害虫をレーザー光で狙い撃ち?! 飛翔するハスモンヨトウ迎撃システム|マイナビ農業
マイナビ農林水産ジョブアス 4.21サイトリニューアル さがそう。地球とつながる仕事 マイナビ農林水産ジョブアス 4.21サイトリニューアル さがそう。地球とつながる仕事 閉じる

マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 害虫をレーザー光で狙い撃ち?! 飛翔するハスモンヨトウ迎撃システム

害虫をレーザー光で狙い撃ち?! 飛翔するハスモンヨトウ迎撃システム

害虫をレーザー光で狙い撃ち?! 飛翔するハスモンヨトウ迎撃システム

温暖湿潤気候であるため病害虫が発生しやすい日本。病害虫による被害を防ぎ、高品質の農作物を育てるには、化学農薬に頼らざるを得ない場合もあります。しかし農薬への抵抗性害虫の出現により、根本的な防除方法の改革が必要とされています。そんな中、農研機構が「レーザー光による防除方法」を開発中とのこと。このレーザー光は害虫対策に悩む農家にとって光明となるのでしょうか。
上画像提供:農研機構

害虫とのイタチごっこに終止符? 化学農薬のみの防除から脱却

筆者は自宅で直売所を営んでおり、栽培した野菜は全て自分の手で売っています。お客さんは多少の虫食いには理解があるものの、やはりきれいな見た目の野菜が売れます。以前農協のマーケットなどに卸していた時はさらにその傾向が顕著で、売り上げにならないほどでした。どうにかして害虫の被害を抑えようと化学農薬の種類を変更したり、コンパニオンプランツを利用するなどさまざまな対策をしましたが、駄目なときは何をやっても駄目。特に天候が悪く畑に出られない日が続いてしまうと、あとに残るのは虫が食い散らかした“野菜だったもの”だけ……。

キャベツ虫食い

こんなふうにキャベツを虫に食われてしまった経験のある人も多いのでは(画像はイメージです)

ハスモンヨトウ孵化幼虫

葉を裏返すとハスモンヨトウの卵が!(画像提供:農研機構)

害虫防除を徹底しないと作物が売れないという現実的な問題がある限り、化学農薬を避けることは筆者にはできません。しかし今使っている農薬も抵抗性害虫の出現でいずれ使えなくなってしまうかも……。

なにか良い手段はないか考えていたところ、「空を飛ぶ害虫をレーザーで撃ち落とす」装置を開発中との情報が!
レーザーで農作物を守るなんて、まるっきりSFの世界です。スター・ウォーズやガンダムのように巨大でメカメカしい世界観を期待してしまいますが、実際どのような装置なのでしょうか。

レーザー光による防除技術を開発した農業情報研究センターAI研究推進室ユニット長の杉浦綾(すぎうら・りょう)さん、植物防疫研究部門の中野亮(なかの・りょう)さんと渋谷和樹(しぶや・かずき)さんにお話を聞きました。

中野さんと渋谷さん

左:中野さん 右:渋谷さん

杉浦さん(画像提供:農研機構)

まるでSF? 飛ぶ虫をレーザー光で迎撃

日本の各地に研究機関を持つ農研機構は、ありとあらゆる農畜産業の課題を解決するため日夜研究に取り組んでいます。いわば日本農業界の要であり、レーザー光による害虫防除技術も茨城県つくば市にある農研機構の研究所で開発されています。

研究所

この研究所で防除技術は開発された

レーザー光で空中を飛ぶハスモンヨトウを狙い撃つというまるでサイエンスフィクションのような技術は、一体どのような経緯で誕生したのでしょうか。

「青色LEDが殺虫に効果があるのはわかっていました。ですが広い圃場(ほじょう)全体を照らすように強い光を照射するのは難しく、実用化のネックになっていました。そこでLEDに代わるものとして、レーザー光を用いることを思いついたのです」(渋谷さん)

LED光による防除は物理的防除の一つとして知られています。神奈川県川崎市にある梨農家では黄色LEDを設置し、シンクイムシ対策に用いているという事例も。ただ、都市部では畑が住宅やマンションなどに囲まれていることも多く、光害を気にしてなかなか設置に踏み切れないという人も多いのでは? 
筆者も川崎市で露地栽培を営む身で、近隣への配慮は欠かせません。レーザー光による防除は解決策の一つとなるのでしょうか。

関連記事
生物農薬って本当に効果ある? 都市農業の現場での実態とは
生物農薬って本当に効果ある? 都市農業の現場での実態とは
近ごろ、持続可能な農業という言葉をよく聞くようになりました。環境に優しい農業を行い、土地や資源を守り、後世へ伝えていこうという考え方です。その手法にはさまざまなものがありますが、特に注目したいのが生物農薬の利用。これはI…

たった0.03秒! “未来位置”を予測して狙い撃つ

この技術は一定範囲内のハスモンヨトウの成虫をカメラで検出し、目標をレーザー照射で狙撃するという仕組みです。成虫を殺すことで幼虫の発生を防ぎ、食害などの被害を防ぎます。いわゆる物理的防除の一つで、これなら抵抗性害虫を生じさせる危険もありません。

ハスモンヨトウ_幼虫

ハスモンヨトウの幼虫による食害(画像提供:農研機構)

実験機材

暗い実験室に置かれた特殊なカメラ

カメラアップ

このカメラでハスモンヨトウの飛行パターンを撮影する

暗室に設置された機械は、ハスモンヨトウを撮影するための高精度なカメラです。このカメラでハスモンヨトウの飛行パターンを撮影し、検出してすぐレーザーを目標に向けて照射します。
しかしこの「検出してすぐ」というのが難しい課題だったそうで、解決までかなり苦労したと杉浦さんはいいます。

「虫は素早くあたりを飛び回ります。まずカメラで撮影すること自体困難でした。暗い空間を飛び回るハスモンヨトウはなかなかカメラに写ってくれません。写ったとしても一瞬で、安定して撮影できるようになるまでかなり苦労しました」

一日がかりの撮影を何度も繰り返し、ようやく安定して撮影ができるようになった研究チーム。ですが、喜ぶ間もなく新しい課題に直面します。

撮影操作

撮影の操作をする中野さん

「虫は静止しないので、たとえカメラで見つけても次の瞬間には他の場所へと移動してしまい、レーザーを当てることは困難です。そのため飛行パターンを予測し、未来位置に向けて照射をする必要がありました」(杉浦さん)

杉浦さんによると虫の飛行位置を機械で処理し、実際にレーザーを撃ち出すまで0.03秒かかります。その0.03秒というわずかな瞬間でも、ハスモンヨトウは自身の体長と同じくらい(2~3センチ程度)の距離を移動してしまうというのです。これではレーザーを撃ったとしても当たるはずがありません。

この問題を解決するため、研究チームは独自のプログラムを作り上げ、0.03秒先の虫の位置を予測できるようになり、命中率も現実的なものとなりました。
ほんの一瞬を調整するために、何度も何度もトライアンドエラーを繰り返したという研究チームの技術開発にかける情熱の高さを感じます。

模式図

予測した位置にレーザーを照射できる(画像提供:農研機構)

農家にとってのメリットは?

露地栽培の農家も利用可能に

今のところ、撮影実験は研究所の室内で行われています。しかし実際の農業現場ではハウス施設のみならず、屋外での活用も想定しているといい、杉浦さんは次のように続けました。

「屋外は風が吹くので葉が揺れ、虫をカメラで捉えるのが難しくなります。また空気中のゴミや益虫、人影など、さまざまな情報がノイズとしてカメラに写り込むため、その中からハスモンヨトウのみを狙い撃つには、さらなる工夫が必要になります」

撮影画面

PC画面は実際のカメラで撮影した様子

乗り越えなくてはならない課題は山積みですが、今後は屋外での試験も順次行っていくとのことです。これまでのところ、生物農薬など先進的な防除方法は栽培施設での活用を想定したものが多く、露地栽培専業の農家にとっては障壁が高く、導入しづらい状況にありました。筆者も露地であることがネックになってしまい、「ハウス設備があればなあ」と思うことが少なからずありました。ですがこの技術は屋外でも効果を発揮する予定とのことで、なかなかハウスまで手を出せない農家にとってはありがたい新技術になるのではないでしょうか。もちろんハウス設備でも同技術は活用できるとのことで、商品化された際にはさまざまな農業現場で目にする機会がありそうです。

有機栽培への挑戦にもつながる

研究チームは屋外でも効率よく防除ができるように、レーザー照射装置を自立走行するロボットなどに搭載するつもりだといいます。この自動防除装置によって「畑にいない間も害虫防除が可能になり、化学農薬の散布量・散布回数を減らすことができる」(渋谷さん)など、畑の規模が大きければ大きいほど労力の削減や農薬暴露回避などの恩恵を得られるようになるでしょう。

労力の削減は人件費のコストカットにもなり、家族経営においても農業法人においても利益率を高めることにつながります。もちろん装置自体のコストも考えなくてはいけませんが、長い目で見た時にはメリットになるのではないでしょうか。

また同技術によって農薬の使用量を抑えられれば、輸出用作物を栽培している農家にとっては、相手国の残留農薬基準をクリアしやすくなるなどのメリットも。使い方によっては有機栽培などの難度の高い栽培方法へのチャレンジも期待できます。

高く作物を販売することができる有機栽培は非常に魅力的な栽培方法ですが、その難度はかなりのもの。筆者も過去、挑戦しようと勉強しましたが挫折した思い出があります。レーザーによってハードルが下がるのであれば、ぜひまた挑戦したいところです。

人体への影響は? 農業現場で使用する際の注意点

レーザーの出力は人の体にあたったとしても無害なレベルに調整されていますが、それでもレーザー光を直視してしまった場合は危険になる場合もあるといいます。安全に装置を使うためには、一体どのようなことに注意を払う必要があるのでしょうか。

「そもそも安全措置として、人を認識した場合レーザーが射出されないように設計する予定です。またレーザーは虫に当たるよう調整されているので、それより後方へ強度の高い光線が飛ぶことは基本的にはありません」(渋谷さん)

現在想定されているロボットに搭載する形の場合、レーザーは地面から空中の目標に向かって斜めに照射されます。そのため、平面上にいる人や障害物などには当たらないようになっています。
もし当たってしまった場合も、レーザー照射は一瞬で、その程度の照射時間では服や枯れ木が焼け焦げるような状態にはならないとのことでした。

レーザー照射

空中の目標に向かって斜めにレーザーが照射される(画像提供:農研機構)

もちろん使用者側の安全措置として、防除を行う時間帯は従業員や部外者の立ち入りを制限するなど、基本的な対策は必要となります。
もっとも、一般的な化学農薬散布の場合も、作業に関係のない人を近寄らせることはありませんから、これまでしっかりと管理をしていたという人には難しい話ではないでしょう。

安全対策のために何か特別な設備が必要というわけではないので、かなり使い勝手は良さそうです。圃場が住宅街の中にあるといった場合でも、周辺に簡単な囲いを用意したり、背の高い作物で囲むように畑の調整をしたりすれば十分使えそうです。

今後の展望とまとめ

レーザー光によるハスモンヨトウの防除技術はまだまだ実験段階にあります。実際に商品として流通するのはまだ先の話ですが、研究チームは既にその先を見据えています。

「現在はハスモンヨトウだけが防除対象ですが、飛行パターンの研究が進めば他の虫に対してもレーザー照射ができるようになると思います。害虫だけでなく益虫の区別もつくようになれば、さらに使いやすい技術として提供できるでしょう」

渋谷さんがそう話すように、虫ごとに処理を自分で設定できるようになれば、使いみちが広がります。例えばマルハナバチやテントウムシが飛び交う圃場で、タバコガやアブラムシだけを狙い撃ちにしたりするなど、さまざまな組み合わせで防除ができるようになれば、減農薬栽培へぐっと近づきます。

ただ、同技術はあくまで農薬以外の防除方法の一つであり、これで全てをまかなえるわけではありません。農薬の使用も含め、総合的に防除をしていく必要があります。既に商品化が予定されている振動による防除など先進的な方法を組み合わせれば、より効果的な防除ができるようになるかもしれません。

農家にとって害虫防除はシビアな問題で、すぐさま化学農薬をゼロにすることは現実的ではありません。ですが抵抗性害虫など将来のことを考えると先進的な防除を取り入れ、徐々に化学農薬以外の防除方法も充実させていかなくてはならないと思います。筆者も自分だからこそできることを考えて、防除に取り組んでいきたいです。

関連記事

タイアップ企画

カテゴリー一覧