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飼料危機を乗り越える! 外的要因に左右されない農業経営とは

maruyama_jun

ライター:

連載企画:牛乳は愛

飼料危機を乗り越える! 外的要因に左右されない農業経営とは

未曽有の酪農危機が訪れています。畜産にとって必要不可欠な穀物相場は、上昇する一方です。乾草や備品などの輸入品も軒並み価格が高騰しています。私の経営する朝霧メイプルファームも、かつてないほどの危機に瀕しています。この危機を乗り越えるために何ができるのでしょうか。同じ畜産を営む経営者として、一緒に考えていきましょう。

過去最高値を更新する飼料価格

畜産業にとって必要不可欠な要素、それは飼料です。餌がなければ畜産を営むことはおろか、動物を生きながらえさせることすらできません。
海外から輸入している飼料の相場が、2022年4月現在、かつてないほど上昇しています。JA全農は、2022年1~3月期の配合飼料供給価格について、前期(21年10~12月期)に比べて全国全畜種総平均で1トン当たり2900円値上げすると発表しました。これにより配合飼料価格は最高値をさらに更新しました。

私は経済の専門家ではなく一農家なので、飼料価格の上昇を引き起こしている原因を断定することはできません。誤った情報や憶測で混乱を招くことは避けたく、あくまで一つの意見として述べさせていただくので、そのような前提で読み進めてください。

現在の飼料価格上昇には主に2つの原因があるようです。「中国における畜産需要の旺盛化」、そして「新型コロナウイルスによる物流の混乱」です。
本筋からはそれるので、詳しい資料や説明は割愛しますが、中国における畜産、特に養豚の飼養頭数の増加、大規模化に伴い、国際的な配合飼料の引き合いが高まっているようです。中国の経済成長、それに伴う食生活の変化が背景にあるのかもしれません。

新型コロナの影響についても、原因はさまざまです。これまた本筋とはそれるので詳しくは割愛しますが、畜産に限らずあらゆる物価が上昇していることは、ほとんどの一般消費者が実感していることでしょう。

追い打ちをかけるように始まったロシアによるウクライナ侵攻によって、今後更なる混乱が予想されます。欧州を支える穀倉地帯であるウクライナの危機は、遠い国である日本にも確実に影響を及ぼします。
また、執筆中の2022年4月時点で円安はさらに進み、穀物相場の安定にとって好材料を見つける方が難しいような状況です。

飼料相場高騰の原因は、ほとんど海外で起こっていることといっても過言ではありません。

つまりこの危機を乗り越えるためには、海外のできごとに影響されない経営体を目指すことが求められているように感じます。

外的環境要因にどう対応するか

外的環境要因、経営リスクを、どのようにマネジメントすればいいのでしょうか。
私が考えるに以下の3点があるように思います。
・自給飼料の比率を高める
・食品副産物を有効利用する
・飼料用米や稲WCS(ホールクロップサイレージ)の検討

自給飼料の比率を高める

輸入乾草への依存度を下げ、自農場で栽培した牧草の比率を高める。それが収支の改善につながる。酪農家にとってみれば当たり前のことです。「できることならそうしたいよ」。そんな声が聞こえてきそうです。自給飼料を増やすには、それだけ牧草畑が必要で、収穫のための人員も必須です。

せめて限られた面積で最大量収穫するために電気柵の設置を検討するのはいかがでしょうか。メイプルファームでは、できる限りすべての畑に鹿よけの電気柵を設置しています。獣害の減少によって、牧草の収量は確実に増加します。
春のうちに重い腰を上げて、今まで手を付けてこなかった電気柵の設置に着手してみてください。
設置はしたけれど、メンテナンス不足で柵が意味をなしていない。耳の痛い話ですか? メイプルファームではちょうど今のように春になると、すべての電気柵の状況をチェックし、メンテナンスをしています。

ピンチの時こそ、小さいことからやっていきましょう。

電気柵のチェックはマメに行います

食品副産物を有効利用する

メイプルファームでは、豆腐を製造する際に副産物として発生する「オカラ」を牛に与えています。オカラを工場から入荷したそのままの状態ではなく、トウモロコシなどの配合飼料と混ぜ、乳酸発酵させた「オカラサイレージ」に加工することで、繊細な胃を持つ牛に対し、より安全に給与することができます。

トウモロコシや大豆を混合したオカラサイレージ

畑を広く持つ北海道の酪農家に比べ、本州の酪農家が生き残るための道の一つは、食品副産物の有効活用だと思っています。

これもすぐに始められるようなものではなく、やれるものならやりたいけどできない、そんな農家さんがほとんどかもしれません。
食品副産物を活用するには、物流の関係上、ある程度の量を受け入れることができるキャパシティーが求められます。工場からすれば小さな牧場10軒に少しずつ配送するよりも、大きな牧場1軒に一度に運ぶ方が効率的なことは言うまでもありません。

明日から食品副産物を有効利用しよう、ということではありません。例えば地域の畜産関係者が集まる勉強会で、大規模な地域のエサ工場である「TMRセンター」の建設について話し合うとか、地域に存在する有効活用できそうな副産物はないか考えるなど、将来に向けたプランを考えるタイミングなのではないか、と思います。

サイレージは発酵品質がポイント。90日以上寝かせています

飼料用米や稲WCS(ホールクロップサイレージ)の検討

国内の米消費量の減少に伴い、食料米に利用されていない田んぼが多くあります。では米を栽培しなくなったすべての田んぼが放棄されているかといえば、そうではありません。
我が国の政府は家畜用の飼料を栽培した米農家に、一定額の補助金を給付する制度を設けています。対象となるのは、飼料用米やWCS用稲と呼ばれるものなど。米ではなく稲そのものを草として給与する飼料を「稲WCS」と言い、そのために栽培される稲をWCS用稲と呼んでいます。牛が普段食べる牧草もイネ科の植物なので、稲も立派な飼料となりえます。

飼料に向いた品種の米を栽培し、畜産農家に販売する。補助金ありきの制度ではありますが、酪農家と米農家双方の利になる仕組みとなっています。

米の消費量が落ちているなら田んぼを放棄してもいいのでは? そんな疑問が聞こえてきそうです。しかし仮に島国である日本に、海外の食料がほとんど入ってこなくなるような異常事態に陥った場合、放棄された田んぼですぐに作付けを再開しようとしても難しいでしょう。一度稲作をやめてしまった荒れた田んぼを、再び利用するには大きな労力を必要とします。
飼料用米を作って我々のような畜産農家に供給してくれることも、農地の保全の一環として、広く農業全体に貢献しているといえるのではないでしょうか。

食料が一切入らない。そんなことは起こらない? 予期せぬ事態というのは、いつ起こるか分からないからこそ、緊急なのです。実際に今のこの未曽有の状況を予測できた人がはたしてどれだけいるでしょうか。
そう遠くない未来、人口の増加を支えられなくなった世界は、自国の食料を賄うのに精一杯で、他国へ食料を輸出することをやめてしまう。そんなおそろしい未来への想像が、杞憂(きゆう)に終わることを祈っています。

稲WCS利用の是非

実は上記3つの対応策のうち、稲WCSだけは朝霧メイプルファームで実行していません。もう数年前から稲WCSの利用を検討していますが、実際に給与するに至っていない理由があります。
飼料、特に牧草などの粗飼料は消化率と乳量に相関関係があるため、稲WCSが乳量を減少させる、つまり生産性を落とす原因となる可能性があるからです。

メイプルファームの牛たちは、比較的高乳量の部類にあると思います。その生産量ありきの収支なので、仮に輸入飼料より安価な稲WCSを使うことでエサ代を下げても、それに伴って生産量が落ちてしまっては減収となる場合があります。

酪農はそういった意味で非常に高度な経営判断が求められると思います。
メイプルファームでもこの異常事態において、初めて稲WCSの利用を本格的に検討しています。一度に大量に給与するのではなく、少量ずつ牛の調子と生産量を注視しながら、最適なバランスを模索している最中です。

私たちが普段食べている作物に比べ、歴史の浅い飼料用米や稲WCSは、まだまだ品種改良の余地を大いに残している作物だと思います。今後の改良によって輸入乾草に負けないような品質になってくれれば、それほど理想的なことはありません。

平和と安息を求めて

今、酪農を続けるだけで精一杯だと思っているのは私だけではないはずです。暗い要素しかなく、明るい展望が見いだせないような状況です。
生き残るしかありません。それ以外に何を言えばいいのでしょうか。私には安易な励ましの言葉は不適切に思えます。

元々農業はその場所で生きるための手段として発展してきました。結局のところ持続可能な農業とは、生産活動がなるべく狭い範囲で完結する仕組みづくりなのでは、と考えることが増えました。
その気づきを与えてくれたのが、この穀物相場の急激な上昇です。

できるだけ自給飼料の比率を増やす。堆肥(たいひ)を地域に還元し、廃棄される副産物があれば有効活用する。稲WCSに限らず、地域にある資源を最大限利用する。

自分の住む地域や国内で生産活動が完結し、他の地域や国外から資源を必要以上に欲しがることもない。──ましてや奪うことなどない。

すぐ近くにいる人々が幸せになることを実践すること、それが平和への道だと信じています。

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