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30アールの除草剤散布が3分で完了。水田を走るボート型散布機が水稲農家の「雑草」問題を救う!

30アールの除草剤散布が3分で完了。水田を走るボート型散布機が水稲農家の「雑草」問題を救う!

秋田県横手市のスイカ農家がユニークな薬剤・除草剤散布機を開発・商品化したことが地元・秋田を中心に注目を集めている。除草に頭を悩ませる水稲農家の強い味方となりうる水稲用農薬散布ボート「Ziraiya(ジライヤ)」の実力を現地からレポートする。

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農家のアイデアから生まれた“手作り”散布機

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ホームセンターなどで材料を集めた試作機(右)。船体は「ボディボード」、エンジンは草刈機を代用など、武藤さんのアイデアが詰まった記念すべき1台だ。左は製品化された「Ziraiya」。メンテナンスのしやすさやホームセンターで交換部品が入手できる手軽さは継承されている

スイカ農家による“手作り”のボート型薬剤・除草剤散布機が注目を集めている。口コミでじわじわと広がるその製品名は「Ziraiya(ジライヤ)」。エンジンを搭載した船体を手元のコントローラーで操作するその様子はラジコンそのもの。同タイプの製品を大手メーカーが80万円前後で販売する中、約30万円という安価での販売を実現する背景には、開発者が抱き続ける地域農業への思いがあった。

横手盆地の寒暖差の大きな気候と肥沃(ひよく)な土壌を有する米や野菜、果物の生産が盛んな秋田県横手市で、スイカ「あきた夏丸」を主力にブランド米「あきたこまち」などを手がける株式会社エムファクトリー代表の武藤吉喜(むとう・よしき)さんは、農家の4代目として10年前に家業を継いだ。就農当初はその作業の多さと人手不足から農業経営の難しさに直面したと当時を振り返る。

「日本の農業の高齢化や担い手不足などの課題は、横手市も同様に深刻化しています。中でも炎天下での除草剤や農薬などの散布作業は心身ともに厳しく、その負担の大きさが離農の要因の一つになっています。非効率な作業を軽減し、作業効率を上げることが経営安定につながることを実感しました」

秋田県は言わずもがな、秋田米のエース「あきたこまち」の一大産地である。農地の集積が進む昨今、生産者1人当たりの耕作面積が増える中、重さ20キロのタンクを背負いながらの農薬散布がいかに重労働であるかは容易に想像できる。

「ドローンによる農薬散布など、スマート農業を活用した散布は効率的ですが、高額かつ、使用するには講習会への参加や申請などさまざまなハードルがあり、個人経営の農家では手を出しづらいというのが現状です。もっと簡単かつ、安価にできる方法はないかと考えたとき、思いついたのが『ボート型散布機』です」と話す武藤さんの趣味は“機械いじり”。

ホームセンターで使えそうな材料を見つけては自作で製作を繰り返していたという。当時の船体にはなんと、浮力に優れたマリンスポーツ「ボディーボード」を使用。動力には草刈機のエンジン、噴霧部分にはプロペラとふるいを搭載するなどアイデア満載の試作機は、これまた手作りのコントローラーによる操作で水田を“快走”。手応えを得た武藤さんは受注生産を請け負うようになった。

簡単メンテナンス。軽量化も追求

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エンジン音を響かせながら水田を快走するZiraiya

シンプルな構造かつ、各パーツはホームセンターでそろうため、購入後のメンテナンスや部品交換が自分でできるのがZiraiyaの特徴だ。これまで20台を販売したが、修理のために代替機を用意した実績はゼロ。電話の指示で解決する手軽さは忙しい農家にとって願ったりかなったりというわけだ。

「ドローンやラジコンヘリによる農薬散布は近隣の水田にも散布されるリスクがありますが、Ziraiyaはその影響が少ないのでトラブルを回避することができます。コントローラーの操作も至ってシンプル。高齢者や機械が苦手な方でも簡単に操作できるのがポイントです」と、Ziraiyaの優位点を語る武藤さん。船体は長さ120センチ、幅55センチほどで、重さは約10キロ、船体には繊維強化プラスチック(FRP)を使用することで耐水性や耐衝撃性を実現している。

「最もこだわったのは軽量化と価格です。個人経営の農家でも手が届く価格帯かつ、持ち運びが容易であれば、高齢者でも無理なく使いこなすことができます」(武藤さん)

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2往復すれば除草剤をほぼ一面に行き渡らせることができ、操作に慣れれば1日30ヘクタールの散布も可能

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コントローラーも“手作り”。ラジコン感覚で誰でも簡単に操作ができるのもポイントだ

一般的に、ぬかるんだ水田を20キロものタンクを背負って散布するには1日10ヘクタールが限度である。Ziraiyaは30アールを約3分で農薬散布が完了、操作に慣れれば1日30ヘクタールの散布も可能だ。作業効率が格段にアップするボート型散布機Ziraiyaは、個人経営の農家から農業法人による大規模経営まで、幅広い活用が期待される。

発想力と営業手腕が光る新たな仲間と共に、年間販売台数100台を目指す

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マシンデザインや営業を担う藤田一平さん(左)と高橋大輔さん(中央)

試作から5年、武藤さんの手作りによって誕生したボート型散布機は、2022年春、2人の青年によってデザイン、ネーミング共にブラッシュアップされた。Ziraiyaの名は江戸時代後期の読本に登場する忍者「自来也(または児雷也)」に由来する。水稲を傷つけず、忍者のようにスイスイと進むことから名付けられた。

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歌舞伎でも描かれる忍者「自来也(または児雷也)」をイメージしたロゴデザイン

「武藤さんのアイデアをカタチにし、外部営業として活動することがわたしたちの役目です。問い合わせも徐々に増えており、今後はバックオフィスの体制を整えていきたいと考えています」と、意気込みを語るのは高橋大輔(たかはし・だいすけ)さんと藤田一平(ふじた・いっぺい)さん。ユーモアにあふれ、周囲を明るい雰囲気で包み込む武藤さんの人柄は、若い世代をも魅了する。

「アイデアはあってもそれをどう見せるか、売るためにはどんな工夫が必要か、それはわたしが不得意な部分。若い発想力と営業力を得た今、目標とする年間販売台数は100台です。そのためにもさまざまな意見を取り入れ、さらなる改良を進めていきます」と、武藤さんもまた、力強い言葉で自身を鼓舞した。

ドローンやロボットなどスマート農業が進化を遂げる陰で価格や複雑な操作性により、その恩恵を受けられずにいる個人農家は少なくない。Ziraiyaは機械に不慣れな人や高齢者でも活用できるスマート農業として、全国展開へとかじを切った。

水稲用農薬散布ボート「Ziraiya(ジライヤ)」

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