冷やすだけではダメ。酷暑での野菜の扱い方
タケイファームでは収穫してすぐの野菜を、客先に翌日に届くように送っています。収穫当日の天気が雨予報になっているからといって前日に収穫することはありません。悪天候であれば収穫ができないため、延期する旨を伝えています。タケイファームはあくまでもとれたてにこだわっているからです。客であるシェフからは、「鮮度がすごくいい、武井さんの野菜だとすぐにわかる」と言われています。
しかし、夏場はその状態を保つことは簡単ではありません。他の農家と差別化するためにも、なるべく収穫したての良い状態で客に届けるためには、ひと手間もふた手間も必要です。
特に少量多品目農家で野菜セットを販売している農家は、クール便で送るから大丈夫だろうと思わないほうがよいでしょう。
しおれた野菜を送るのは絶対NG!
しおれた葉物をそのままFG袋に入れて出荷してはいませんか。野菜は収穫の瞬間から劣化が始まっており、発送するときには少ししおれたぐらいでも、客先に届くときにはかなりの劣化になってしまっていることが少なくありません。
タケイファームの客はレストランですが、発送した野菜が都内の店に到着するのは翌日午前中。レストランはランチの仕込みや営業があり、全ての店が届いた野菜の仕込みをすぐにできるとは限りません。店が野菜を確認する頃に、葉物野菜がクタクタの状態になっていれば品質が悪いと判断されてしまうでしょう。調理法がゆでたりソースにしたりする調理法であれば、多少クタクタになった状態でも使用可能ですが、生のまま調理するのであれば水につけるなどして戻さなければなりません。使う側としては、クタクタになった野菜を戻す作業は時間のロスになりますし、状態が悪くなったものは復活しませんのでクレームにつながる可能性もでてきます。
しかし、夏場であっても届いた野菜がシャキッとしていたら、あなたと他の農家との差別化につながります。これは、レストランだけでなく、一般消費者も同じです。クール便で送っても、すぐに冷蔵庫に入れてくれるとは限りません。客が使うタイミングは人それぞれ。届けた野菜が農家が思っているように扱われているとは思わないことです。
自分の野菜の価値を高めると同時に、客に喜ばれる品質を保持するための調整・梱包・発送方法を工夫しなければなりません。
そこで、タケイファームで実践している工夫をいくつか紹介します。
収穫のための準備
近頃の猛烈な暑さは尋常ではありません。このような環境の中で、野菜の鮮度を落とさずに収穫するために、私は次のような方法を実践しています。
まず、収穫する順番を決める
少量多品目農家の場合、その日の納品に合わせ、葉物類、根菜類、果菜類など複数の野菜を収穫しなければなりません。そのため、収穫してから調整作業までにかかる時間を計算して、鮮度が落ちやすいものは最後に収穫するなど、その日の収穫する順番を決めます。
収穫した野菜の鮮度を落とさないための資材を前もって準備
複数の野菜を収穫するので、それぞれの野菜に合わせFG袋、衣装ケース、新聞紙、霧吹きなどの必要な資材を用意します。収穫後に準備するのはNG。その間にも野菜の鮮度が落ちてしまうので、少しの時間も無駄にはできません。
収穫はスピード勝負
収穫がスタートしたら時間との勝負です。
鮮度が落ちそうになる時は、収穫を2回、3回にわけ、その都度調整作業を行うようにしています。
収穫直後の調整方法でライバルに差をつける
低温で保管するための工夫
野菜は収穫されるとストレスを感じ、鮮度の劣化が始まります。そのままにしておくと、見た目から鮮度が悪い、あるいは品質が悪いと判断されてしまう可能性があります。劣化が進むのは、野菜は収穫された後も呼吸を続けているためです。野菜の呼吸を抑制するポイントの一つが低温保管。温度が高いと野菜の呼吸量は大きくなりますが、低温で保管すると呼吸を抑えることができ、鮮度の劣化を止めるのに有効です。
以前、この連載の中でも触れたことがありますが、私が収穫時に使っている車は軽バンです。私が軽バンを使う理由は、夏場の収穫時、エアコンを全開に効かせ荷室の温度を下げ鮮度の劣化を抑制するためです。
このように、収穫してから低温の中での保管ができる環境を作っているのですが、それでも時間の経過とともに鮮度は落ちていきます。しかし、調整作業次第では復活させることも可能、逆をいえば、ここが他の農家と差別化を図るチャンスでもあるのです。

収穫に使用している軽バン
シャキッとした葉物野菜を届けるための3つのポイント
しおれやすい葉物野菜は、特に工夫が必要です。私がシャキッとした葉物野菜を送るためにしている工夫を紹介します。
1. 収穫作業中の葉物野菜には時々霧吹きで水をたっぷりと与える。
収穫中にクタッとしないので、後の調整作業が楽になる。

収穫時、時々霧吹きで水分を与える
2. 収穫した葉物野菜はすぐに水に浸す。
他の野菜を調整している間に収穫する前の元気な状態まで復活してくる。
復活した葉物は、水を切るためキッチンペーパーで包んでFG袋に入れ出荷。

水に浸して復活させる

キッチンペーパーに包んでFG袋へ入れる
キッチンペーパーに包むと、外から中が見えないので、道の駅や直売所、スーパーなどの出荷には適しません。
3. 「水揚げ」をする。
オゼイユのような葉物野菜は水の中で斜めに茎を切って水を吸収しやすいようにする。

水揚げ作業
水に浸す際の注意点は、長く浸しすぎると水を吸収し過ぎて葉の色が変色したり、栄養素が流れ出てしまうことがあげられます。これを防ぐためにも、頻繁に野菜の状態を確認し、無駄に長時間水に浸し過ぎないことを心がけてください。

左はクタクタになったオゼイユ、右は水に浸して復活させたオゼイユ
泥はねの汚れを落とす
基本的にタケイファームでは野菜を洗うことはしませんが、先ほどのように鮮度を復活させる必要がある場合や、雨の日の後に泥がはねて汚れた野菜は洗います。品質が悪いと判断されないよう、葉物類や果菜類が中心で根菜類は洗いません。

収穫前の泥はねしたナス
使用するのはスポンジ。ホームセンターやドラッグストアで普通に販売されているもので、目の細かいウレタンタイプ。
雨が降った翌日の晴れた日に収穫する葉物野菜。泥が葉に付き固まってしまうとなかなか落とすのは大変ですが、葉物野菜は葉脈に逆らわず、やさしくなでるように洗えばきれいになります。

葉に付いた土をスポンジでふき取る
成長初期のナスは、株の低い位置に実をつけるので泥はねによって汚れてしまいます。
スポンジでやさしく洗い、放置しておくと水滴の跡が残るのでキッチンペーパーでふき取ります。

洗ったナスの水分をふき取る
クール便で送るときも注意
夏場に発送するにあたりクール便(冷蔵便)を使いますが、私が利用しているヤマト運輸の場合、その温度は0~10℃の間となります。結構冷たくなりますので、品目によっては傷んでしまうケースもあります。
例えば夏場を代表するハーブ野菜、バジル。
黒くなってしまったバジルを見たことはありませんか。バジルが黒くなるのには3つの原因があります。
1. 低温障害
2. 水に濡れている
3. 傷
少量多品目農家の場合、野菜セットなど複数の野菜を同じダンボールに入れて発送します。夏場はクール便を使用しますので、この中にバジルを入れると低温障害によって黒くなる可能性がアップします。リスクを抑えるために、できれば発送はしたくないというのが本音なのですが、バジルを送ってほしいと依頼が入ります。その時は、バジルをキッチンペーパーで包みFG袋に入れ、さらに新聞紙で包みます。大前提として、朝露などで濡れている状態での収穫はしませんし、洗うこともありません。

夏の代表ハーブ野菜バジルは低温が苦手
野菜の特性を確認して、最適な工夫をしよう
こんなに手間をかけているのか。と思った人もいるかもしれません。野菜作りには、種まき、管理、収穫、発送と一連の流れがありますが、作ることばかり考えて客に届けることをおろそかにしてはいけません。
そのためにも、自分が扱っている野菜の特性を知ることが大切です。知っていれば、調整・梱包作業を工夫でき、鮮度が良い状態で客に届けることができます。大事なところですので何度も書きますが、酷暑にはライバルの農家も頭を悩ませています。条件は同じ、酷暑をチャンスに変え、ライバルと差別化を図り、売り上げアップにつなげてください。
酷暑の中の収穫。自分自身が暑さにやられてしまっては収穫どころではありません。しっかりとした暑さ対策をして、水分補給をしてください。そして、私の収穫はスピード勝負ですので、収穫をスタートさせたら電話に出ないと決めています。