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「子牛の引き取り手がいない」 畜産大手の民事再生法申請の影響は

「子牛の引き取り手がいない」 畜産大手の民事再生法申請の影響は

畜産大手として知られる神明畜産株式会社(東京都東久留米市)とその関連会社2社が民事再生法の適用を申請。同社は全国で豚や牛の飼育・加工・販売を行っており、全国の畜産業者への影響は小さくない。特に、酪農家にとってはオスの子牛の買い手でもあり、同社の不在によって子牛の価格低迷にも拍車がかかっている。

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畜産大手、経営破綻の余波は酪農家へ

「神明畜産が子牛を買ってくれなくなって、本当に困っている」。そう語るのは、北海道の大規模牧場である農事組合法人Jリード代表の井下英透(いのした・ひでゆき)さん。酪農家への政府の支援策について酪農家の意見を聞こうと連絡したのだが、「それどころではない」と口にした言葉がこれだ。

神明畜産株式会社とその関連会社である株式会社肉の神明、共栄畜産有限会社は9月9日、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請し、監督命令を受けた。その負債は3社合計で574億6900万円にのぼる。

東京高等地方簡易裁判所合同庁舎

全国的に豚や牛の繁殖・育成・加工等の事業を展開していた神明畜産グループ。北海道釧路地方の白糠町にある「釧白(せんぱく)食肉コンビナート」では約1万5000頭の肉牛を飼養、積極的に地元酪農家で生まれる子牛を買い取っていた。しかし、今年のお盆明けごろから同社の買い取りがストップし、倒産がささやかれるようになった。

乳牛が乳を出すためには、子牛を生まなくてはならない。生まれた子牛がメスならば将来の乳牛とするため酪農家のもとに残り、オスならば肉牛の肥育農家に買い取られる。こうしたオスの子牛の販売も酪農家の収入の柱の一つなのだが、子牛の引き取り手がいないとなると、減収となってしまう。
井下さんが経営する農業法人Jリードでも、月30~40頭ほどの子牛を売って500万円ほどの収入になっていたが、今ではそれがほぼゼロになったという。

肥育農家の子牛買い控え、理由は飼料価格の高騰

このところ、肥育農家の子牛の買い控えも見られるようになっており、子牛の価格がどんどん下がっている。実際、ホクレン釧路地区家畜市場での昨年(2021年)8月のホルスタイン初生オスの出場数は829頭、うち826頭が取引成立、平均価格は9万1162円だった 。一方の今年(2022年)8月は、出場数564頭のうち売買が成立したのは492頭、平均価格は2万5371円である 。さらに神明畜産の経営破綻で、今はすでに値が付かない状況で、井下さんによると「市場外では子牛のミルク代をつけてくれればタダで引き取ってもいい、と言われることもある」そうだ。

肥育農家が子牛を買わない理由は、飼料価格の高騰だ。配合飼料の価格は2022年7月度で、1トンあたり10万円を超え、2年前の2倍近くの価格となっている。 子牛を買い取れば育てなければならない。しかし、育てるにはもちろん飼料が必要となり、その費用が賄えないのだ。
子牛が売れなければ、酪農家自身が引き取ることになる。経営が苦しい中、子牛を育て続けることは難しく、処分せざるを得ない場合もあるという。

政府の支援は

政府は9月20日、飼料価格高騰緊急対策を発表。配合飼料価格安定制度による補填(ほてん)金とは別に、生産コスト削減等に取り組む生産者に対して補填金を交付することや、2022年4月から10月までのコスト上昇分の一部の補填金(経産牛1頭当たり、都府県1万円、北海道7200円)を支給することなどを決めた。
この支援策について、十勝酪農法人会の副会長でもある井下さんは、「この支援では、ゼロが一つ足りない。乳価もあと50円は上げてもらわないと、十勝の酪農家はとてもやっていけない」と、周囲の酪農家の窮状について訴える。
また、「肥育農家が子牛を買わない状況が続けば、1年半後ぐらいに食肉になる牛が少なくなり、肉の価格にも影響が出るのでは」と言う。

今後も飼料価格の高騰は続くと見込まれ、危機の収束がいつになるかの見通しはつかない。この危機に耐えられず倒産してしまう畜産関係者が続出すれば、食卓への影響は非常に大きい。この状況の打開のため、政府の一刻も早い適切な対応が望まれている。

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