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しくじりから学ぶ販路開拓。規格外作物が物産展の人気商品になるまで

深江 園子

ライター:

しくじりから学ぶ販路開拓。規格外作物が物産展の人気商品になるまで

生シイタケの栽培が盛んな北海道でひときわ目立つ、「王様しいたけ」。手のひらほどもあるジャンボサイズとうまみの濃さが人気の理由ですが、市場の評価は「規格外」でした。自ら育てた作物の真価を信じて人気商品に育てた有限会社福田農園の福田将仁(ふくだ・まさひと)さんに、試行錯誤してわかったという価値の伝え方を聞きました。

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最高賞受賞の「王様しいたけ」を生んだ福田農園

福田農園_ハウス

規格に合わないという理由で流通に乗りにくいため、地元の直売所だけで細々と売られる農産物たち──。しかしその中には、ポテンシャルを秘めたものも多くあるかもしれません。
今では巨大なシイタケとして全国各地の北海道物産展でも人気となっている「王様しいたけ」も、生みの親である福田農園の福田将仁さんの努力がなければ、そんな農産物の一つになっていたに違いありません。
福田さんは市場の価格低迷に悩む中、国産菌床生シイタケのおよそ半分を占めるサンマッシュの全国品評会で最高賞を受賞したことをきっかけに、大きすぎるシイタケを「王様しいたけ」として打ち出し、人気の商品に育て上げました。その売り方には、直接消費者と接する物産展だからこそ学べる直販のテクニックが満載です。
福田さんがどのように困難を乗り越え販路拡大に成功したのか、農産物の魅力を余すところなく伝える方法を探ります。

◆福田将仁さんプロフィール

福田農園_園主 1972年函館生まれ。1994年に近畿大学農学部を卒業後、実家である福田農園に入社。シイタケの菌床栽培を研究し、王様しいたけを商品化。現在は農園代表を務める。

【福田農園紹介】
函館で野菜と米の専業農家をしていた父・昭利(あきとし)さんが、1972年に周囲でまだ行われていなかったキノコの菌床栽培を開始。2002年、キノコ栽培に良い環境を求めて、水源に恵まれた七飯(ななえ)町へ農園を移転。「王様しいたけ」の栽培法を確立し、2009年にシイタケの品質を競う「全国サンマッシュ生産協議会品評会」で最高賞「ゴールデンサンマッシュ賞」を受賞。100坪(約3.3アール)ハウス13棟で年商6000万円を上げている。2020年、農産物と加工食品のJAS有機認証取得。

福田農園_収穫

菌床で6カ月以上かけて大きく育てる王様しいたけ(写真提供:福田農園)

味を追求したら、シイタケが巨大化⁈

味の良さで知られる王様しいたけ。その栽培はどのように行われているのでしょうか。まずは栽培の秘密から聞いてみました。

──はじめに王様しいたけの紹介をお願いします。なぜこんなに大きいんですか?

シイタケ栽培で最も大切な水に恵まれた、七飯町鶴野地区の環境が根本になっています。ミズナラ材など地元の原料で菌床づくりを工夫し、ハウス内では温度・湿度の管理によって日本の森の四季を再現し、通常より栽培期間を長くして味の良さを追求していました。そんな時、偶然できた巨大なシイタケを友人知人に食べてもらうと、みんな「今までで一番おいしい」と。うまみが強く、分厚くてジューシー。これだと思い、5年がかりで大きなシイタケの栽培法を確立していきました。

──もともとの販売先は市場だったのでしょうか。

そうです。でも、自信を持って提案した巨大シイタケは、規格に合わないという理由で味を見る前にはねられてしまった。キノコ栽培に大手企業が進出して市場価格の低迷に悩んでいたこともあって、直販への転換を考え始めました。それだけに2009年、全国品評会で最高賞のゴールデンサンマッシュ賞をいただいたのは本当にうれしかったです。

直販の厳しさを知った物産展出店

おいしさは折り紙付きとなった王様しいたけ。めでたく東京で物産展デビューしたのですが、そこからが試練でした。そんなピンチの乗り越え方とは?

──最高賞受賞からいきなり百貨店デビューとのことですが。

受賞を知った行政区(渡島総合振興局)の担当者が農園に来て、日本橋にある百貨店のバイヤーに紹介されました。おいしいからと2010年の北海道物産展に声をかけていただいたんですが、何がどのくらい売れるか見当がつかないし、準備の仕方もわかりません。それで、バイヤーに「ギフト箱で1日100個かなあ」と言われるまま、開催期間7日分の700箱を一度に発送しちゃった。しかも、ギフト箱を平たくたたんだまま送ることも知らなくて、全部組み立ててから送ったので、送料もかかるしかさばるし大変。そうして迎えた初日はたった3箱、次の日は6箱しか売れなくて、さすがに焦りました。そもそも私、接客をしたことがなかったんですよね(笑)。

──そこからどうやって挽回していったんですか?

2日目の夜になって、「知らない商品をギフトに使ってくれるわけがないな」と考え直しました。それで、3日目は売り場を販売員さんに任せ、私は一日中バックヤードで商品を小分けに詰め直して、やっと少し売れ出したかな。この失敗以来、まず「お客さんの欲しいものは何か」を考える習慣がつきました。販路はまだ少なかったけれど、これを機に2011年、「王様しいたけ」を商標登録しました。ロゴも料理人の方が書いてくださって、この頃から王様しいたけをお客様に伝えやすくなってきました。

福田農園_催事会場

デパート催事やイベントの目玉としてフィーチャーされることも多い(写真提供:福田農園)

──次に取り組んだのは?

無名だけど味には自信がある。だから、催事は売れなくても構わない、たくさんの人に食べてもらうことだけに集中しようと決めました。おすすめの食べ方はみそ汁やホイル焼きですが、催事会場では見ればわかるバター焼きが人気です。試食を準備していると、お客さんが見ています。そうか、じゃあ切るところから実演しよう、他の食べ方も紹介しようと、お客さんの反応を見ながら毎日が軌道修正です。ついに1日3000人に試食してもらえるようになり、3年目にはうちを探して買いに来てくれるお客さんが増え始めました。

──接客経験ゼロだったのに、すごいですね。

口下手だからこそ、試食に力を入れたんですよ。池袋の百貨店でバター焼きを食べたお客さんが、「何これ、おいしい! 私の知ってるシイタケじゃない!」って言ったんです。びっくりしました。私はよそのシイタケを食べないから、よそと比べておいしいというお客さんの感覚を知らなかった。直販って面白いですよね。

──それから順調に伸びていったんですね。

実はそうでもないんです。日商10万円から20万円近くまでは回を重ねるごとに順調に伸びたのですが、その後、売り上げが伸び悩みました。そこで、商品にアンケートハガキを入れてみました。送ってくれた方には、次回出展のご案内ダイレクトメールを出す。ありきたりのようですが、1年後、同じ売り場に出展したとき、リピートのお客さんがグンと増えたんです。

──コロナ状況下で催事も中止になるなど激変しました。どう対応していますか?

感染防止のため試食ができない場合は、やさしい調理法を動画で撮って会場で流すなど工夫しています。安い商品ではないから、家に帰ってこんな料理、こんな盛り付けにしようというイメージが購入の決め手。そこを伝えるいい方法はないか、今も探しています。

──他にも売り場で学ぶことは多そうです。

面白いのは、出荷とは視野が全然違うことなんです。催事会場ではSMLの規格の違いはわかりにくい。そこで「特大」と「無選別詰め合わせ」の2種に変えたら、説明抜きで買ってもらえるようになりました。あとは、季節や場所で売れ筋も違うし、イベントなので想定外のハプニングもつきものですから、それで柔軟性が鍛えられたかもしれません。

福田農園_王様シリーズ

売り場で選ぶ楽しみを増やすため、王様しいたけの栽培技術を生かしてジャンボサイズのタモギタケやナメコも栽培し、「王様シリーズ」に

食のプロとコミュニケーションする農家へ

今では北海道のみならず都心のレストランでも採用されるようになった王様しいたけ。飲食店という新たな販路の築き方や、シェフとの付き合い方についても話を聞きました。

──高級食材としてレストランで採用されていますね。

きっかけは、函館のシェフが開いている「世界料理学会 in HAKODATE」というイベントです。毎回全国の有名シェフが発表に来られ、それに合わせて行政の産地ツアーも行われるようになって、来てくれた料理人の方々と知り合いました。その後は、シェフからシェフへご紹介いただいて。それまで知らなかったんですが、料理の世界って修業とか世代とかのつながりがとても強いものなんですね。SNSで問い合わせをいただくこともありますが、それよりも個人的なご紹介のほうが安心ですし、とてもありがたいです。

──シェフたちとのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

私は飛び込み営業的なことができないタイプなので、飲食店の方と知り合うのは催事会場や商談会に限られます。催事に飲食店の方が来られて名刺交換することもありますが、そういう時すぐサンプルを送るのでなく、後日お礼のメールで「ぜひ農園に来てください」とご案内します。食のプロには価格の理由を伝えないと、納得してもらえない。だから栽培環境を確かめてほしいんです。今おつきあいしているシェフのほとんどが、農園見学に来てくれた方です。2020年に有機認証を取得した時は書類作成などが大変でしたが、これも王様しいたけの自己紹介としてわかりやすいようです。王様しいたけをメニュー名にするなど大切に使っていただける飲食店で品切れを起こしてはいけないので、今のところ既存のお取引先からのご紹介に限らせていただいています。

農作物が、シェフの創作意欲を刺激する

福田さんがシェフ一人一人と顔の見えるつきあいを重ねる中、王様しいたけは東京の恵比寿にある一つ星イタリアンレストラン「TACUBO(タクボ)」で採用されます。さらに姉妹店のバーガービストロ「バーガーポリス」では、王様しいたけを主役に据えた「王様しいたけバーガー」が登場してSNSで話題に。

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ゴルゴンゾーラチーズのソースをたっぷり吸い込んだ王様しいたけが主役のバーガー(写真提供:東京・碑文谷「バーガーポリス」)

王様しいたけを採用しているフレンチレストラン「クリマ」(北海道北斗市)の関川裕哉(せきかわ・ゆうや)さんは、シェフの中でも一番に福田農園に見学に訪れたそう。「肉厚で料理のメイン食材になるほか、ピュレにすれば肉のうまみを倍増させるソースになるなど、豊かなうまみが魅力。単なるキノコでなく調味料のように広がりのある使い方ができるので、創作意欲が湧きます」と王様しいたけの魅力を語ります。

さらに関川さんは福田さんとの関係についてこう話してくれました。「生産者として尊敬していますが、いいことも悪いことも言い合えるフラットなおつきあい。互いになくてはならないし、共に頑張る。そうした気持ちがたぶん言わなくても伝わり合うから、続いているんだと思います」

福田農園_クリマ料理

フレンチレストラン「クリマ」ではシイタケのうまみを生かした料理が人気だ(写真提供:クリマ)

人と出会うことに次のヒントが

王様しいたけを通じて多くの人に出会った福田さん。その体験一つ一つが探究心のもとになり、今につながっていると話します。

──では福田さん、これから直販に取り組む生産者へアドバイスを。

外販をする時は、できれば一度、経験者と一緒に参加してみてください。私の時は教われる人がいなくて苦心したので、知人が初出展するとついお節介してしまいます。バックヤードはこっちですよ〜なんて……(笑)。
商談や接客、シェフとの出会いなど、人に会うことには何かしら次のヒントがあります。そして、はじめは大変でも、回を重ねるごとに現場に対応できるようになります。
経験ゼロの私でもやってこられたので、まずは挑戦してみてください。私もさらに工夫していきます!

福田農園

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