炭疽病とは?
炭疽病は、カビの一種である病原菌が原因で発生する病気であり、多くの果樹や野菜に発生することが知られている。筆者らの栽培する熱帯果樹では、マンゴーやアボカド、バナナなど多くの果樹に発生する。また果樹以外の野菜でもキュウリやゴーヤーなどのウリ科植物、イチゴ、その他ほとんどの野菜で炭疽病が見られる。他にも、芝や雑草など、あらゆるものに感染する病気である。
病原体は、植物病原糸状菌(カビ)の一種である炭疽病菌。葉っぱや茎、花、果実など、あらゆる部位に付着することができ、小さく黒い点々としたものから、コインほどの大きなものまで、さまざまな病斑を形成する。炭疽病菌が付着した果実は、収穫時に健全な状態であっても、その後徐々に菌が活性化して、見た目だけではなく風味も損ね、最終的に全てを腐敗させてしまうとして、とても問題になっている。
炭疽病の症状とは
果樹の場合、果実品質を大きく低下させる
炭疽病に感染すると、果樹であれば、収穫後に果実表面に黒い病斑が現れ、次第に大きく発達し、最終的に腐敗させてしまう。
例えば、下の画像はマンゴーであり、収穫後、常温で5日保存していたときの様子である。
黒いシミが表面に広がっている。果肉は一見なんともなさそうであるが、実際は腐敗が進行しており、果肉がドロッとしており、刺激の強い酸っぱい臭いがある。
アボカドやバナナも同様である。
もちろん果樹によっても病斑は変わるが、症状としては、大体はほくろのような小さい病斑から始まり、その後それが発展し範囲が大きくなり、大きい黒ずみのような病斑が観察される。さらに進行すると、黒っぽい大きい病斑の中央部から、サーモンピンク色の分生子層と呼ばれるものが形成されることもある。写真のアボカドではそれがよく観察できる。
野菜の生育不良や品質低下、枯死につながる
野菜の炭疽病も、果樹と同様に発生する。生育不良だけではなく、果実品質の低下、ひどい場合は、株を枯らすだけではなく、畑の野菜を全て枯らしてしまうこともある。
以下は、キュウリとゴーヤーの葉に発生した炭疽病である。
作物の種類によって病斑部の特徴は異なるが、葉では局所的に脱色もしくは黄褐色や黒褐色のようになり、病斑部の中央は破れやすくなる。その後、病斑部の付近から枯れ始めて、最悪、株ごと枯死してしまうケースもある。また、ウリ科だけではなく、イチゴなどでも全国的に被害が発生しており、多くの生産者を悩ませている。
炭疽病菌は1種類ではない
炭疽病を引き起こす菌は、 Glomerella属または Colletotrichum属に属する真菌(カビ)で、何種類もある。そして、それぞれの菌によって薬剤感受性や生育適温は異なる。
例えば、マンゴーやイチゴの炭疽病菌として知られるGlomerella cingulataの生育適温は28℃前後、Colletotrichum acutatumは25℃前後とされる。
イチゴの場合では、前者に感染すると葉の斑点症状や葉柄の折損などが報告されており、後者に感染すると、葉枯れ炭疽病と言って、小葉の萎縮や果実の黒変などが発症する特徴がある。
2種ともに、伝染の仕方なども非常に類似しているために、防除方法などは同じで大丈夫だ。ただし、薬剤感受性は異なるため、きちんと農薬体系を考えて使用するべきである。筆者らは、無農薬で果樹や野菜を栽培しているため、農薬に頼らない方法で炭疽病の防除をしている。そのポイントは後ほど解説しよう。
感染源と広がっていく経路など
炭疽病は、雨や風などの影響で空気中を病原菌が漂い空気伝染するので、とても容易に感染が広がる。大体は、前年の植物残渣(ざんさ)などに残っていた病原体が感染源となったり、感染源の分生子層から風や雨によって分生子が飛び散り、健全な株に伝染したりすることが多い。そのため、雨や風が直接あたる露地栽培では、特に炭疽病の被害が多く報告されている。
特に梅雨時期や、気温が25℃前後で湿度の高い時期には、とても急速に広がっていく。
炭疽病菌の生育温度の下限は10℃までだと言われているが、前年の植物残渣に残る病原菌は、冬を越すことが報告されている。そして翌春に健全な株に感染することがあるので、残渣の処分にも注意が必要だ。
薬剤に頼らない炭疽病防除のポイント
炭疽病は胞子が風にのってきて感染する、もしくは雨があたり散らばって感染が広がる性質がある。そのため、一番効果の高い防除方法は、ビニールハウスでの栽培である。しかし露地での栽培しかできない人も多いはずだ。そこで、露地栽培でもできる炭疽病の防ぎ方を7つ紹介する。
- 被害株の除去を徹底する
- 剪定(せんてい)したものなどの残渣は撤去する
- 密植を避けて風通しを良くする
- 混植を行う
- 耐病性のある品種を導入する
- ハサミなどを使用する際は、消毒を行う
- 苦土石灰なども効果的
被害株の除去を徹底する
炭疽病に関しては、被害株を治療するよりも、広がりを防ぐために撤去をした方が得策だ。炭疽病菌のような糸状菌は急激に増えやすく、感染源となってしまうケースの方が多い。そのため、炭疽病になっている株、もしくは局所的な部分はなるべく排除をしよう。発病株の被害の範囲によっては一部の葉や茎の除去でもよいが、病斑が既に大きい場合は、菌の胞子が多く付着していることも多いため、株ごと撤去してもよい。
剪定したものなどの残渣は撤去する
特に果樹栽培では、炭疽病の防除という意味で、剪定した枝葉は撤去した方が無難だ。剪定した植物残渣などが株元にあると、そこで炭疽病菌が越冬することがある。潜在的な感染を防ぐためにも、畑の外に持ち出して廃棄しよう。
密植を避けて風通しを良くする
炭疽病菌は空気伝染するため、なるべく密植を避ける、もしくは古い葉を積極的に落として風通しを良くすることなども炭疽病を予防するのに効果的である。
混植をするのも効果的!
混植も炭疽病を広がりにくくする。なるべく異なる科を隣で栽培することによって、急速な広がりを抑えることができる。
炭疽病に強い品種を導入する
野菜でも果樹でも、多くの作物には炭疽病に強い品種が存在する。
露地で栽培ができるように、葉や茎、果実の皮が他に比べて厚い品種や、炭疽病菌が繁殖しにくいような抵抗性を持った品種がある。大体の種苗屋さんでは、少々値段は高いかもしれないが、そういった品種が販売されていると思うので、毎年炭疽病に悩まされている人はぜひ検討してほしい。
ハサミなどを使用する際は必ず消毒する
雨や風の他に、このようなミクロな菌の感染源になるのは、使用する道具である。
特に、茎や葉を切るハサミは感染源になりやすい。そのため、別の株を剪定する際などには、アルコールを含むウエットティッシュなどでさっと消毒を行おう。これは、炭疽病だけではなく、多くの病気の蔓延(まんえん)を防ぐことにもつながるため、ぜひやってもらいたい。
苦土石灰などのカルシウムを効果的に活用する
雨の前か後、うっすらと葉全体が白くなるようにふりかけることがポイントである。石灰によって湿気を飛ばし乾かしたり、石灰に含まれるカルシウム分が植物の細胞を頑丈にして炭疽病菌を侵入しにくくするなどの効果が期待できる。
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炭疽病は、果樹や野菜を育てていたらほぼ遭遇する病気であると思われるが、きちんと防除対策をしたらそこまで怖い病気ではない。しっかりと対策をして、健全に作物を育てていきましょう!