農地の集約化と基盤整備に向けて
西部開発農産は、地域農家の稲作からの転作を先代が受託したことから1986年に設立された。設立当初は課題も多く苦労したが、会社としての評判が高まるにつれ、管理を依頼される圃場が増えていった。
「会社を信頼して農地を預けてくれた人たちと、北上の自然に感謝しなさい。そしてどんな農地でも引き受けなさい」。この先代の言葉を守る同社社長の照井勝也さんは、生産効率には目をつぶり、条件が悪い農地でも離農者から引き受け、圃場を拡大してきた。
現在は農地の集約化と基盤整備を進め、生産性を上げることを目下の課題としており、課題解決に向けたスマート農業を積極的に取り入れている。
圃場管理システムを活用
「圃場管理アプリが非常に役立っています。目標物の少ない農地の場合は、どこからどこまでが自分の農地なのか管理が難しく、紙ベースで管理していた時には、他の農場の圃場に播種(はしゅ)や追肥をしてしまったりすることがしばしば起きていました」と照井さんは言う。
使用ユーザーの位置を基点に圃場情報を表してくれる圃場管理アプリは、歩きながら自分の圃場の位置を確認できるため、場所の取り違えは激減したという。それぞれの圃場をタップすれば、地権者、地名地番、面積、作物品種、畦畔(けいはん)率などの土地情報一式が出てくるため、照井さんのように大規模農場を経営する者にとってもはや欠かせないシステムだ。同社はこのアプリで実証実験を行いながら、より使いやすいツールにするべく、現在メーカーと調整を重ねている。
そして西部開発農産は、さらなる効率化に向け、同規模の大農場との圃場交換も行っている。
それぞれの農場が管理する圃場が入り組んでいる場合、耕作地がつながっていないために大型機械の出し入れを頻繁に行わなければならない。加えて狭い道での大型機械のすれ違いは時間がかかり、非効率きわまりない。農地交換することで、そういった非効率な作業からも解放されるようになった。
「紙ベース管理だったらできなかったことです。農地交換を目的に、文字や数字で圃場を説明してもピンと来ず、相手にうまく伝わらない。アプリなら画像などで情報を立体的にその場で伝えられますので、イメージしやすく話がまとまりやすい。逆に提案された場合でも、交換に適した農地を画面上ですぐに探せますから、話が早いんです。交換先とWin-Winの関係を保てるよう、農地の交換を積極的に進めています」(照井さん)
現在、同社をはじめとする北上市周辺の大規模農場では、農地の賃借料を同一料金にするなど、スムーズな圃場交換に向けた規格の統一化を図っている。
小さな圃場を合筆する秘策、衛星測位システム
西部開発農産は平地だけでなく中山間地域にも小区画の圃場を多数管理している。しかし、小さな農地では大型機械での効率的な作業は難しい。
そこで、傾斜地にある多くの小規模な圃場を合筆して1つの圃場として効率化を図ることにした。この時に活用したのがRTK-GNSSシステムだ。これは人工衛星を利用した測位システムで、リアルタイムでセンチ単位の測量を行うことができ、高低差も測れる。これにより圃場に緩やかな傾斜をつけて排水対策を行い、生産性の高い農地へと土地を改良している。
また収穫時には、収穫量を自動測定し、圃場ごとに算出できる「収量センサー付きコンバイン」を使用。それぞれの圃場の収穫量をチェックし、より効果的な施肥を設計することで収穫量の向上を図っている。
スマート農業で省力・省人化
農地の集約・基盤整備と併せて、省人化も進めている。同社は、スマート農業による省力・省人化で、同じ労力による作業面積の25%アップを目指している。
ドローン
省力化に貢献しているのがドローンだ。ドローンを使えば初心者でも防除作業が行えるうえに、作業者の農薬被ばくも防ぐことができる。
また、ドローンが上空から撮影した画像を分析し、葉の色をセンシング(センサーで観測)することで成育の状態を確認し施肥設計するなど、栽培管理にも活用している。照井さんは「人間の観察以上の成果をセンシングデータより得られる点に大いにメリットを感じている」とのことで、現状外部委託している画像解析を、社内でできるようにすることを目指している。
ラジコン草刈機
ラジコン操作で傾斜地も上り下りできる草刈機を昨年から試している。現状ではまだ人が草刈りする方が精度は高いが、夏の草刈り作業は人的負担が大きく、社員の健康を害さないためにも、草刈りは将来的には無人化したいとのこと。
トラクターの自動操舵(そうだ)
初心者でもベテランと遜色ない真っすぐな畝が作れるトラクターの自動操舵。誤差は2センチ以内であり、求められる技術としてはトラクターの方向転換程度であるため、誰でも無駄のない播種ができる。以前は繁忙期にはベテラン勢はなかなか休みが取れず、ハードスケジュールにならざるを得ない場合もあったが、自動操舵の登場により余裕を持ったスケジュール調整ができるようになった。
自動運転田植機
初心者でもベテランのような誤差や無駄のない田植えができる。しかし苗詰まりがしばしば起こるために、頻繁に植え付け具合を確認せねばならず、その点に改良を要すると照井さんは話している。
生産効率を上げ、省力化。かつ密度の濃い働き方へ
「スマート農業の活用で、増える農地を少ない人数で管理し、生産効率を向上させることができるようになりました。それぞれの課題も見えていますので、課題を解決できるようになれば、いっそうの効率化が見込めます」と照井さんは言う。
「作業の自動化・無人化が進めば、より人間の知恵を必要とする生産性、専門性の高い仕事に人力を集中させられるようになります。それぞれが専門性の高い仕事に従事できるようになれば社員のモチベーションも上がります。そして良い人材が育てば、仕事の質も上がっていく、とすべてが良い方向に動いていくんです」
一昔前に「きつい、汚い、危険」の3Kといわれた農業に対するイメージを払拭(ふっしょく)し、社員が楽しく仕事ができる環境を整備していきたい。そして「やりがいを感じ、農業という仕事により一層の誇りを持てる」ようにスマート農業を活用し、職場環境を整えていきたいと、照井さんはさまざまな方法を実践、画策している。