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相場に左右されない仕組みとは。ナガイモ産地のけん引役に聞く

窪田 新之助

ライター:

相場に左右されない仕組みとは。ナガイモ産地のけん引役に聞く

国内有数のヤマノイモ(ナガイモ)産地であるJAゆうき青森(本所・青森県東北町)。そのけん引役の農業者が注力するのは、ヤマノイモ「ネバリスター」と加工用キャベツの契約栽培の拡大である。「相場に左右されない農業経営を産地とともにつくりたい」と語るおとべ農産合同会社の代表・乙部英夫(おとべ・ひでお)さん(60)に話を聞いた。

売れると直感した「ネバリスター」

おとべ農産の冷蔵施設

「これは売れると直感しましたね」。乙部さんは同JAながいも部会の部会長だった2005年に「ネバリスター」と出会った時の印象をこう振り返る。
同品種はカネコ種苗株式会社がナガイモとイチョウイモを交配して、育成した。当時はまだ品種名が付いておらず、乙部さんは同社から試験栽培を持ち掛けられたところだった。

試験栽培をする決め手となったのは、食べて驚かされたからだ。「とにかくおいしかった。糖度はナガイモが5.5から6なのに対して、ネバリスターが8から10。おまけに煮崩れしない。当時主力の一つだった品種が栽培しにくくなっていたので、代わりにネバリスターにかけようと思った」(乙部さん)

乙部さんは一人で3年かけてネバリスターを試作して、栽培マニュアルまで完成させた。同時に探し始めたのは販路。ただ、いずれの相手からも通年で出荷することを求められた。そこで自社の冷蔵庫で長期保管できるかを試したところ、夏場まで出荷できることが分かった。

すぐに周囲の2農家と「ネバリスター生産組合」を設立。乙部さんは生産量を増やして、関東地方を手始めに取引先を広げていった。現在は経営面積が30ヘクタール(うちネバリスターは7ヘクタール)のおとべ農産合同会社を含めて13戸が会員となっている。

市場出荷のためJAに生産部会を設立

中でも最大の取引先は「お好み焼き」の冷凍商品を製造している加工業社。その業者がコンビニ向けに製造するお好み焼きにはすべて、同組合が生産したネバリスターが使われている。

市場からも注文が入るようになった。ただ、おとべ農産合同会社では大型の冷凍庫や洗浄機などの設備がそろっていない。そこでJAに掛け合って、ネバリスターを作る農家の生産部会「ネバリキング出荷組合」を設立。JAの設備を利用して市場に出荷する仕組みを作った。
こちらの出荷組合も乙部さんが代表を務め、先ほど触れた栽培マニュアルに基づいた営農の指導から販路の開拓までを手がけている。

取引の条件は再生産できる販売単価

「ネバリスター生産組合」と「ネバリキング出荷組合」に共通しているのは販売単価を固定している点だ。1キロ当たりの単価は直接販売が380円、市場出荷が350円(いずれも税別)。「販売単価は再生産価格を踏まえて決めた。どの取引先ともこの単価でやっている。農家にすれば市場に左右されず、努力をして収量を上げるほど儲かる。産地をつくるには、こうした仕組みが必要だね」と乙部さんは説明する。

加工用キャベツの産地化も進める

乙部さんはネバリスターでの実績を踏まえて、加工用キャベツの産地化も進めている。きっかけとなったのは、先ほど紹介したお好み焼きの加工業者からの依頼。ネバリスターの品質を評価されたことから、同じくお好み焼きの原料となるキャベツの出荷も求められた。

キャベツでも販売単価を1キロ当たり42円(税別)で固定して、契約することにした。10アール当たり7トンの収量を上げれば、売り上げは30万円程度になる。輸送費は加工業者持ち。生産費は約8万円なので、20万円以上は残る計算になる。
おとべ農産合同会社としてキャベツでも実績ができた段階でJAに産地化を持ち掛けた。JAも生産部会「加工キャベツ協議会」を設立。こちらも販売単価を固定して取引を広げ、いまでは加工業者20社に出荷しているという。同協議会の会長は乙部さんの息子の暁(さとし)さん(34)が務めている。

労働力不足の中で期待するスマート農業

ロボットトラクターと自動操舵装置を備えたトラクターによるヤマノイモの収穫(画像提供:青森県)

ネバリスターも加工用キャベツも出荷量の面で需要に応えきれていないので、生産を拡大していきたい。その際に課題となるのが労働力不足だ。高齢を理由に離農する人が増えているので、農地を借り受けて生産面積を広げている。ただ、雇用を確保するのが難しい。これまで外国人技能実習生に頼ってきたものの、コロナ禍で新たな実習生が来日できないでいる。

その中でいま期待しているのは「スマート農業」。農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト」に採択されて、2019年度から2年かけて無人のまま走行するロボットトラクターのほか、人が操縦しなくてもトラクターが自律走行する装置を試験的に導入した。

通常、ヤマノイモを収穫する際、まずはトラクターでトレンチャー(溝掘機)をけん引して土ごと掘り上げる。後ろから人がヤマノイモに付いた土を払って並べていき、さらにその後ろから別のトラクターが鉄コン(鉄製コンテナ)を載せたトレーラーをけん引しながら追走する。トレーラーの脇には複数の人が付いていき、ヤマノイモを拾い上げては鉄コンに入れていく。

掘り上げたネバリスターを鉄コンに入れる作業(画像提供:青森県)

おとべ農産ではこれら2台のトラクターについて、ロボットトラクターと自律で走行する装置を取り付けたトラクターに替えた。乙部さんは「省力の効果は十分に出ている。ウチをモデルにして、産地に同様の取り組みが広がればうれしい」と話している。

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