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【盗難対策】盗難許さない! 県が農作物を守る補助金を創設

【盗難対策】盗難許さない! 県が農作物を守る補助金を創設

果樹王国として知られる山形県。サクランボを筆頭に、ブドウ、リンゴ、西洋ナシのラ・フランスなどの栽培が盛んで、観光、流通、食品なども含めて県民の生活を支える重要な産業だ。そんな華々しいマーケットの裏で、農家を悩ませているのが農作物の盗難。農家だけではなく、県、警察、JAが協力して対策をしているが、なかなか被害はなくならない。そんな中、県は2022年度に盗難対策に取り組む団体に補助金を出すことを決定した。制度の利用方法と、実際の活用事例はどのようなものなのか。県農林水産部園芸大国推進課とJAさがえ西村山を取材した。

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2021年のサクランボ盗難被害は150万円

山形県を代表する品種「佐藤錦」など、サクランボは特秀品クラスになると1キロ1万円超で販売されることもある単価の高い農作物だ。6月の収穫期、東根、寒河江(さがえ)、天童といった産地では、あちらこちらの果樹農園で真っ赤な粒が実り、観光果樹園や産地直売所などが多くの一般客でにぎわう。

一方で、サクランボは盗難被害の発生件数が多い農作物でもある。
山形県警生活安全企画課の資料によると、2019年度は被害報告がなかったものの、2020年度は3件の被害届けがあり、合計で220キロ、約90万円相当という過去10年間で最も大きな被害額となった。2021年度はさらに被害が悪化、7件の盗難が発生し、合計280キロ、約150万円相当が盗まれた
サクランボの他にも、ブドウやリンゴ、スイカなどの盗難も多い。

毎年JA山形中央会が中心となり、各地域のJA、県、警察が集まって盗難防止対策会議が行われている。警察による特別警戒の実施とその周知活動、青色パトロール(青パト)活動、生産者による定期的な見回りなど、さまざまな防犯対策が講じられてきた。

にもかかわらず、2020年、2021年には例年にない被害額となってしまった。こうした背景を受けて、県は市町村との協調により、盗難防止策を講じる事業に対する補助金を予算化した。

山形県ではサクランボの盗難被害が最も多い

最大50万円の補助制度を県が創設

今回、県が盗難対策として創設したのは、「魅力(かち)ある園芸やまがた所得向上支援事業費補助金」という補助制度の「農作物盗難防止対策事業」という項目。2022年度は200万円の予算を計上した。

当初は2022年3月上旬~4月中旬までを募集期間としていたが、1件(50万円)のみの採択であったことから、申請の受け付けを延長している。県農林水産部園芸大国推進課の井上由美(いのうえ・ゆみ)さんによれば、「サクランボの収穫時期は終わりつつあるので、ブドウの収穫期となる9月ごろまで期間を延長する予定」だという。

補助額は最大50万円。JAや農業生産法人などの団体が対象となる。
団体が監視カメラなどの防犯機器を購入する際、購入費の一部に適用される。購入した機器を現場の生産者などに貸し出してもらうという取り組みだ。

申請書類は各市町村または総合支庁で入手でき、申請窓口は市町村になる。
ただし、今回補助の対象となる作物はサクランボとブドウに限られていること、また個人の生産者では申請できないことなどには注意が必要だ。

2022年度はモデル事業としての実施となる。「来年度以降も続くかどうかは、今回の成果を見て検討していきたいと思います」(井上さん)

補助制度の概要は以下の通り。

補助制度の概要

監視カメラ14台と警告看板で抑止効果を狙う

同補助金が初めて採択されたのはJAさがえ西村山。同JAでは今年、補助金を活用して7台の監視カメラを導入した。独自に購入した8台も加えて、合計15台を所有し、管内の果樹園に設置している。

看板を多数設置して犯罪抑止を図る(画像提供:土田裕之)

営農企画部長の土田裕之(つちだ・ひろゆき)さんらは、サクランボ農地の集中する地域に監視カメラを分散して配置。さらに、防犯カメラがあることを知らせる看板も、カメラの台数以上にたくさん張りだした。そうすることで、盗難目的でやって来る者に対して警告を発し、抑止効果を狙っている。
設置した6月17日以降、管内での被害報告はない。

カメラには赤外線照射機能がついており、夜間でも不審者を判別することができる。電源は太陽光発電で、最大約1週間分の映像を記録できる。また、防犯カメラは警察署とも設置場所を共有し、連携体制を強化した。
これまで盗難に悩まされてきた同JA管内の果樹農家も、今回の防犯カメラ設置には期待の声を寄せているという。

設置された監視カメラ。電源は太陽光発電(画像提供:土田裕之)

一方で、警察が把握している盗難件数は一部であるとの見方もある。繁忙期には警察に届け出る暇がなかったり、またそもそも盗難に気がついていなかったりで、実際にはかなりの件数・金額の盗難があるものと考えられる。

「収穫時期には何人か人を雇って作業しているので、盗まれていることに気がつきにくい」そう語る土田さんは、自身も40アールのサクランボ農園を所有している。「私も仕事が忙しくて収穫できないときなどは、数日ぶりに木を見てみると、『あれ、もっと実があったような気がするんだけどな』などと思うことがあります。でも、数日間見ていなかったので、気のせいかもしれないとも思うわけです。なかなか生産者の目だけではわかりづらい部分がありますね」

現在設置されている防犯カメラは、サクランボの収穫時期が終わると撤収し、ブドウの木が集中する地域に移す予定だ。
「今回は初の試み。まずは効果を見てからですが、今後も台数を増やしていきたいと考えています」(土田さん)

果樹だけではなく、農作物を作る苦労は、実際にやってみた者でなければわからない。犯罪行為への対策を講じたり、捕まえて罰したりするのも重要だが、生産者がどれだけの時間と労力をかけているのか、一般消費者に広く知ってもらうことも必要だろう。

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