土づくり不要の養液栽培で新規就農! 高反収、空きハウス活用などメリットだらけ?

公開日:2022年07月19日
最終更新日:
全国の農家を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回は、北海道の鷹栖(たかす)町にやってきました。この町では、新規就農者に対してキュウリの養液栽培を支援しているのだとか。新規就農者が養液栽培をするメリットって? そもそも、どうしてキュウリで養液栽培を推奨しているのか、町の担当者や農家に話を聞いてきました。
町がキュウリの養液栽培を推すワケ
今回訪れたのは北海道鷹栖町。鷹栖町といえば、北海道の三大都市の一つである、旭川市の隣町。農業産出額の約8割が米であるほどの米どころです。

訪れた5月下旬。田植え真っ最中でした
広い土地を活用する米作りが盛んな地域ですが、町がキュウリの養液栽培を推進しているとのこと。しかも設備をそろえるための補助金も出しているそうです。なぜ養液栽培を推進しているのでしょうか。
まずは、鷹栖町産業振興課主幹の松木健一(まつき・けんいち)さんに話を聞いてきました。

松木健一さん
コバマツ
鷹栖町といえば米どころですよね! どうしてキュウリの養液栽培を推進しているんでしょうか?
養液栽培の導入の背景として、米どころというのも一つの理由なんです。
松木さん
コバマツ
え! 米どころというのと、養液栽培を導入することって、何か関係あるんですか?
米は4~5月にハウスで育苗するんですけど、残留した農薬の影響で、育苗後のハウスを他の作物に活用できないという課題がありました。そこで、土の状態に左右されない養液栽培だったら、育苗後のハウスだけでなく引退した農家のハウスもすぐに活用できるのではないかと考えて2018年から導入を始めました。ちなみに、本町での溶液栽培は、2014年にトマトを生産するために試験導入したのが始まりです。
松木さん
コバマツ
そんな米どころならではの課題があったんですね。使えなかったハウスを活用して何か栽培できたら農家の所得のプラスにもなりますよね!
でも、どうしてキュウリなんですか?
反収が高いのがキュウリだからです。鷹栖町は米作りが盛んな地域なので田んぼとハウスを継承することが多いんです。町ではもともと夏秋キュウリの栽培を積極的にしてきたんですけど、離農が進み後継者不足なんです。それでキュウリでの就農を支援しているというのも理由の一つです。
松木さん
コバマツ
育苗後のハウスを活用するために養液栽培に着眼して、さらに反収が高くて町でも後継者が減っているキュウリに絞って導入を支援している、というわけですね!
実際に養液栽培の研修施設も見せてください!
養液栽培の技術を町に導入するまで
鷹栖町には、新規就農者が就農前に栽培技術や知識を習得するためのトレーニング農場「あったかファーム」という施設があります。ここでキュウリをメインにした土耕栽培と養液栽培の技術を習得します。

新規就農者が研修する町営の施設

施設内にはハウスが6棟あり、土耕・養液栽培の試験やICT技術を活用した栽培の試験もしている(画像提供:あったかファーム)
施設には栽培指導員もいて新規就農者に対して栽培アドバイスをするだけではなく、養液栽培の実験も日々行っているそうです。

あったかファーム専門指導員、田邊清美(たなべ・きよみ)さん
コバマツ
新規就農者に向けた研修施設があるんですね! トマトの養液栽培は聞いたことがありますが、キュウリの養液栽培はあまり聞いたことがありませんでした。北海道内では普及しつつあるんですか?
キュウリの養液栽培自体の歴史がまだ、そんなに長くなくて、北海道で取り組んでいるのは鷹栖町以外はほとんど例がないんです。
田邊さん
コバマツ
前例がない技術を導入するの、大変そう……。しかも、設備を導入するのも高そうですね、勝手なイメージですが。
養液栽培は専用の設備は必要ですが、土耕と違って畑を起こす機械も必要ないですし、土づくりにかける時間と費用が削減できるんですよ。
田邊さん
コバマツ
え、そうなんですか! 実際の機械や栽培の様子も見せてください!

追肥用の機械。二つの肥料を混ぜて追肥する

プラスチックフィルムで包装された培地の塊を等間隔で配置。かん水は点滴かん水用のノズルをポットに挿して行う
コバマツ
従来の新規就農といえば、まずは土づくりからが基本でしたが、養液栽培は土づくりから解放されているのが特徴です。養液を流す量や頻度をマニュアル化できれば、1年目からベテラン農家並みの収量をあげる可能性もあります。
田邊さん
コバマツ
そうですよね、新規就農したばかりのときは土壌も出来上がっていなくて収量も不安定になりがち。
でもこの方法なら土の良しあし関係ないですもんね! 私でもできちゃったりして……。
できると思いますよ! 何年もかかっていた土づくりの必要がなくなれば、新規就農者の負担も減って、より営農しやすくなっていくのではと思っています。
田邊さん
コバマツ
反収が高いキュウリで、しかも収量が早い段階で安定すれば新規就農もしやすくなりそう! 実際に就農する農家にも話を聞きにいきますね!
新規就農者が養液栽培をするメリットとは?

20年間勤めた自衛隊を辞めて、来春から新規就農予定の宮本良明(みやもと・よしあき)さん
コバマツ
キュウリの養液栽培で新規就農するそうですね。土耕栽培ではなく、養液栽培をするメリットってなんですか?
やっぱり、土づくりをするのに、通常なら何年もかかるところ、養液栽培なら土壌に関係なく収量を上げていける点ですかね。しかも管理もしやすいのも良いなと思っています。どの培地が水分を必要としているか、肥料不足かなども分かりますし。
宮本さん
コバマツ
かん水量と排液量から排液率を算出して、培地内pH、水分率などを計測することで分かるんです。土耕栽培だとそんなことはなかなかできないので、管理しやすい点ではあります。
宮本さん

ポットからの排液をためる

排液の濃度などを測ることで、作物の状態が分かる
コバマツ
土づくりをしなくてもよいだけじゃなくて、こんなメリットもあるんですね! これは管理がしやすそう!
専用の培地があれば栽培できるので、土壌消毒をしなくてよい点や、連作障害の心配もないという点で栽培しやすいと感じています。
反収が高いキュウリで、栽培が安定する養液栽培で就農することができれば、新規就農者でも早い段階で安定した経営ができるのではと考えています。
宮本さん

米どころの町で、なぜ養液栽培を推進しているのかと最初は疑問でしたが、残留農薬の影響で活用できなかった稲の育苗ハウスを活用するために導入したという話を聞き、他の地域でも同じ課題を抱えて活用されていないハウスを活用することができるのではないかと感じました。既存農家の米プラスアルファの収入につながるだけではなく、新規就農者にとっては、時間がかかる土づくりをせずに、安定した量を栽培できる方法でもあります。
反収が高い品目を選んで養液栽培をすることで、土壌状況に左右されない栽培ができ農家の所得向上につながるのではないでしょうか。