条件のいい農地を探して
7月半ば、アグリードなるせの会長である安部俊郎(あべ・としろう)さんが案内してくれた先は、松島湾に浮かぶ宮戸島。橋で渡ることができるこの島で、同社は2022年から子実トウモロコシの栽培に取り掛かっている。
「ここのいいところは一つの団地で作れることです」(安部さん)。その言葉どおり、15ヘクタールある見渡す限りの農地には、大人の背丈を優に超える収穫間際の子実トウモロコシが広がっている。
同社は、2014年産で子実トウモロコシを作り始めてから、圃場(ほじょう)条件のいい場所を探し続けてきた。地下水位が高すぎない、分散錯圃(さくほ)にならないといった条件を踏まえて、たどり着いたのがここ宮戸島である。
今年産では初めて額縁明渠(めいきょ)をつくるなど、排水対策を徹底した。その効果が出ているようで、安部さんは「反収は予想していた400キロを大幅に上回る700キロはいきそうですね。そうなれば過去最高です」と笑顔を見せた。
今年産では、早生(わせ)と晩生(おくて)の2種類を初めて作ることにした。理由は、できるだけ稲の収穫と競合することを避けるため。同一の乾燥調整機を使うこともあり、作業が重なる時期を減らせるようにした。
非遺伝子組み換えの国産飼料という付加価値
アグリードなるせは、子実トウモロコシを作り始めた当初、鶏卵を買い取ることを目的に、県内の養鶏農家に出荷していた。理由は、同社が加工して直売するバウムクーヘンの原料にしたかったから。国産かつ非遺伝子組み換えである餌で育てた鶏の卵を原料にするということで、付加価値を持たせたバウムクーヘンを売り出すつもりだった。
ところが、これまで養鶏農家が購入してきた飼料用トウモロコシをすべて自社の生産物で代替とすると、鶏卵の単価が高騰してしまい、「1ロールのバウムクーヘンがとんでもない価格になってしまうことが分かった」(安部さん)。
そこで、生産した子実トウモロコシは別の畜産農家に卸していた。
そんなときに農研機構の紹介で契約することになったのがフリーデンだ。全国に養豚場を持つ国内有数の規模を誇る養豚業者である。
2022年産はフリーデンの岩手県一関市にある養豚場向けに出荷する。
アグリードなるせが請け負うのは、収穫した子実トウモロコシを水分率で12%に乾燥するところまで。
所得はコメよりずっといい
アグリードなるせは「水田活用の直接支払交付金」を活用する。また、前作に牧草を栽培することで、二毛作の助成金の対象にもなっている。これらを合わせると、10アール当たりの所得は10~11万円を見込んでいる。安部さんは「コメよりはずっといい」と打ち明ける。
二毛作として、2022年産では一部の農地で牧草のイタリアンライグラスを作り始めた。関連の機械は持っていないので、供給先の畜産農家にオペレーターごと出してもらい、それ以外の作業や梱包に必要な人手だけアグリードなるせから出している。畜産農家からは「イタリアンライグラスがぜんぜん足りないので、もっと作ってほしい」との要望が来ているという。来年は子実トウモロコシを作っている15ヘクタールすべてで栽培する予定だ。
子実トウモロコシを作るようになって良かったのは、その後の麦作への好影響だ。同社では子実トウモロコシを作り始めたところ、輪作として栽培する小麦の収量が以前と比べて140%になったそうだ。「トウモロコシは根が1メートル以上張るので、言ってみれば天然のサブソイラ(下層の土を破砕する農機)ですよ。排水対策になるので、後の小麦の収量がすごく良くなります」(安部さん)
作り始めるなら、農協との連携を
全国でもいち早く子実トウモロコシの生産に乗り出し、9年目を迎えたアグリードなるせ。安部さんにこれから作り始める農家へのアドバイスを尋ねると、「単独でやるべきではない」という答えが返ってきた。
全国的に子実トウモロコシの生産は個人での取り組みが少なくないなか、「本来は農協が中心になってやるべきです。乾燥調製や保管といった関連施設を持っていない個人の農家がやるのはリスクが大きすぎる」と安部さんは話している。