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青森・岩手県境不法投棄事件を回顧。現場はいま

窪田 新之助

ライター:

青森・岩手県境不法投棄事件を回顧。現場はいま

かつて日本最大の「ゴミ捨て場」となった現場が、青森・岩手の県境にある。産業廃棄物を不法投棄された農地や牧草地などの地下水を浄化するため、青森県が田子(たっこ)町で運用してきた処理施設が、2022年6月頭をもってその役割を終えた。不法投棄による土壌汚染などの問題は解決したのか。全国で同様の事態が後を絶たないなか、その教訓とは。

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浸出水処理施設が稼働停止

青森県が運営してきた田子町の浸出水処理施設

6月中旬、「ニンニクの町」として知られる田子町の人里離れた山中にある「浸出水処理施設」を訪ねた。同施設は、くみ上げた浸出水(汚水)を1カ所に集めてから、水質汚濁防止法の排水基準よりも厳しく設定した「計画処理水質」の基準まで汚染物質の濃度を下げたうえで、近くの河川に放流する役割を担っている。青森県が2005年6月に稼働させてから、1日あたり最大400立方メートルの汚水を処理してきた。

県環境保全課の竹谷公貴(たけや・きみたか)さんと工藤志保(くどう・しほ)さんの案内で施設内に入ると、荷物を積んだ台車が通路を行き交い、あわただしい雰囲気である。

「じつは先月で施設を稼働するのをやめまして、ここは今年度中に撤去する予定なんです。いまは片付けしているところなんですよ」(竹谷さん)
県は2022年2月に開いた原状回復対策推進協議会で2022年度中に同施設の稼働を止めて、撤去する方針を示したばかりだった。一帯の地下水に含まれる汚染物質の濃度が、馬淵川水系の環境に影響が出ないよう設定された基準である「計画処理水質」を3年以上下回っているからだ。

「このウグイも午後にはペットショップが引き取りに来るんです」
そう語る工藤さんが指さした先には、水槽に何匹ものウグイが泳いでいる。中の水は汚水を浄化したものだ。ウグイは、不法投棄された現場付近を流れる馬淵川水系が清流であることの証し。同施設が一つの役目を終えるのと併せ、ウグイもここを離れる。

ウグイを飼っていた水槽

廃棄物量は豊島(てしま)のケースを超える150万トン

青森、岩手両県にまたがる一帯で、産廃の不法投棄の問題が発覚したのは1999年。八戸市に本社を置いていた中間処理業の三栄化学工業(2001年に解散)と、埼玉県にあった産業廃棄物の処理業者の縣南(けんなん)衛生(2001年に破産)が共謀し投棄していた。

三栄化学工業は不法投棄を隠すため、産業廃棄物を入れたらすぐに土をかぶせ、その上に産業廃棄物を入れたらまたすぐに土をかぶせるということを繰り返した。

両県に埋められた産廃は約150万トンで、青森県に限れば約115万トンに及んだ。この問題で有名な香川県の豊島の廃棄物量が約94万トンといえば、その大きさが分かるだろう。いまに至るまで国内最大規模の不法投棄の事件として知られている。

これだけの規模の不法投棄をいつまでも隠し続けられるはずもない。「夜中にへんなものが持ち込まれているらしい」という噂はたちまち広がる。1999年に両県警の強制捜査により、事件は明るみに出た。

安全性をデータで示し、風評被害を回避

これにより、ニンニクの町は騒然となった。農業分野で懸念されたのは、農地の土壌汚染と風評被害である。

事件が発覚した当初から、田子町役場でこの問題を担当してきた産業振興課の中澤一郎(なかざわ・いちろう)さんによると、町が農協とともに真っ先に取り掛かったのは、取引のある市場関係者への対応だ。農地周辺の水質と収穫した農産物が汚染されていないことを証明するデータを毎年提示してきた。

結果、風評被害は一切起きなかったという。中澤さんは「口で言っても信用してもらえないから、データで示すことが大事だと感じた」と振り返る。

環境基準に新たな物質追加で浄化延長へ

不法投棄の現場。手前が青森県、土がむき出しの向こうは岩手県。青森県では植林を進めてきた

一方で、県が原状回復に向け、産廃と汚染土壌の撤去に加えて地下水の浄化をしてきたことはすでに述べたとおりだ。廃棄物と汚染土壌の撤去は2013年12月に完了した。

しかし、問題は解決したのかといえば、そうではない。田子町の現場では、水質汚濁防止法で排水基準が新設された「1、4―ジオキサン」が、いまも局所的に高濃度に検出されている。このため、浸出水処理施設は閉鎖するものの、今後は、地下水中の「1,4-ジオキサン」の濃度が環境基準値以下となるまで、清浄な水を注水しながら汚染地下水を揚水することを続ける。県は、この作業が終わるめどを2026年度中と見込んでいるが、「どのように下がっていくか読めないところもあるので、延びることもありうる」(環境保全課)という。

再発防止には監視すること

田子町では、事件の発覚から20年以上が経ったものの、問題は終わっていなかった。廃棄物撤去完了までの間、両県で投じられた事業費は約708億円(うち青森県は約477億円)に及ぶ。

問題の解決に要した時間や金を鑑みても、産廃の不法投棄は決して起こしてはならない。再発防止のためには、田子町の中澤さんは「とにかく監視すること」と説明する。

青森県では、再発防止策として定期的にヘリコプターを飛ばして山間地や森林で不法投棄が起きていないかを確認したり、全市町村に廃棄物不法投棄監視員を配置して巡回に当たったりしている。中澤さんは「監視していることをアナウンスすることが大事。けん制することで、大規模な不法投棄は防げる」と話している。

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