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“貴重で厄介な水”問題を解消させた生産循環システムとは。連作障害も防ぐ淡路島の日本農業遺産

“貴重で厄介な水”問題を解消させた生産循環システムとは。連作障害も防ぐ淡路島の日本農業遺産

水の利害について、淡路島ほど知っている地域はないかもしれません。降水量は少なく、河川は短く、山林は狭いため保水能力が乏しい。そのため、農業用水の確保がおぼつかない現状がありました。特に島内で最も農業が盛んな南あわじ市は、中でも水問題と向き合ってきた地域だと言えるでしょう。水問題を乗り越えるために積み重ねた工夫は、日本農業遺産にも認定された「生産循環システム」にもつながりました。いかに水問題を乗り越えたか。そのシステムに注目しました。

日本各地の「水問題」の縮図

南あわじで6月の農家訪問を避けたい理由

タマネギ小屋

「南あわじの農家を訪ねるなら、6月は避けるべきですね」
こう話すのは、南あわじ市産業建設部部長の和田昌治(わだ・しょうじ)さん。理由は、南あわじ地域独特の農業にあります。
南あわじ地域の農業の特徴は、水稲と野菜を組み合わせた多毛作であること。そのため田植えは他の地域よりも遅く、6月後半です。
つまり6月は田植えに当たるのですが、「6月は避けるべき」とは単に田植えで忙しいからではありません。南あわじ地域では、田に水を引くことが他の地域以上に神経をすり減らす作業なのです。

水に悩んできた南あわじ地域

和田さん

産業建設部部長の和田昌治さん(右)と、産業建設部農林振興課職員の秦誓竜(はた・ちりゅう)さん

淡路島は、瀬戸内海式気候で年間を通じて温暖で降水量の少ない地域です。また、河川が短く山林も狭いことから、水はすぐに海に流れ出てしまいます。
淡路島では約1700年以上前には人工的な池(ため池)が造られていて、この地域が昔から水の確保について工夫を重ねてきたことがうかがえます。
「今でこそ無くなりましたが、平成の初めの頃までは断水も結構ありました」と和田さん。南あわじ市では1994年に299日の断水を記録しています。

一方、水害もあり、1938年の阪神大水害では島内でため池の埋没1544カ所、決壊793カ所、死者行方不明者13人、倒壊流失家屋146戸などの大きな被害がありました。近年では、2018年に西日本を中心に記録的な大雨(平成30年7月豪雨)が降り、淡路島でも床下浸水などが発生しました。
日本各地で渇水や水害はありますが、淡路島は特にそれらに悩まされてきた地域でした。

ルールを破るとけんかにも発展

こうした悩みから、淡路島の農家では水を扱うルールが厳密に決められています。
水を田に引けなければ生活も危うくなります。島では水が貴重ですから、誰かのミスで水が引けなくなれば、相手を責めたくなる気持ちになるのも想像に難くありません。
和田さんはあるエピソードを紹介してくれました。
「やはり6月頃でしたが、ルールを破ったことから大きなけんかになったという話も残っています。平成の初期の頃ですね。6月の農家は性格が変わるんです。今では笑い話ですけれど、そのくらい神経を使うんですよ」
こうした水を巡る問題を、淡路島ではいかに解消してきたのでしょうか。

南あわじの「水問題」への工夫

水を扱う際のルールの厳格化

淡路島では島全域で、水を扱うルールが厳格化されています。
水に恵まれていない淡路島では、古くからため池に水をためて利用してきました。ため池は西日本を中心に全国に15万カ所以上ありますが、淡路島では江戸時代から、共通のため池を利用する水利組織「田主(たず)」が存在することが特徴的です。田主は、水を引く順番・時間、管理方法を取り決めています。
「時間が割り当てられれば、何があろうとその時間にしか水は取れません。しかしそれでは不便なので、今は水を一度タンクに入れて、取水口から出す仕組みにしているところもあります」と和田さん。

ルールをよく知らなかった新規就農者が時間外に水を引き、トラブルになった例もあるようです。
南あわじ市産業建設部農林振興課係長の濟藤貴志(さいとう・たかし)さんは話します。
「新規就農者は『作物ができるか?』『売れるか?』に関心が向くことが多いですが、こうした水のルールにも関心を持っていただくといいですね」

濟藤さん

産業建設部農林振興課係長の濟藤貴志さん

水のルールは、基本的に文書化されていません。移り変わる気候への対処は文書化しづらく、またローカルルールのため、例えば行政などからの管理・指導にはそぐわないという事情があります。
少しずつ文書化しているところもあるようですが、やはり人に聞くことが重要です。

複数の手段で水を確保

また、多様な水源によるかんがいシステムも水問題への工夫として挙げられます。
淡路島では、昭和の終わりから平成にかけて、水問題を改善するための整備が図られました。
1998年には明石海峡大橋の開通により、本州からの送水で渇水を解消。
南あわじ地域では、三原平野に流れ、古くから農業に利用されてきた三原川水系について、5つのダムを造りました。
前述のように、歴史的に古くから行われてきたこともあります。
ため池は、島内に約1万も造られ、“日本一のため池密集地域”です。
しかし、それでも賄いきれないところでは、山の斜面に横井戸を掘って地下水を取るなど、さまざまな工夫をしてきました。
このように、複数の手段で水を確保し、農業用水としても利用しています。

横井戸

横井戸の構造(筆者作成)

「淡路島たまねぎ」の裏にあった生産循環システム

南あわじは稲作地域?

南あわじ市津井内原の農地

こうして水問題を解消しながら、南あわじ地域では独自の農業を作り上げていきました。
淡路島の農業と言えば「淡路島たまねぎ」を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、濟藤さんはこう話します。
「南あわじで一番有名なのはタマネギだと思いますが、タマネギだけでは営農がうまくいかないかなと。南あわじでは水稲と畜産を組み合わせているからこそ、良い循環ができていると認識しています」

南あわじの生産循環システム

生活循環システム

同市発行の「淡路島たまねぎまるごとBOOK」に紹介されている生産循環システムのイラスト。淡路島最高峰(標高607.9メートル)の諭鶴羽山(ゆづるはさん)から流れる貴重な水の活用などが分かる

南あわじで行われてきた伝統的な農業システムについて、和田さんが説明してくれました。
「南あわじの農業は、タマネギ、レタス、キャベツ、ハクサイなどの多毛作で収益を上げてきました。それを支える根幹が、水稲と畜産とを組み合わせた生産循環システムです。堆肥(たいひ)をまいて土壌を活性化させ、さらに夏場に稲作で水を引くことが言わば土壌消毒になっています。南あわじでは、こうして連作障害を防ぐ仕組みができているのです」

2021年に日本農業遺産に認定

南あわじ地域の農業は、「南あわじにおける水稲・たまねぎ・畜産の生産循環システム」として2021年に日本農業遺産に認定されました。
日本農業遺産は「重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)」として農林水産大臣により認定され、2022年6月現在22地域があります。
「周りから『日本農業遺産の認定にチャレンジしてみては?』と勧められ、申請したというのが実際のところです。認定されたことは誇らしいですし、他の地域から『すごい』と言われることもありますが、当の我々は当たり前にやってきたことです」と和田さんは振り返ります。
長年、南あわじ地域で積み重ねられた工夫は、資源の有効活用という今日欠かしてはならない視点について、私たちに気づかせてくれることでしょう。

画像提供:南あわじ市産業建設部農林振興課

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