農地の借り手を公募する制度を廃止
農水省は農地バンク制度を2014年に創設した。都道府県ごとに設置した農地バンクが地権者から田畑を借り受け、農地を借りたい人に貸す仕組み。当時すでに高齢農家の引退が加速し始めており、市町村の枠を超えた広い範囲で農地の貸し借りを進めるべきだとの発想が背景にあった。
その目玉として導入したのが、公募制度だった。農地を借りたい人が、栽培を予定している作物や必要とする面積などの情報を農地バンクに登録する。これを踏まえ、農地バンクは地権者から預かった農地を転貸する。
政府内では当時、農業への新規参入をもっと促すべきだという意見が強かった。既存の農家や農協に任せていたのでは、農業は活性化しないという考え方だ。新規参入の候補として、企業に期待する声も多かった。
誰に農地を転貸するのか決めるのは農地バンクで、地権者の承諾を必要としないのが特徴。地権者にとっては「白紙委任」ともいうべき新たな手法を導入した。農林中金総合研究所の主任研究員の小針美和(こばり・みわ)さんは「競争入札的な発想をベースに制度が設計された」と指摘する。
今後はこうした仕組みを抜本的に改める。まず市町村が農業委員会、農家、農協、農地バンクなど関係者と広く協議し、農地の効率的な利用を目指して「地域計画」をつくる。計画は地域の農業のあり方を提示したうえで、将来的にどの農地を誰が利用するかを地図で示す。情勢が変われば計画を見直す。
狙いは、農地の使い方を関係者の協議で決めるようにすることにある。これに伴い、農地バンクの公募の仕組みは廃止する。地域計画があるため、農地バンクが農地を貸す相手を広く一般から募る必要がなくなるからだ。
農水省はこの制度改定を実現するため、農業経営基盤強化促進法など関連法の改正案を通常国会に提出した。4月27日時点ですでに衆議院は通過しており、今国会で成立し、2023年4月に施行される見通しだ。
農地バンク制度と農地貸借の実態とのズレ
いくつかの点で制度は見直しになるが、農地バンクが必要なくなったわけではない。農地の集約に伴い、一人の農家が大勢の地権者から農地を借りる例が珍しくなくなっているからだ。100人を超すことさえある。
農地バンクを利用すれば、借り手にとって賃貸借の契約は原則として一つですむ。各地権者との賃料の交渉や入金などの業務は農地バンクが担う。地権者と借り手の間に位置する組織の意義は今後ますます高まるだろう。
ではなぜ制度を見直すのか。