全国から205団体が応募、優良事例として25団体を表彰
「ノウフク・アワード」は2020年に創設された農福連携の優良な事例を表彰する賞。表彰事業を通して農福連携事例を発信することで、農福連携の社会への浸透につなげることを目的としている。
2年目となる「ノウフク・アワード2021」では、障害者雇用による農業現場の整備で経営改善を行う「ユニバーサル農業」で知られる静岡県浜松市の京丸園株式会社と、農業生産と6次産業化で高い工賃を実現しつつ地域に根差した活動も行う京都府京田辺市のさんさん山城の2団体がグランプリに選ばれるなど、計25団体が受賞した。
今回は、新たに農福連携の取り組みを開始してから5年以内の団体が対象の「フレッシュ賞」と、高齢者や生活困窮者などと農業の連携および水産業や林業と福祉の連携など新たな取り組みをしている団体が対象の「チャレンジ賞」を新設。応募した205団体のうち90団体が、フレッシュ賞の対象となる団体だったという。
農福連携に期待される共生社会の実現
表彰式冒頭、主催者である農福連携等応援コンソーシアム会長の皆川芳嗣さんが挨拶に立ち、農福連携がまだ一般に浸透していない現状や普及のためのノウフク・アワードの意義について説明。さらに「ウクライナ情勢など共生の概念と逆行する世界の動きがある今だからこそ足元を見直して、より良い地域社会づくり、未来づくり、国づくりにつながる農福連携の取り組みを地道に展開していくことが必要」と述べた。
続いて各方面から録画で祝辞が寄せられた。金子原二郎(かねこ・げんじろう)農林水産大臣は、農福連携にかかわる人々が障害の有無に関わらず力を発揮し地域の大きな支えとなっていると農福連携の意義を強調した。続いて古賀篤(こが・あつし)厚生労働副大臣も、農福連携が共生社会を実現する取り組みであるとして評価。JA全中の中家徹(なかや・とおる)代表理事会長と経団連の佐藤康博(さとう・やすひろ)副会長も祝辞の中でそれぞれの立場から農福連携による共生社会の実現と農業の活性化に期待を寄せた。
表彰状とトロフィーの授与に続き、今回の審査委員長である東京大学大学院教授の中嶋康博(なかしま・やすひろ)さんが講評を行った。その中で「ノウフク・アワードは甲乙つけることが目的ではなく、農福連携による新たな知恵や気づきを社会に発展させていくために、そのモデルを皆で見つけて互いの経営の改善につなげることを目指している」とアワードで事例を共有することの意義を強調。そのうえで、全国の農福連携事業者に「アワードは応募することに意義がある」と次年度以降の参加を呼び掛けた。
また、農福連携の広報大使であるノウフクアンバサダーの城島茂(じょうしま・しげる)さんも表彰式に参加し、プレゼンターを務めた。受賞者へのお祝いのメッセージの中で城島さんは、農福連携関連の番組の収録などで多くの事業所を訪れた経験から農福連携の取り組みについて「それぞれの事業所でいろんな工夫をしていて、企業や社会が手本にしなきゃいけないんじゃないかと思うぐらい、人間が生きていくうえでの基本姿勢があると思う」と評価。さらに「農福連携の精神である『共生』は今、世界で求められている。その精神をこれからも伝えていきたい」と意気込みを見せた。
グランプリ団体が目指す「より良い農業」と「より良い社会」
表彰式後半ではグランプリ2団体による取り組みの紹介も行われた。
京丸園株式会社のユニバーサル農業
京丸園からは総務取締役の鈴木緑さんが登壇。GAP(農業生産工程管理)は「よりよい農業経営を実現する取り組み」であるとして、農福連携との親和性の高さについて説明した。GAPの一環として、どんな人でも働きやすい職場づくりとして5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底をしていることなどを紹介。「農業の中に障害のある人など多様な人がいることが当たり前になることを目指している」と京丸園が実現しようとしているより良い農業の姿について語った。
さんさん山城の地域社会とつながる力
さんさん山城からは、団体の立ち上げに参加し現在は農業管理責任者である植原優さんが、手話で発表を行った。「ろう者(聴覚障害者)が地域で元気に暮らせる場所」を目指す福祉事業所であるさんさん山城で、利用者が手話を誇りに思ってコミュニケーションに活用していることや、利用者も職員も互いに切磋琢磨しながら日々農業や農産物加工に懸命に取り組んでいることを紹介。「障害の有無・貧富にかかわらずみんな社会のメンバーです」と農福連携によるより良い社会の実現を訴えた。
障害の有無を乗り越える農福連携
最後のプログラムとなったトークセッションには、グランプリ2団体のほか審査員特別賞を受賞した3団体と農福連携等応援コンソーシアム会長の皆川芳嗣さんが参加。審査員の一人でJA共済総合研究所主席研究員の濱田健司(はまだ・けんじ)さんが進行役を務めた。
その中で、農福連携事業所ではベテランの利用者が新人職員に農業をはじめとしたさまざまなことを教える姿が見られるなど、障害の有無を越えた人の交流があることが話題に上った。また、農作業を通じて障害のある利用者の体力の向上や作業の熟練、精神的に落ち着くことによる投薬量の減少など、良い影響があるとの意見も。こうした「農の持つ福祉力」をより広く、障害のある人だけでなく引きこもりなど生きづらさを抱える人への支援にも生かしている事例も紹介された。
これらを受け、濱田さんは「これからは農福連携で地域づくりと共生社会の実現を目標としたい。また、食料安全保障の問題や農業での働き手の不足もあり、日本の食料を支えるのも農福連携の大きな使命になっていくのではないか」とコメントした。
ノウフクを浸透させる取り組みは続く
ノウフク・アワード2021は、農福連携の表彰事業としてまだ2年目の取り組みだったが、審査対象を林業や水産業に広げるなど第1次産業全体への広がりを見せた。世界情勢も不安定さが際立つ今、食料の価格高騰などもあり、農業をめぐる課題にも注目が集まっている。そんな中、地域で多様な人々が農業の担い手となることを可能にする農福連携の表彰事例からは、さまざまな課題解決のヒントが見えた。