作業環境を快適にしたい
約10年前に脱サラして農業を始めた中山さん。後発ながら率先して環境制御技術を次々に導入し、反収で40トン以上を達成した。その取り組みを若手農家らが模倣するようになるなど、いまや産地のキュウリづくりをけん引している。
そんな中山さんがいま注力していることの一つが、作業環境を快適にすること。7月下旬、そのハウスをおよそ1年半ぶりに訪れると、室内の印象が大きく変わっていた。地面は土だったのがコンクリート敷きに、養液栽培の方法は土耕だったのが固形培地耕になっていたのだ。
夏場の過酷な作業をなくす
固形培地とは、植物の繊維や樹脂、鉱物などを土壌の代わりに使用した、作物を育てるための土台のこと。
これを使った栽培に変更した理由は、6月から8月にかけての土づくりと太陽熱消毒の作業負担をなくしたかったため。「夏に土づくりのため、大量の麦わらや米ぬかを入れるのは、とにかくきついんです。太陽熱消毒にしても同じ。どれくらいきついかといえば、猛暑日にフルマラソンするようなものです。自分は経営者だからなんとかやってきたけど、従業員だったらそんなしんどい思いはしたくないですよ」
こう説明する中山さんは、農場の規模拡大を図り、雇用型経営を進めている。いまも35アールのハウスを増築中で、完成すれば経営面積は92アールになる。「佐賀県で施設のキュウリを栽培している農家の中では、おそらく一番の経営規模になると思います」とのこと。
規模拡大を図るのは、産地の維持と発展のためだ。所属するJA伊万里きゅうり部会は市場出荷が中心。離農が相次ぐなか、産地の信頼を保つには、残る個々の農家が規模を広げることが望ましい。
では、経営面積とともに雇用を拡大したとき、従業員は自分と同じように過酷な土づくりや太陽熱消毒をこなすだろうか。中山さんは「そうなるとは思えなかった」と打ち明ける。
摘心から更新つる下ろしに
雇用型経営を拡大するため、中山さんは整枝法も改めた。経験値が求められる摘心栽培から、初心者でも適期だけ逃さなければこなせる更新つる下ろし栽培に変更したのだ。
別のハウスで先に試したところ、初年度に10アール当たり40トンの収量を挙げた。過去には最多で44トンを挙げたこともある土耕時代に比べると反収は下がったものの、更新つる下ろしで40トンを達成したことには別の意味で手ごたえを感じている。中山さんは「従業員にも管理がしやすくなったことで、経営面積を広げていける素地ができた」と語る。
外気温よりも低いハウス室温を実現
作業環境を快適にするために、工夫していることをもう一つ挙げれば、ハウス内にある鉄骨に白色の塗料を塗っていることだ。その目的は二つある。一つは、太陽光を反射させて作物に当てて光合成を活発にすること。もう一つは、鉄骨が熱を持つことを防ぎ、とくに夏場に室温の上昇を抑えることにある。
「ハウスの中のほうが涼しいですよね」。中山さんがこう言うとおり、外気温よりも室温のほうが数度は低い感じがする。
「軒が高い分だけ換気が良いこともあって、ここの室温は外気温よりも低い。土耕で、軒が低いパイプハウスだと、夏場であれば昼から2時くらいまでは暑くて仕事になりません。でも、このハウスなら、昼休憩を取ったら午後1時からすぐに仕事できますよ」
その言葉どおり、従業員は午後1時に昼休憩を終えると、ハウス内に戻っていった。そのうちの一人である中井大樹(なかい・だいき)さんは、このハウスの作業環境について、「最高です」と一言。さらにこう続けた。
「夏の暑いときにハウスで肥料をふったりすることが要らなくなった。手数が少ないだけで、だいぶ助かります。土耕でなくなったおかげで辺りがほこりっぽくなく、体が汚れる不快感が減ったこともありがたいですね。それからマルチやかん水チューブを張ることもなくなり、とても楽になりました」
笑顔を見せながら話すその姿が印象的だった。