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単為結果性で着果促進処理が不要! 低温期でも着果のよい超極早生の長卵形ナス「PCお竜」【春まき新商品解説】

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単為結果性で着果促進処理が不要! 低温期でも着果のよい超極早生の長卵形ナス「PCお竜」【春まき新商品解説】

春まき野菜の新商品について、育種のプロである大手種苗会社・タキイ種苗のブリーダーさんに紹介してもらいます。第1回のおすすめはナスの新品種「PCお竜(おりょう)」です。

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ナス生産の動向

ハウスにおけるナス栽培では、着果促進剤の施用(ホルモン処理)や、交配用のハチを用いた虫媒受粉による着果処理を行うのが一般的です。しかし、ホルモン処理は手間の掛かる重労働であり、交配用のハチも維持管理に労力が必要なことから、生産者の高齢化に悩むナス産地では、着果処理の省力化が課題となっています。そこで、タキイでは着果処理を必要としない「単為結果性」をもつナス品種の開発を進め、2017年には、その第1弾の成果として長ナス「PC筑陽」を発表しました。
新品種「PCお竜」は、1980年に発売された長卵形ナス「竜馬」に、単為結果性を付与した品種です。「竜馬」が長年栽培されてきた国内最大の冬春ナス産地の高知県で2018年から促成栽培での試作を実施し、既に単為結果性の高さには良好な評価を得られています。濃い黒紫色で首太の果実が着果処理なしに安定的に収穫できることが最大の特長で、営利栽培だけでなく、コンパクトな草姿を生かしてのベランダ菜園にもおすすめです。

「PCお竜」の品種特性

すぐれた単為結果性(関連特許出願済)

「PCお竜」の開花時の花には、通常品種よりも高い濃度のオーキシンが自然に含有されており、そのことがすぐれた単為結果性をもたらします。また、高温時期や厳寒期といった着果力が劣る時期であっても、安定して高い単為結果性を発揮できるようになっています。

コンパクトな草姿の超極早生種

「竜馬」と同様に、短節間で草丈が低いコンパクトな草姿で、葉が小さいため、冬場の少日照下におけるハウス栽培でも株のふところ側まで十分な採光性を維持することができます。また、側枝の発生は生育初期から旺盛で花の回転が早く、初期収量が多くなるのも特長です。

PCお竜側枝

側枝の発生が旺盛で花の回転が早いことから、次々と果実がつく(高知県にて11月初めに撮影)

奇形果が少なく高い秀品性を維持

従来品種によく見られるような曲がり果や奇形果が少なく、時期を問わず高い秀品率を維持します。また、果実は濃黒紫色でつやがあり、高温期の色ボケ果発生も比較的少ない品種です。

やわらかな肉質で幅広い料理に使える

果実の肉質はやわらかで、「竜馬」同様に幅広い用途で使用できることが特長です。果皮の歯切れもよく、漬物加工にも適します。

適作型

最適作型は6~8月まきのハウス冬春(促成)栽培です。また、半促成栽培や夏秋栽培も可能です。花の回転が早いという特性を生かし、小ナスどり栽培にも適します。

PCお竜小ナス

「PCお竜」は果色は濃黒紫色でつやがあり小ナスどりにも適している

PCお竜作型

栽培のポイント

根張りを促す本圃の準備

「PCお竜」は、そのすぐれた単為結果性ゆえ、開花した花はすべて着果肥大しますが、その反面、従来の非単為結果品種に比べ着果負担が掛かりやすいということになります。従って草勢の維持が最大の栽培ポイントになります。
草勢を維持するためには、生育初期にしっかりと根張りを促しておき、十分な量の水や肥料を吸収できるようにしておくことが大切です。圃場(ほじょう)づくりの際は、できるだけ深耕して十分に堆肥(たいひ)を施し、保水性を高めておくことで、根が張りやすい環境を整えるように努めましょう。

PCお竜着果

「PCお竜」は開花した花はすべて着果肥大するので、着果負担が大きく草勢の管理が最大のポイント

接ぎ木栽培が原則

接ぎ木は、土壌病害回避だけでなく、草勢維持のためにも有効です。「PCお竜」の着果力を最大限に生かし、良品多収をねらうためにも、接ぎ木栽培を原則としましょう。

適期定植と樹づくり優先の管理

単為結果性をもつ「PCお竜」の定植適期は、1番花のつぼみが膨らんできた状態のやや若苗の段階です。定植後しばらくの間は、根張りと樹づくりを優先させた栽培管理に努めます。もし活着不良や草勢低下に陥ってしまった場合は、適宜、摘花(摘果)を行い、過度な着果負担を避けます。

追肥がポイント

追肥は、最初の収穫果実が肥大しはじめたタイミングから開始し、以後は定期的に行います。草勢や収量に応じて、従来品種よりも日数間隔を詰めて追肥することが上作のポイントです。粒状肥料や液肥による施肥を基本として、低温期や根傷みで追肥が効きにくい場合は、葉面散布や発根促進剤を施用すると効果的です。摘葉は、草勢を見ながら従来品種よりやや遅めのタイミングで実施します。採光性を考慮して、通路側よりも、ふところ側の摘葉を優先します。

低温期の温度管理

加温機が備わるハウスでの栽培の場合、最低気温は12~13℃を理想とし、過度に低くならないよう注意します。また、湿度に関しては極端な乾湿を避け、ある程度高めの湿度を保ちましょう。

ナス比較表

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強い単為結果性

「PCお竜」と同様に高温時や厳寒期といった、着果力が劣りやすい時期であっても、安定的に高い単為結果性を発揮します。

高い秀品率

果形は、従来品種によく見られるような“果実の曲がり”が少なく、時期を問わず高い秀品率を維持します。また、果実の腹太りがよく、ボリューム感が出るのも特長です。

トゲの発生が少ない

収穫や選果の際、トゲがないことで傷果が減り、省力的に商品価値の高いナスが出荷できます。また、漬物などへの加工過程における傷の発生も減少することから、加工業者にとってもメリットがあります。

やわらかな肉質でおいしい

肉質がやわらかで料理の適応幅が広いのが特長です。特に炒め物などにすると、独特のとろみが出て食味のよさが引き立ちます。

PC筑陽

「PC筑陽」

(執筆:タキイ研究農場 河西 孝昭)

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