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北海道の牧草が日本の酪農を救う? 牧草収穫を請け負う“コントラクター”とは

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ライター:

連載企画:牛乳は愛

北海道の牧草が日本の酪農を救う? 牧草収穫を請け負う“コントラクター”とは

餌代の異常な高騰によって酪農業界は変革を迫られています。特に輸入飼料への依存度の高い本州酪農家は、供給の不安定さから牧草を確保することすら難しい状況となっています。そんな状況の中、注目されているのが北海道の牧草サイレージです。今回は北海道の牧草収穫作業委託会社を取材することで、本州酪農家への活用、ひいては酪農業界の未来を考えました。

未曽有の酪農危機

2022年の4月に飼料危機について記事を書きました。ぜひそちらも参照してほしいところですが、要約すれば円安やウクライナ問題、中国における畜産業の隆盛などさまざまな国際状況によって輸入飼料が軒並み高騰し、酪農経営を圧迫しているという内容です。
4月の時点で悪い状況も底を打って少しは改善するかと思いきや、事態はより深刻さを増しています。

配合飼料推移

2020年10月以前に比べ、これまでトン当たり3万円以上値上がりしている(グラフは全農の配合飼料供給価格改定の発表をもとに筆者が作成)

全農が3カ月ごとに改定している配合飼料価格は、2020年10~12月期に比べ、1年後の2021年同期には1トンあたり1万2850円上昇しました。そこから半年で7250円上がり、今年7月からの価格はさらに1万1400円上昇と、過去最大の値上がりをしました。このように、配合価格は過去最高価格を更新し続けています。

今回の飼料高騰の主な原因は急激に進む円安にあります。原材料価格が上がった分、それを小売り価格に転嫁し利益を確保することはごく当たり前のことです。しかしコロナ禍による外食産業での生乳需要の落ち込みなどを背景に需給のバランスが崩れ、生乳が余っている現在の状況において、生乳の引き取り価格を上げることができないのが実情です。結果的に飼料価格高騰の分だけ、酪農家の収入が減っているのです。
酪農経営者の一人である私も、4月の時点では「この危機を何とか乗り越えよう」という意識で奮闘していました。しかし今この状況は自助努力の限界を超えています。この1年に限って酪農は赤字産業であり、利益を残すこと自体はあきらめざるを得ないような段階に来ています。

飼料価格の高騰は一過性の面もあるかもしれません。ウクライナに平和が訪れ、コロナが過去の問題となり、円安も解消されれば状況は好転することでしょう。しかし希望的観測に頼るのでは盤石な経営とは言えません。中国の畜産業はまだまだ成長の余地を残しています。今後も輸入飼料に依存した畜産業は苦境を強いられるかもしれません。

そのような状況で、今私が最も注目しているのが北海道産の牧草サイレージの利用です。牧草サイレージとは青刈りした牧草を発酵させたもので、いわゆる粗飼料です。
飼料用トウモロコシは湿害に弱く、梅雨のある日本は北米などの輸出国に比べると自給率は低くなっています。一方牧草は外的環境変化に強く、酪農業において主要栽培品目になっています。
現在輸入している乾草を全て国産に置き換えることで、この危機を乗り越えられるのではないか、と考えたわけです。

北海道で利用拡大が進む“コントラ”

北海道は本州に比べはるかに広大な草地を持ちます。その面積は北海道を除くすべての都府県を合わせても届かないほどです。

飼料作物作付面積の内訳

出典:農林水産省「飼料をめぐる情勢 畜産局飼料課」

北海道では酪農に限らず農業経営の大規模化が進んでいます。下のグラフは2010年と2015年を比較したものです。100ヘクタール以下の規模の経営体は減少していますが、100ヘクタール以上の経営体は30%近く増加していることが見て取れます。

経営耕地面積規模別経営体数の増減率

出典:農林水産省「北海道農業の概要」

牧場の大規模化や法人化に伴い、1戸当たりの所有する草地面積は増加しています。一方で草地面積が増えた分の労働時間は当然増えます。
そのような事情もあってか、牧草収穫を外部委託することは昔に比べ大幅に増加しました。そのような作業を請け負う事業のことを「コントラクター事業」(コントラ事業)、その事業者のことを「コントラクター」(コントラ)と呼びます。

コントラクター数の推移

コントラクターの状況(出典:農林水産省「北海道農業の概要」)

そんな北海道の酪農の実態を見てみたいと、静岡県で朝霧メイプルファームを経営する私、丸山純は梅雨に入った6月の閑散期を利用し、オホーツク海沿いの牧草収穫作業を研修・視察させてもらうことにしました。
今回訪れたのは幕別町の株式会社しんじゅです。2017年に設立されたまだ新しい会社で、経営コンサル業を主業務としています。

しんじゅでは昨年からコントラ事業に参入し、十勝を中心とした道東エリア、オホーツク海沿岸エリアの牧草収穫作業を請け負っています。

コントラ事業に参入した理由

収穫作業を実際に見学し、お手伝いした後、しんじゅ代表取締役の森神寿裕(もりがみ・としひろ)さんにお話を聞きました。

森神さん

森神寿裕さん。十勝管内の農協の営業部経営課経営係長を経て、2017年にしんじゅ入社。2018年4月から現職

バンカーサイロの上空写真

バンカーサイロ。畑で収穫し刻んだ牧草をここに運び、貯蔵するのがサイレージ収穫作業

丸山:しんじゅさんはもともと酪農コンサル業が主要業務だと思いますが、コントラ事業を始めたきっかけは何だったのでしょう。

森神:北海道では広く草地を保有する農家が多い一方で、人員不足によって牧草収穫まで手が回らないという実情があります。困っている農家を助けることが当社の使命です。少しでも農家さんの手助けになるのであれば、という思いで始めました。

牧草を刈り取るモアコン

収穫作業は最初にモアーコンディショナーで草を刈る

牧草を収穫するハーベスター

その刈り取った草をハーベスターが集め、ダンプなどに詰めてバンカーサイロまで運ぶ

丸山:牧草収穫作業の請負が主とのことですが、2022年現在の請負面積はどれくらいですか?

森神:概算で3600ヘクタールほどになります。道東、道北エリアにおける地域の農家さん、農協、TMRセンター(混合飼料を作る施設)などから収穫作業を請け負っています。

バンカーサイロに草を降ろす

運んできた牧草をサイロで降ろす

ローダーでサイレージを鎮圧する

ローダーで鎮圧する。これによって空気がなくなり乳酸発酵が進む

丸山:3600! 私の牧場が40ヘクタールで本州であればまあまあ大きい方なのですが、桁が二つ違いますね。さすがです。
それにしても、収穫の人員が不足する原因は主にどこにあるのでしょう。
地域外のしんじゅさんのような会社に委託するよりも、地域内でコントラクター会社を設立するわけにはいかないのでしょうか? 地元に雇用も生まれるのでいいことばかりだと思うのですが……。

森神:もちろん地域のコントラはあるのですが、高齢化が進んでおり、人員不足の問題はどこの地域も抱えています。
他には、繁忙期と閑散期の差があります。確かにすべての地域に地元に根付いたコントラ会社があるのが一番なのですが、収穫作業は夏から秋にかけての限られた期間しか行いません。一年を通じて雇用するには、冬の仕事がなければならないのです。
北海道は除雪作業など冬の仕事もあるにはあるのですが、それだけでは夏の人員とのバランスをとることはできないのです。

コントラスタッフたち

コントラスタッフたち。若いメンバーが中心になっていて、とても明るい雰囲気でした

丸山:なるほど、通年で雇用しなければならない難しさがあるのですね。しんじゅさんはその季節の隔たりをどうカバーしているのでしょう。

森神:当社には60人のスタッフがいます。コントラ部門以外にも農機具、重機などの整備を行う部門も有しています。他にも普段はTMRセンターで餌づくりを行うスタッフを動員するなど、全社をあげてコントラ作業に取り組むことで、人員を確保しています。コントラ作業には期間雇用も含め、25人から30人の人員を配置しています。

丸山:普段から人員に余裕を持たせる企業ならではの強みですね。

森神:とはいえまだまだ当社も余裕があるとは言えず、さらなるニーズに応えるために随時社員募集を続けています。北海道はコントラ事業に限らず、人員確保に苦労している農家さんは多いです。

丸山:現在、飼料の高騰や物流の混乱などで、本州の酪農家が深刻な牧草不足となっています。本州へ牧草を出荷するなどの計画はありますか?

森神:今は北海道の農家さんたちの要望に応え、その牧場で利用する牧草の収穫を手伝うことで精いっぱいなのが現状です。ですが、人員を十分に確保することで余剰の牧草を本州の酪農家の皆様に届けることができるようになれば、北海道の酪農家さんの収入にもなり、本州の酪農家さんの助けにもなるかもしれません。今後そのような要望が農家さんからあれば、応えていくことも検討していきたいです。

丸山:日本の酪農業が危機を迎える中、本州と北海道が互いに支え合って乗り越えていきたいですね。

日本酪農の未来を考える

現在の酪農危機とも呼べる状況は、酪農業の産業構造そのものの再考を促しているように感じています。

世界人口は増加の一途をたどっています。自国で完結する農業を目指すために、輸入に依存した農業から脱却する必要があるかもしれません。

北海道に比べ、本州の利点は消費地が近いこと、雇用が比較的容易なことがあります。
例えば本州から北海道へコントラ人員を派遣するなど、画期的な仕組みを作れないものか、と思いをはせました。

取材協力:株式会社しんじゅ

しんじゅ本社

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