有機農業と向き合い20年。震災復興の街に「農業テーマパーク」をつくったワケ【大企業は農業を変えるか?第5回】|マイナビ農業

マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 有機農業と向き合い20年。震災復興の街に「農業テーマパーク」をつくったワケ【大企業は農業を変えるか?第5回】

有機農業と向き合い20年。震災復興の街に「農業テーマパーク」をつくったワケ【大企業は農業を変えるか?第5回】

有機農業と向き合い20年。震災復興の街に「農業テーマパーク」をつくったワケ【大企業は農業を変えるか?第5回】

青果流通のベンチャー企業を経営する筆者が、大企業と農業の関係を考える連載。有機農業を長く続けてきた大企業に、居酒屋チェーンや宅食事業などを展開するワタミグループがある。期間はなんと20年。その集大成となるテーマパークが震災からの復興が進む岩手県陸前高田市で計画されているという。取材してみると、陸前高田の街とワタミにはただならぬ関係があった。

23ヘクタール! 震災復興の街の巨大テーマパーク

真っ青な空と真っ青な海。こんなにも静かで豊かな海が一瞬にして狂暴化し、街をまるごと飲み込んでしまうとはにわかには信じられない。
しかし、筆者は陸前高田市にある国営の「東日本大震災津波伝承館」を訪ねてきたばかりである。この街が大きな災害に直面したことはまぎれもない事実なのだ。
津波伝承館近くの防波堤から海に向かって右を見れば、有名な「奇跡の一本松」がその名の通り独りたたずんでいる。震災遺構として残された廃虚の旧気仙中学校も見える。

そして海から反対の方向に振り返ると、津波伝承館を含む大きな建物があり、そのさらに向こうに重機が整地をしている大きな土地が見える。
そここそが筆者がこれから向かう先、ワタミオーガニックランドだ。ワタミオーガニックランドは完成すればその広さなんと約23ヘクタールという巨大なテーマパークになるのだという。

津波伝承館の前から、小さな巡回バスに乗り込む。可愛らしいデザイン。電動のようだ。

「このグリーンスローモビリティは、市民エネルギー会社の売電から得た収益で動かしているんです」と、ドライバーも兼務する陸前高田しみんエネルギー株式会社の内藤正克(ないとう・まさかつ)さんが教えてくれた。
内藤さんはワタミから出向しているのだという。陸前高田でワタミがまいている種はオーガニックランド以外にもあるようだ。

走ることわずか5分、ワタミオーガニックランドの前に到着する。
「いわて牛ハンバーガー」の大きなのぼりがはためいている。現在はまだ土日限定だが、地元の食材を生かしたランチを食べることができる。

農場長でワタミファーム陸前高田株式会社代表取締役の西岡亨祐(にしおか・こうすけ)さんが迎えてくれた。西岡さんは全国7カ所にオーガニック農場を持つワタミファームで農業に携わってきた有機農業のプロだ。
「ここは、ワタミグループがこれまで培ってきたひとつの集大成として、6次産業モデルを具現化させる場所として位置付けています」(西岡さん)

命について学べる場所にしたい

ワタミオーガニックランドの敷地は広大だが、まだごく一部のエリアが開業している状況。
開業しているエリアで多くを占めるのはソーラーシェアリングのブドウ畑だ。支柱をブドウのツルの誘因に使い、ソーラーパネルが雨よけにもなる設計だ。「ぶどうの樹(き)オーナー制度」を設けて、会員を募集している。

ソーラーパネルの下、根域制限(土壌水分や養分の制御を容易にするため根の広がりを抑えること)でブドウを育て始めている

そのほか、ベビーリーフやミニトマトが植わったハウスやハーブ菜園などもある。
平日は修学旅行での利用が多く、この2カ月で1800人ほどが訪れ、収穫体験などを楽しんだ。
「修学旅行生は、津波伝承館では失われた命について学ぶことになります。ですから、ワタミオーガニックランドは育まれる命について学べる場所にしていきたい」と西岡さんはビジョンを語ってくれた。

全国のワタミファームで経験を積んだ西岡さん

そのあと、これから開発する予定の土地も見せてもらったのだが、とにもかくにも、ワタミオーガニックランドは驚くほどに広い。
この場所には震災前にはひとつの街があったが、震災後に人々は高台に移った。そのため、海に近いこの場所に広大な空き地が生まれたのである。

震災直後の航空写真。津波で街区がひとつなくなり、その場所にワタミオーガニックランドが計画された(画像提供:国際航業株式会社)

農業に向かない土地を10年単位で耕す

「いまオープンしているのは全面積約23ヘクタールのうち3.3ヘクタールだけです。10年かけて整備していく計画です」と西岡さん。
話を聞いていくと、ワタミオーガニックランドがまだまだ本格オープンを迎えていない理由がいくつかあるようだった。
ひとつは、そもそも予定されている土地がまだまだ造成中で引き渡されていないこと。
次に、造成された土地は畑としては利用できない栄養価の低い土質だということ。現在オープンしているエリアは、別の場所からダンプ160台分の土を運んできて50センチの盛り土をしている。その費用は大変なものだろう。
また、コロナ禍で、ワタミグループとしての投資余力が当面限られていることも理由のようだった。

全体図。10年がかりでテーマパークを完成させる。モデルエリアだけが現在開業済み

「来年には、隣接するコミュニケーションエリアがオープンします。ここには建築家・隈研吾(くま・けんご)さんの設計で、約1ヘクタールの野外音楽堂を整備します」と西岡さん。
陸前高田周辺は、優れた技術で江戸時代から藩外でも広く活躍した大工集団「気仙大工」の発祥の地であり、野外音楽堂は地元の技術とコラボした施設になるという。

見渡すかぎり広大な開発中のエリア

地域の中で資源循環モデルを作りたい

将来的に野菜の圃場(ほじょう)や市民農園も増やしていく計画だが、どのような農業を行うのだろうか。グループの飲食店に農産物を出荷していくのだろうか。「ワタミグループに食材を提供することはこのテーマパークの目的ではありません。ワタミグループの飲食店に食材を卸すときはJAS有機の認証が必要ですが、JAS有機にはこだわらない方針で、SDGs基準とも言うべき新しい農業の指針を作りたいと思います。この陸前高田では地域内の循環モデルを作ることにフォーカスしたいです」(西岡さん)

循環型社会という点では、電力については先述した陸前高田しみんエネルギーの活動がすでに始まっている。2019年設立の同社は、ほぼすべての市内公共施設に電力供給を行い、再生可能エネルギーの調達を行っているが、ワタミエナジー株式会社(ワタミの子会社)が運営を支援している。
このようにワタミグループと陸前高田市の関係は深い。

その経緯について、取材に同行したワタミエナジーの本多航(ほんだ・わたる)さんが教えてくれた。
「陸前高田とは震災復興を契機に関係が深くなりました。当社から震災復興ボランティアがのべ2531人入りました。震災のあった2011年には、『陸前高田市復興街づくりイベント』にワタミグループCEOの渡邉美樹(わたなべ・みき)が実行委員長として参画させていただきました。また、ワタミグループの主力のひとつである宅食事業のコールセンターを陸前高田市内に立地させています」

ワタミオーガニックランドを後にした筆者は、陸前高田の街を巡った。
すると、ワタミオーガニックランドがある場所がこの街にとって非常に大事な場所であることが分かった。下の図に示すように、来街者が巡るであろう点を結んだときに、その真ん中に位置しているのである。
なお、陸前高田市内には2年後に念願のホテルが開業する予定で、さらに来街者の増加が見込まれる。

どれも車で数分の距離にある

つまり、ワタミオーガニックランドがある場所は、テーマパークとしての立地的ポテンシャルは間違いなく高い。
一方で、街のにぎわいにとっては、この土地がどのように活用されるかが非常に重要だ。つまり、そこに敷地を持つ企業は重い責任を地域に対して負っていると言える。

【取材後記】
取材で分かったことは、ワタミオーガニックランドには、2つの未利用資産があるということだ。
ひとつは「土地」、ひとつは「地域との関係資産」だ。
すでに述べたように陸前高田とワタミグループの関係は決して浅くない。地域との関係資産はそれなりに存在しているはずだが、日ごろの集客や企画運営に生かすには今はまだ限定的なものにとどまっている。未開発の土地と併せて今後の活用がポイントとなるだろう。

一方で、地域と大企業の関係が限定的になる理由は、大企業側だけに問われるものではないということにも留意しておきたい。
街にとって重要な位置にある土地をこれから活用しようというのである。陸前高田の街づくりを進める側として、捨てておく手はない。
もちろん行政とのさまざまな連携はあるのだが、もっと草の根でのアプローチがあってもいいように思う。

以下は一般論だが、地域に大企業が入ってきたとき、地元市民は近寄りにくく感じるものである。一方で、大企業の社員側にも、地元に入り込んでいきにくい理由がいくつもある。
たとえば、「自分がいつ異動してしまうか分からない」とか「自分に予算の決定権がない」といったものである。
そうして、地域側からも大企業側からもぼんやりとお互いを眺めていることになる。
その機会損失は大きい。
私の経験上、大企業は多くの資源やノウハウを持っているが、「つつけばいろいろ出てくるし、つつかなければ出てこない」。大企業と付き合うことがメリットばかりだと言うつもりはないが、よい意味で、お互いにうまく利用してやればいいのである。
地域の活性化のためには、その一歩を踏み出すことが重要だ。

もちろん、そうしたときに大企業はすぐに撤退してしまうのではないか、という不安は生じるだろう。それが日々利益を求められる上場企業であればなおさらだ。

ワタミグループにしても、東北地方の片隅の街──人口は2万人以下──に長期的な投資をすることや、広大で農業に向かない土質の土地を10年単位で耕していくことが本当に可能なのだろうか。
もちろん将来のことは分からない。けれど、ワタミグループには20年間も有機農業を続けてきた実績があるということは見逃せない。
農業に参入してすぐに去っていく企業は枚挙にいとまがない。それほどに農業というのは難しい。まして有機農業はもっと難しい。
ワタミグループの農場もつねに順風満帆だったわけではないだろうが、それでも20年間、有機農業と向き合い続けてきたことは、日本の農業界で出色と言うべきだろう。
農業が簡単に答えの出る産業でないことは、何よりワタミグループ自身が知っているのだ。
だからこそ、最初から10年スパンで取り組むと宣言しているワタミオーガニックランドの未来に、期待してもいいと思う。

関連記事
「まずいバーガー」試食でベクトル合わせ モス流・農家と二人三脚する方法【大企業は農業を変えるか?第2回】
「まずいバーガー」試食でベクトル合わせ モス流・農家と二人三脚する方法【大企業は農業を変えるか?第2回】
シャキシャキの野菜が印象的なモスバーガー。その裏側には並々ならぬ情熱があった? 群馬、青森、静岡の圃場(ほじょう)から野菜を通年納入する農業法人との熱い信頼関係とは? 大企業が農業に参入する際のポイントは? 自身も青果…
【みどりの食料システム戦略】農水省が振り始めた有機推進の旗、現場とのギャップ
【みどりの食料システム戦略】農水省が振り始めた有機推進の旗、現場とのギャップ
農林水産省が掲げた方針を、真に受けてもいいのだろうか。耕地面積に占める有機農業の比率を、2050年までに25%にするという目標のことだ。遠い先のあまりに高い目標に対し、多くの農家は実感を持てていないように見える。この方針をど…

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS