ライフアドバイザーの年収の半分をまかなえる
JA越前たけふは損害保険について、2016年8月から同JAの子会社である株式会社コープ武生(たけふ)で、2017年1月から同JAの店舗で扱い始めた。さらに2019年6月からは同JAの店舗で生命保険の販売も手がけている。それぞれ損害保険ジャパン株式会社とSOMPOひまわり生命保険株式会社の代理店となり、販売する資格を得た。
2021年度にはこれらの保険の代理店としての収入が7500万円に及んだ。同JAでは、共済・保険商品を専門に営業する「LA(ライフアドバイザー)」と呼ばれる職種の人数は27人。「改革派」とされる同JAを組合長として4期12年間にわたってけん引してきた冨田さんは、「LA全体の年収のおよそ半分を保険の収入でまかなえていることになる」と、その成果を語る。
満足度を高めるため「選択肢を増やしたかった」
同JAはそれまではほかのJAと同じように、JA共済連が企画・開発をする共済商品と、JAの前身である産業組合によって設立された共栄火災海上保険株式会社の損害保険だけを販売していた。農業協同組合法ではJAも民間の保険商品を扱えるようになっているが、実際に販売しているのは全国でも異例だ。民間の保険を扱うことを決めた理由について、冨田さんは取材中に何度もこう説明した。「組合員に対して提案できる選択肢を増やしたかったんです」
概してJAの共済商品と保険会社の保険商品とは商品の設計に多少の違いがある。たとえば自然災害に遭った建物を補償する商品については、JAの共済商品は積み立て部分が大きく、それだけ掛け金が高い。一方の保険商品は掛け捨てなので、掛け金が安い。この違いについては、ほかの商品についてもいえることだ。
こうした違いを踏まえながら、組合員の要望に合わせてきめ細かな商品の提案ができるようになれば、結果として販売の機会を喪失することを減らせる。ひいては低迷する金融事業の回復にもつながると考えたのだ。
JA越前たけふが共済・保険商品の選択肢を増やすことにしたのには、組合員の世代交代が進んでいることも大きく影響している。「農協が事業をしている地域が都市化して、農家と非農家の混住が進んできました。おまけに農家でも交代した世代の人たちが農業をせず、別の仕事に就くようなことも増えています。そのような変化の中で、組合員全体としては、なんでもかんでも『JA一本』という感覚が希薄化してきました」(冨田さん)
かつてはJAが商品やサービスを提案すれば、すんなりと購入してくれる組合員が多かった。ただ、組合員の世代交代と非農家化が進み、「JA一本」という意識を持つ組合員が少なくなった。
そうした環境の変化への対応として、JA越前たけふが出した結論こそが、「組合員の満足度を高めるための選択肢の拡大」なのだ。冨田さんは「買い物をしても品ぞろえが少ないと寂しいのと同じで、共済と保険をいろいろと比較をしながら、いずれかを選択してもらえるようにしたかった」と振り返る。
共済事業の落ち込みは、損保と生保で埋められる
では、JAの共済商品と保険会社の保険商品を扱うようになったことで、収入はどう変化したのか。SOMPOグループの保険商品を販売することでの収入が新たに発生し、しかもその数字は毎年伸びている。
民間の保険商品を扱うようになったことで、JAの共済商品の売り上げが以前よりも落ち込んだかといえば、そんなことはない。これは、共済商品だけを扱っていた時には取りこぼしがあったと見ることができるという。冨田さんは「選択肢をつくることで利用者の満足度が高まり、全体の底上げにつながっている」と語り、今回の試みを次のように結論づけた。「全国的なJAの共済事業の落ち込みは、損保と生保を扱うことで埋められる」
JA越前たけふの試みは珍しいようで、ほかのJAから視察の申し込みが少なくない。ただ、実際に民間の保険商品を扱い始めたJAがあるという話は、いまのところ聞こえてこない。