある人が農業生産を行う社会福祉法人ゆずりは会菜の花の管理者でもある

ウェアラブルラボには、IoTセンサーを開発する株式会社クォンタムオペレーションが参加。本格的なラボ発足に先駆けて2021年の8月から2カ月間、小淵さんが管理者を務める施設の利用者5人を被験者としてモニタリング調査を行った。手首にセンサーを装着して脈拍や表皮体温などのデータを測定したところ、期間中に熱中症の可能性を示すアラートが9回検出されたという。
また、データから「感情解析」もできることが分かった。被験者の行動の記録とセンサーの記録を照らし合わせたところ、快・不快のシンクロ率は約65%だったそう。さらに、農作業をしているときのほうが快の度数が高い傾向があるという結果も出た。

ラボではこの結果から「誰もが安心して生き生きと(のびのびと)快適に気持ちよく働ける安全な環境を、システムを通じて作り上げる」ことを目標に据えた。今後は支援者が危険に気づけるように、安心安全な農場づくりのためのITの活用法をさらに追求していく予定。メンバーからは「利用者だけでなく職員の安全のためにも使用したい」という意見も出ており、障害者に限らず農業に携わる多くの人が活用できそうだ。

企業を巻き込んだ販路開拓~ラボ03:ショップ~

3つ目のテーマは「ショップ」。福祉関係者には販売や営業を苦手とする人も多く、農産物や6次化商品の販路開拓は慢性的な課題だ。そこで「ノウフクでつながれる三方良しのマーケットを作る」ことをラボのビジョンに据えた。「三方」とは、ここでは「生産者」「販売者」「消費者」のこと。これらの目線から、農福連携で生まれた商品の販売促進やブランディングのため、「ノウフクならではの付加価値やストーリーの伝え方」を模索するラボだ。
メンバーには、ノウフクJASのキクラゲを使用したお好み焼きを提供している千房株式会社や、ファッションビル運営会社の株式会社丸井グループも参加。一般企業の立場から、実は農福連携で生産された農産物のニーズがあることも示されたという。
ショップラボリーダーの太田(おおた)みどりさんは、「単に農福連携の産品を買ってもらうだけでなく、まわりを巻き込む工夫が必要と分かった」と言う。そうした先進事例を持つ農福連携事業所の工夫もワークショップの中で共有された。

太田みどりさん。一般社団法人日本基金事務局として農福連携に関わっている

ラボの実証実験として2021年11月15日から30日まで新宿マルイ本館で「ノウフク・ラボショップ」を開催。ノウフク商品を購入する人の属性の調査やPOPの設置など販売手法を試す場にもなった。また、農福連携を知らない多くの人への広報の効果もあったという。

さらに、参加企業からは農福連携をアピールするにあたって「何がどこでどれだけ作られているのか分からないとアピールできない」との意見も出た。そこで生産物のリストや営業ツールを作り、だれでも農福連携商品の営業ができるようになることを目指している。

課題の先進地“ノウフク”だからこそ企業が関わる意味がある

ノウフク・ラボの活動に企業を巻き込めたポイントは、企業の知見を生かせるテーマがそこにあったことだろう。
太田さんは「農福連携は暮らしやすい世の中を作るための取り組みの一つ」としたうえで、「企業の皆さんにはSDGsやCSRに関する活動をしたいけれど、どうすればよいか分からないという課題があることが見えました。ノウフク・ラボがあることで『こんな形ならうちも協力できる』と、農福連携に関わっていただける呼び水になるのでは」と語る。

さらに、農福連携の現場の課題解決の手法は、農業全体への横展開も可能だ。ノウフク・ラボで生まれたさまざまな手法や製品が、農業、ひいては社会全体に貢献する日が来るかもしれない。

ノウフク・ラボ

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