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北の大地で単身女性が新規就農! 土地利用型農業を選んだわけ

北の大地で単身女性が新規就農! 土地利用型農業を選んだわけ

全国の農家を渡り歩いている、フリーランス農家のコバマツです。今回訪れたのは北海道の増毛(ましけ)町。なんと、この地域では珍しく単身で新規就農した女性がいると聞いてやってきました。しかも米で。数ある作物の中からなぜ米を選び、新規就農をしたのでしょうか。就農に必要な広い土地や初期費用は、どうやってゲットしたのでしょうか?

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女性1人農業! 北海道で米農家として新規就農したワケ

単身で移住し、米農家として新規就農した女性がいると聞いて、北海道の北西部にある海沿いの町、増毛町にやってきました。増毛町と言えば海に面しているので漁業をイメージされがちですが、米や野菜、果物の生産も盛んな町。北海道の中でも観光地化されておらず、農業も高齢化が進んでいて、外から来る人が就農するのは大変そうなイメージです。

訪問した5月下旬。田植えをしているところを発見

2020年の農林水産省の新規就農者調査結果によると、全国で女性の新規就農者のうち野菜での就農は360人であるのに対して、米での新規就農は60人。米農家として新規就農するのは珍しいのではないでしょうか。
野菜に比べて広い面積が必要な「土地利用型農業」の米は、機械をそろえるなどなにかと初期費用がかかります。しかも、移住者の女性が1人で、どうやって就農したのでしょうか?
現在の経営状況や今後の展望についてもいろいろ聞いていきたいと思います。

■嘉門宏美(かもん・ひろみ)さんプロフィール

嘉門宏美(かもん・ひろみ)さんプロフィール写真 北海道札幌市出身。高校卒業後、カリフォルニア大学国際開発学専攻。帰国後ITベンチャー企業で事業の立ち上げや、アジア圏でのIT事業進出などを行い、ベトナムで仕事をしていた際に現地で有機農業と出会う。帰国後に農業との関わりを模索、2016年に増毛町地域おこし協力隊になり、主に農業、漁業、林業などの一次産業に携わる活動を行う。2019年に同町で米農家として5ヘクタールの土地を借りて新規就農。現在は米作りの傍ら、養鶏や狩猟、漁業、林業なども行っている。将来は米作りを基盤にしたパーマカルチャー(後述)を作ることが目標。

地域おこし協力隊を経て北海道の増毛町で新規就農を決意!

コバマツ

嘉門さんは海外の経験が長く、しかもITベンチャー企業の事業開発に関わっていた経験が長くて、異業種から新規就農したんですね! 国内外をさまざま渡り歩いた嘉門さんが、どうして北海道の増毛町で就農しようと思ったんですか?
増毛町で地域おこし協力隊を3年間していました。もともと農業に関心があり、国内、国外、いろいろな農家を巡ってお手伝いしていたんです。そんな中でも、米も野菜も果樹も豊富で、しかも漁業もあるこの町を気に入ったんです。

嘉門さん

コバマツ

きっかけは地域おこし協力隊だったんですね! 任期中は具体的にどんなことをしていたんですか?
地域の農家さんのお手伝いだけではなく、漁業や林業を手伝ったり、冬は狩猟をしたりしていましたね。

嘉門さん

農作業を手伝うのはもちろん

漁業の手伝いをしたり

狩猟で山に入ることも

コバマツ

めっちゃワイルド。
自給する暮らしに憧れていて、できる限り、一次産業に関わる活動をしていました。農業だけではなく、地域の産業全般に携わって地域の人たちと関わっていく中で、この町がどんどん好きになって、この町で就農しようと決めたんです。協力隊の期間中は地域の人との関係を密に作ったり、自分のことを理解してもらったり、後々、就農するまでに欠かせないつながりを作る時間だったと思います。

嘉門さん

コバマツ

体力的にしんどい一次産業のお手伝いに熱心に参加していたことも、就農する際に「この人なら大丈夫だ」っていう信頼につながったんでしょうね。

米農家として新規就農したわけ

コバマツ

どうして米で新規就農しようと思ったんですか?
土地の面積も必要だし、初期費用も高そう!
主食である米を作ることができたら強いなと思ったからです。
それから、他の作物に比べて、手をかける時間が少なくて済むというのが決め手ですね。
米は4月のもみまき、5月の田植えが終わってしまえば、9月の収穫まではほぼ水管理や草刈り、その他肥料や農薬の散布がメインになります。作業は機械化されていますし、野菜に比べて毎日一日中手をかけなきゃいけないというわけではない点も、私の性格に合っているなと思いました。

嘉門さん

育苗も、4月のもみまき後は、基本的に温度管理と水やりのみ

植えた後は水管理をすれば田んぼですくすく育ってくれる

コバマツ

野菜だと収穫期には毎日取らなきゃいけないし、手入れもこまめにしてあげなきゃいけないけど、確かに田んぼは植えちゃえば比較的楽なんですね!
空いた時間は、栽培技術の勉強にあてたり、自分のスキルを身に付ける時間にあてたりできますし。あとは、やっぱり、日本人の主食である米を作ることで日本の食文化を守りたいという思いもありますね。

嘉門さん

女性1人で移住して米農家になるには?

コバマツ

嘉門さん、面積はどれくらい作っているんですか?
約5ヘクタールです!

嘉門さん

コバマツ

まあまあ広い! どうやってそんな面積ゲットできたんですか?
女性1人というだけでも、地域に入っていくのってハードルがあるのかなと思うのですが……。
やっぱり、増毛町の地域おこし協力隊として活動していたのは大きいかなと思いますね。
簡単に今の土地を貸してもらえたわけではないんですが、「若い人が頑張るなら力を貸したい」という今の地主さんに出会ったんです。

嘉門さん

コバマツ

やっぱり、土地を見つけるのも最初は大変でしたか?
女性で独立就農したのはこの地域では私が初めてで。男性農業経営者の方たちから「女1人では無理だからやめとけ」と言われることもありますが、心配されながらも助けていただいたりアドバイスをいただいたりしています。

嘉門さん

コバマツ

前例がないと、地域の人たちは心配しちゃいますよね……。
土地だけじゃなくて、米作りには機械も必要ですよね? 
一部の機械も、倉庫も無償で譲渡していただきました。

嘉門さん

区画整備されたばかりの見晴らしの良い田んぼ

コバマツ

無償譲渡ってすごい! 普通は有償ですよね。しかもここ、区画整備されたてで、見晴らしも良くてめっちゃいい土地じゃないですか! 新規就農者って、なかなかいい土地が回ってこなくて、条件の悪い土地ばかり当てられるイメージですが。
他の機械も地域の農機メーカーさんに配慮していただいてレンタルさせてもらったり、育苗ハウスも地域の農家のハウスの一角を借りたり、収穫後の乾燥調整を共同でさせてもらったり、地域のいろいろな協力体制によってなんとか成り立っています。

嘉門さん

育苗ハウスも借りて、苗の水やりも地元農家に協力してもらっている

代かきをする嘉門さん。トラクターも無償で譲り受けた

コバマツ

1人でやるならとっても費用がかかって、協力者もいなくて大変そうと思っていましたが、地域の人の理解と協力も大きいんですね。嘉門さんが地道に地域で活動してきた成果ですね。
就農してから順風満帆というわけではなく、より自分の技術や知識不足、人間関係の構築の難しさも痛感しています。今は、農業委員会にも所属し、農家として地域に定着して、少しずつ地元に貢献できるようになっていければと思っています。

嘉門さん

1人でも米農家としてやっていける!?

コバマツ

1人で米農家って、作業的にできちゃうものなんですか……?
人手が必要な時期は4月、5月の間でも数日だけで、あとはほとんど機械作業や水管理だけなんで、なんとか1人でやっています。繁忙期はありがたいことに、地域の人や、地域外からも、「何かあったら手伝うよ!」という声を多くいただいています。今年は10人ほどの援農者が田植えに来てくれました。

嘉門さん

地域外からも子供から大人までさまざまな人が援農に来る

地元の人も駆けつけてくれる

コバマツ

こんなに人がいたら、10ヘクタール、20ヘクタールくらいの田んぼも田植えができちゃいそうですね! 協力隊のときにいろいろな仕事のお手伝いをしてきて、つながりを作ってきたのが大きそうですね。
言われてみれば、広い面積でも機械作業がほとんどなのと、人が必要な時期も限られているので、1人でもできそうですね!
重いものを1人で持たなきゃいけなかったり、機械の調子が悪くなっても自分で直したり、なんとかしなきゃいけない面もあって大変ですが、土地利用型だからこそ1人でできるという面もありますね。

嘉門さん

現在の営農形態と、これから目指す農業の形

コバマツ

就農して現在3年目ですよね! ぶっちゃけ、収量や、営農形態など含めて経営状況はどんな感じでしょうか?
収量的には、地域の平均反収以上はとれています。栽培方法も当初は有機に固執していましたが、地域との親和性や自身の技術不足も痛感したりして、今は特別栽培米基準で栽培して、微生物などのはたらきにも着目しています。

嘉門さん

卸先はほとんどJAに出荷しているが、一部は直販もしたいとのこと

コバマツ

新規就農者で平均以上ってすごい! 収量もあり、経営的にも安定していそうですね。今後やっていきたい農業の形ってどんなものですか?
今後は、人と自然が持続的に共存できる「パーマカルチャー」の理念を取り入れた自給自足のコミュニティーを作りたいと思っています。パーマカルチャーや自然栽培に関心を持つ人って経済を重視していない人が多いんですけど、経済活動がないと持続しないなと感じていて。きちんと農業で経済を生み出して、コミュニティー内で自給自足できるような循環を作っていくことができればと考えています。今後は規模拡大も視野にいれながら、経営も向上させていきたいですね!
地域の人たちの協力があったからこそ、挑戦させてもらえている部分も多いので、まずは地域の人たちのやり方や大事にしていることを自分も大切にしていきたいですね。

嘉門さん

コバマツ

そんな構想もあるんですね。新規就農して、すぐに自分の理想の農業の形に取り掛かるのではなく、地域の人たちの思いや積み重ねてきたことも大事にしていこうとする姿勢があるから、地域のひとからも応援されるんですね。

女性単身で新規就農するとき、なかなか地域に受け入れられなかったり、資金面で踏みとどまったりしてしまうことが多いと思います。しかし、嘉門さんの話を聞いて、地域の人々に応援・信頼されるように行動で示し続ければ、就農に必要な土地や機械や人手も巡ってくるのだなと思いました。
また、土地利用型農業は「資金がかかり、広い土地が必要だから新規就農は難しそう!」と考えがちですが、機械作業が多く、野菜に比べると手が空く時間が多いことなどから、条件がそろえば挑戦しやすい選択肢になるのではないかと感じました。

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