ベテラン農家で3年間研修して就農、最も苦労したことは
彦田さん夫婦が借りた農地の面積は1.5ヘクタール。2021年3月に10棟のハウスを建て、そのうち8棟を使って栽培を始めた。最終的にはハウスの数を合計で30棟に増やす予定。イチゴ農家としては大規模の部類に入る。
真吾さんはもともと大手鉄鋼メーカー系の商社に勤めていた。その会社が農業分野のシステム開発を手がけるベンチャー企業に出資した。担当者になった真吾さんはその関連で、茨城県鉾田市のベテランのイチゴ農家、村田和寿(むらた・かずとし)さんと知り合い、農業に引かれるようになった。
最初は農業に関する知識を仕事に生かそうと考え、週末に村田さんの農場を訪ねて栽培を手伝わせてもらっていた。そのうち「自分も農家になりたい」と思うようになり、会社をやめて村田さんのもとで研修に入った。イチゴの栽培や選果の方法、収益管理のノウハウなどをじっくり学んだ。
最も苦労したのは、農地の確保だ。本来は村田さんと同じ鉾田市で就農したいと思っていた。だが農業が盛んな地域のため、新規就農者が借りることのできる農地はなかなか出てこない。そこで研修期間中、茨城県内を中心に自治体の就農窓口や農業委員会を訪ね、農地について相談して回った。
その結果、3年かけてようやく借りることができたのが常陸大宮市の農地だ。後継者のいない高齢の4人の農家の畑で、1.5ヘクタールが1カ所にまとまっていた。見つけるのに時間はかかったが、就農者の多くが分散した狭い畑しか借りることができないのと比べ、好条件でのスタートと言える。
ハウスを建てる資金は、日本政策金融公庫から借り入れた。新規就農者が公庫から低利の長期資金を借りるには、市町村から就農計画の認定を受けることが条件になる。匠(たくみ)の農家として知られる村田さんのもとで研修したことは、計画が適正なものだと認めてもらううえで力になった。
最初の収穫で抱いた冷静な感想
では就農から1年間をふり返ってみよう。まず2棟のハウスで育苗を始め、9月に栽培用の6棟のハウスに移して定植。11月下旬から収穫を始めた。収穫はこの後、5月いっぱいまで続く見通しだ。10棟のうち2棟を使わなかったのは、初年度は2人で作業したため、作業量に限界があったからだ。
気を使ったのは、栽培に使う水の温度だ。川から引いた農業用水があるため、水に困る心配はなかった。だが村田さんが使っている井戸水とは違い、川の水は温度が安定せず、冬には大きく下がる懸念があった。