観光農園を無料開放! オンリーワンを目指す農業経営とは?
全国の農場を渡り歩くフリーランス農家のコバマツです。今回訪れたのは、沖縄県読谷村(よみたんそん)にあるSunset Farm Okinawa(サンセットファームおきなわ)。農場で栽培しているキクやヒマワリを生かした観光農園を展開しているのですが、なんと入場料は無料。無料で観光農園をしている意味とは? 農園が目指すNo.1ではなくオンリーワンを目指す農業経営とはどのようなものなのでしょうか?
ライトアップされたキク畑を無料開放!
沖縄では夜、畑の近くを車で通ると、ライトアップされている畑をちらほら見かけます。「お祭りか何かのイベントか?」と思っていたのですが、キクの栽培のために電気をつける「電照栽培」という手法なのだそう。キクの生産が盛んな沖縄県ではよく見られる光景です。
夜ライトアップされている畑(画像はイメージです)
この風景を生かし、イルミネーションならぬ“キクミネーション”と名づけ、キク×観光農園を実践している農園が読谷村にあると聞いてやってきました。なんと、無料で観光農園を開放しているとのこと。無料でどうやって農業経営に生かしていこうと考えているのでしょうか? 農園の代表にいろいろと聞いていきたいと思います。
経営者になりたかった! スタイリストの道から農家を継ぐ!
今回やってきたのは、読谷村にあるサンセットファームおきなわ。農園に到着して担当者を探していると、向こうからめっちゃスタイリッシュでかっこいい人がキター!!!
その姿はまるでモデル⁉
コバマツ
す、スミマセン! サンセットファームというキク農家の池原公平(いけはら・こうへい)さんに会いに来たんですけど……(ドキドキ)!
池原さん
コバマツ
えー! 今まで出会った農家の中で一番農家に見えませんでした! オシャレすぎます!
■池原浩平さんプロフィール
農業生産法人株式会社IKEHARA(いけはら)代表。東京生まれ、沖縄育ち。高校卒業後、ファッションの専門学校に進学。東京でスタイリストのアシスタントや衣料品の営業職を経験した後に、沖縄の実家のキク農家に就農。2015年にIKEHARAを設立し、菊の生産・販売だけでなく、キクミネーション観光農園Sunset Farm Okinawaの運営を行っている。
農家の父に経営者の弟子入り! スタイリストから農家へ転身!
コバマツ
池原さんは東京でファッション関係のお仕事をしていたんですよね? どうして農家になろうと思ったんですか?
もともと「経営者になりたい!」という強い思いを持っていました。ファッションの道を選んだのも、スタイリストや洋服の営業をしていたら独立しやすいかなと思ってやっていたんです。そのうち「実際に経営者から直接学びたい」と思うようになって。当時僕が知っていた経営者は唯一、沖縄で農家をしている僕の父だったんです。
それで、経営について勉強するため、父のもとに僕が23歳の頃に弟子入りしたのが農業を始めるきっかけでしたね。
池原さん
コバマツ
経営者になりたい!という思いが入り口だったんですね。農業はスタイリストとは全く違う分野ですが、始めるときの抵抗や不安はなかったんですか?
特に抵抗はなかったですね。体を動かすことが好きだったので、むしろやっていくうちに農業が好きになっていきましたし、農家の先輩たちに対するリスペクトも強くなっていきました。やり始めたら、バリバリ農業現場の仕事ばかりで、経営について学べるわけもなかったんですけどね……。
池原さん
農業生産法人設立で夢の経営者に! 自分にしかなれない農家を目指す
コバマツ
経営を学ぶために農業に携わり始めたけど、実際に経営を学ぶことは難しかったということですか?
そうだったんですけど、妻から「農業を会社としてやるのもありなんじゃない?」と言われて、農業の分野で自分が経営者になるのも面白いかもしれないと考え始めました。そのタイミングと、父から「農場を任せたい」という話をもらったタイミングが重なって、2015年に農業生産法人である株式会社IKEHARAを設立しました。実際に農業経営者になりながら、経営を学んでいくことになりましたね。
池原さん
農繁期は17人ほどのスタッフがキク畑で働いている
コバマツ
経営者になる!という夢を農業で果たせたわけなんですね! 経営者になりたての頃の農場はどんな経営状態だったのでしょうか?
父がやっていた経営と変わらず、一般的なキク農家同様のキクの製造販売のみをしていました。売り上げも億超えていましたね。でも、やっていくうちに、自分が60歳、70歳になったとき後輩に「おれは農業でこんだけやってきたんだぞ」と言えるか?と考えたら、このまま売り上げだけを目指すビジネスモデルのままで自分は満足なのか?とすごく考えるようになりました。
池原さん
コバマツ
農産物の質と量を追求するのは農家として一般的ですが、新たなビジネスモデルのことも考えるようになったと。
そうなんです。先輩農家たちのことはリスペクトしているし、かっこいいと思っていて、それを目指したい自分もいたんですけど。彼らを超えるためにも新しい挑戦をしたい。そう考えて、観光農園を始めました。
池原さん
目指しているのはメーカー!? 無料で観光農園をするわけ
コバマツ
どうして新しい挑戦が観光農園だったんですか? しかも入場料無料ですよね?
キクがライトアップされ、写真映えするキク畑に変身
写真映えするスポットもたくさんある
沖縄は観光名所なのに意外とナイトコンテンツが少ないことに気づいて、電照菊のイルミネーションを生かした観光農園を作りました。キクだけでなくヒマワリの植え付け体験や収穫体験、撮影サービスなども行っていて、多くの人に喜んでいただいています。
でも、僕たちは観光農園をバズらせることがゴールというわけじゃないんです。
池原さん
コバマツ
そうなんですか!? InstagramやYouTubeチャンネルも開設していて、すごく情報発信している印象なんですけど!
Instagramもフォロワーが1万人近くいる
池原さん
コバマツ
メーカーって、ものを製造する企業のことですよね! 観光農園とどう結びつくのでしょうか?
観光農園という場を生かして、僕らの畑でとれた花などを使ったモノを販売したいと考えています。
通常のビジネスモデルでは、原料を買う→お土産を作る→お店に置いてもらうという流れなんですけど、そのやり方だと、先に大量のキャッシュがかかる。
沖縄県にはすでに、有名なお土産のメーカーがたくさんあります。同じやり方をしていては、勝てない。そう考えたときに、まずは僕たちのことを知っている人が集まるプラットフォームが必要だと思ったんです。花には興味がなくても、イルミネーションに興味がある人はいるし、観光が好きな人もいる。無料で観光農園を始めることで、農園に来た人がInstagramでタグ付けして発信する、それを見た人が農園に来るというループを作れます。来た人たち全てにインスタのフォロワーになってもらって、自分達の認知度を高められるということから無料で観光農園を始めたんです。
池原さん
コバマツ
自分達の商品を作ったときに、すでに認知度があって、売り先がある状態を作るために観光農園を始めたんですね!
入場料無料だけど低コストで、利益500万円!
コバマツ
観光農園では、来た人が自由にお花を持って帰れるんですよね! でも、「お気持ちBOX」というものが設置されているそうですが、これはどういったものなのでしょうか?
入場料は無料なんですが、「人は花にどれくらいの価値を感じるのか?」という実験をするために、「お気持ちBOX」を設置しました。農園に来て、花を収穫して持って帰ることに対してお金を入れない人もいれば、100円の人もいる、中には1万円払っていってくれる人もいて。1年目でおよそ、500万円の売り上げがありました。経費は、電照菊の電気代が月500円、10万本の花の種が1万8000円と、従業員1人いればできるんで、これはいけるなと思いました。
池原さん
収穫した花は持って帰ることができて
ハーバリウム作り体験もできる
コバマツ
入場料無料なのに利益500万ってすごいですね! 入場無料の観光農園でそれだけ利益があったら、実際にものを販売したり、入場料をもらったりした時はさらに売り上げが上がりそうですね!
今後製造販売を目指すのは、ニッチな農産物、バタフライピー!
コバマツ
無料で観光農園を展開し始めて、認知度も高まってきて、これから実際に製造、販売していきたい商品はあるんですか?
池原さん
東南アジアを原産とするマメ科の植物
青色がきれいなバタフライピーのドリンク
コバマツ
真っ青で奇麗な花! どうしてこれに目をつけたんですか?
ちょうど、何を生産していこうかと探していたときに、沖縄県が次世代のために「バタフライピーの研究を始めた」という話を聞いて生産を始めたんです。生産・加工がしやすくて、無農薬でできる。美容効果が高く、乾燥させれば何年かもつ。その情報を得て、バタフライピー研究所と一緒に生産をしています。県内でもまだまだ生産者が少ないので、ニッチで今後注目されていくのではないかと思ってこれを生産し始めました。
池原さん
コバマツ
観光農園でサンセットファームの発信力を高めつつ、ニッチな農産物・加工品の生産販売をしていくことができれば、オンリーワンの農園になっていきそうですね!
今後は電照菊と言えばサンセットファームというポジションを作っていく
コバマツ
今後はどのような農業経営を考えているのでしょうか?
まずは、引き続き発信力を高めて、自分のマーケットを持つこと。キクを生産してJAに卸して販売するということは続けつつ、自分の農園の名前で売ることもしていきたいですね。野菜農家の方などは、直販だけ、JAだけと販路を絞りがちですが、「高品質少量出荷」と「大量生産、大量流通」の両方の販路を持ったハイブリッドな経営ができることが、安定的な経営を続けていくためには必要なことだと考えています。
池原さん
コバマツ
直販、JA出荷、どちらもメリット・デメリットがありますもんね。生産力もつけつつ、発信力もあるからこそできる経営スタイルですね!
そして、今後は自分のポジション作りにより力を入れていきたいですね。
農家として70代80代の大先輩たちに品質では絶対に勝負できないんです。農家としての評価を捨てて、「電照菊ならこの人!」という認知度を高めてマーケットを作ること。農家としてNo.1ではなくオンリーワンを目指していきたいです。
池原さん
コバマツ
技術が優れているから認知度があるかというと、必ずしもそうではないですもんね。
認知度を高めることができれば、売り上げを上げることはもちろん、花や農業に興味を持ってもらえるような発信もできると思っています。若い人に「花に興味持ってください」と直接言って興味を持ってもらうのは難しいですが、観光という入り口からなら興味を持ってもらえるかもしれない。興味を持ってもらう入り口を作るエンタメ力も必要だと思っています。
池原さん
コバマツ
誰にもまねできない、オンリーワンの農業者になっていくことで、認知度を高めて、安定的な経営につなげていくんですね!
無料で観光農園をしているキク農家がいる。そう聞いて最初はなぜ無料で観光農園をしているのか?と疑問でしたが、影響力を持ってから商品やサービスの展開をしようと考えている池原さんの話を聞いて、認知度を高めるための場づくりなのだなと納得しました。
農業も、品質や生産量では先輩農家にはかなわないかもしれませんが、やり方次第でオンリーワンの農家になることができる。そのことで先輩農家を超える道を作ることができるのではないかと感じました。