水耕栽培とは
水耕栽培とは、土を使わずに水で植物を育てる栽培方法を言います。栄養は、水に溶かして与えます。より専門的に言えば、水耕栽培は、養液栽培のうち、固形培地を使わない方法を指しています。
水耕栽培と土耕栽培の違い
一方、土を使う栽培方法は土耕栽培と呼ばれます。
土耕栽培では、植物は土の中で根を張って体を支えたり、そこから水や栄養、酸素などを吸収したりします。土は他にも、根元の温度を保ったり、地中の微生物などの働きで栄養を吸収しやすくするなど、植物にとって大切な役割を持つ存在です。
水耕栽培では、土に張る根の代わりに水耕パネルなどで植物を支え、栄養は水に溶かした肥料で与えます。地面にとらわれる必要がないため、装置を垂直に何段も重ねることもできます(垂直農法)。つまり、狭いスペースでもたくさんの植物を育てられる方法の一つなのです。
こうした特徴を生かして、企業などが大規模な植物工場などを設置して、水耕栽培を行っている例も多くあります。
広がる水耕栽培施設
水耕栽培は、世界的にも広がりを見せる栽培方法です。
日本でも近年、水耕栽培施設が増えてきています。2011年の東日本大震災では、津波による塩害を受けた農地もありました。水耕栽培は土を使わないため、そのような土地でも農業を営める方法として実践されています。
家庭でもできる水耕栽培
大型の施設でなくても栽培可能で、国内外でも多く取り組まれている水耕栽培。土を使わずに植物を育てられるという手軽さから、家庭でも取り組むことができます。
観葉植物などの水耕栽培は、趣味の一環としてインテリアのために楽しんでいる人もいることでしょう。
簡単に始められるように、家庭で育てられるサイズの水耕栽培キットも各社から販売されています。
また、専用のキットを購入しなくても、水をためる装置は工夫次第でいろいろなものが活用できます。例えば、プラスチックの食品容器に台所スポンジを敷いたものや、ペットボトルなどを使って、自作のキットで水耕栽培を楽しむこともできるのです。
水耕栽培に適した野菜・観葉植物
水耕栽培には、栽培期間が短く、生命力の強い植物が向いていると言われます。
ここでは特に家庭で育てるにあたって、水耕栽培に適した野菜や観葉植物の例を挙げます。
水耕栽培に適しているもの
野菜 | 葉物野菜 | リーフレタス、サニーレタス、ベビーレタス、コマツナ、ミツバ、サンチュ、ケール など |
---|---|---|
スプラウト | カイワレダイコン、ブロッコリースプラウト、豆苗 など | |
ハーブ | バジル、パクチー、パセリ、ミント、ローズマリー など | |
ミニトマト | ミニトマト各品種 | |
観葉植物 | ポトス、アイビー、パキラ など |
葉物野菜
水耕栽培で代表的なのが、葉物野菜です。リーフレタス・サニーレタスといったレタス、ミツバ、サンチュ、ケールなど。葉物野菜は傷みやすいため、目の行き届く屋内で育てると安心感もあるでしょう。
スプラウト
スプラウト類も、水耕栽培に適しています。スプラウトは発芽したばかりの新芽のこと。カイワレダイコンやブロッコリースプラウト、エンドウマメの若葉である豆苗が代表例です。
ハーブ
バジルやパクチー、パセリ、ミントなどのハーブ類もよいでしょう。買ってくると多少高価なこれらのハーブも、自分で育てれば、気軽にフレッシュなものを料理に使うことができます。
ミニトマト
生命力が強いミニトマトも水耕栽培で育てられる野菜です。タネからすべて水耕栽培で育てることもできますが、苗を買ってきて水耕栽培をしたり、苗作りまでを水耕栽培で行いその後は土に植えたりなど、さまざまな方法があります。
観葉植物
水耕栽培で育てられる観葉植物もあります。インテリアとして日常に彩りを添えることもできるでしょう。水耕栽培に適した観葉植物には、ポトス、アイビー、パキラなどがあります。また、水耕栽培が可能な多肉植物もあります。
水耕栽培に適さないもの
当然ながら、水耕栽培に適さない植物もあります。イモなどの根菜類は向いていません。根の部分が常に水に浸されている水耕栽培では、根が腐ってしまうためです。
また、日光が好きな植物は、屋内での水耕栽培には適さないでしょう。
水耕栽培のメリット・デメリット
水耕栽培には、土を使わないことによるメリットがありますが、一方で装置を使うことによるデメリットもあります。以下に代表的なものをまとめました。
水耕栽培のメリット
土作りの手間がない
そもそも、土を使わないため、いわゆる土作りをする必要がありません。土作りはプロの農家も頭をひねる奥深い作業。また、地面に植える場合は、同じ植物を同じ場所で育て続けると、徐々に育ちが悪くなるなどの連作障害が起こりやすいもの。連作障害はプランターで同じ土を使い続けてもあり得ます。しかし、これも水耕栽培なら関係ありません。
害虫が発生しにくい
植物の害虫は土の中で増えてしまうことも多いでしょう。水耕栽培ではそういった害虫が発生しづらいので、農薬を使わなくても育てられます。また屋内での栽培によって、外からの害虫を防ぎやすいこともメリットです。
温度や湿度を調整しやすい
水耕栽培は屋内で取り組めるため、温度や湿度の調整がしやすくなります。天候に左右されることもなく、植物にとって育ちやすい環境を整えることができるでしょう。
水耕栽培のデメリット
装置や施設が必要となる
土を使わない水耕栽培では、その代わりとなる装置が必要です。そのため装置や施設の購入費や管理費がかかってきます。本格的に取り組めば、棚やLEDライトといった設備も必要でしょう。もちろん水道代や電気代などもかかります。
しかし、家庭で行う場合には、先述のとおり栽培キットを自作することもできますし、あまり大型の装置はいらないでしょう。
また、プロの農家なら補助金が活用できる場合もあります。「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」の活用例もあります。補助金は年度やケースなどによりさまざまなものがありますので、農林水産省の「逆引き事典」などから調べてみるとよいでしょう。
管理の手間
土を使わないため比較的手軽に始めやすいとされる水耕栽培にも、管理の手間がないわけではありません。
植物が泥で汚れたりすることはありませんが、放っておいて清潔な環境が保たれるわけではないことには注意しましょう。さらに害虫がつく可能性もゼロとは限りません。
ただし、こうした管理の手間は土耕栽培の際にも生じます。植物を育てることの手間がゼロになることはありません。そのうえで比較すれば、水耕栽培は家庭で楽に取り組みやすい栽培方法だと言えます。
水耕栽培の手順
では、実際に家庭などで水耕栽培をやってみる場合の一般的な手順を紹介します。育てる植物により方法が異なる場合もあるので、種苗メーカーのホームページから調べるなどして、植物に合った栽培をするようにしてください。
①タネから育てる
まず、水を通さない容器にスポンジを入れ、水を注ぎます。スポンジにタネをまき、後はタネが乾かないようにして明るめの日陰に置き、毎日水を入れ替えます。発芽した後は水耕栽培キットに移しましょう。その後は、水を入れ替えたり、植物に合った液体肥料などを与えたりしながら、育てていきます。
苗から育てるよりも時間がかかり、さらにすべてが発芽するとは限りません。しかし、費用が抑えられるというメリットがあります。
②苗から育てる
苗から育てる場合は、購入した苗を水耕栽培キットに移す必要があります。まず、苗をポットから取り出し、根についた土を落とします。土が残っていると、そこから雑菌がわく可能性もありますので丁寧に落としましょう。その後、根の部分を水に浸して、新しい根が出るまで日陰に置き数日待ちます。新しい根が出たら、水耕栽培キットに移して、後は日々水を入れ替えたり、植物に合った液体肥料などを与えたりしながら育てます。
水耕栽培の注意事項
幼い子どもやペットが容器を倒したり、誤って食べたりしないように注意することが大事です。特に観葉植物には、ペットが食べると体調を崩してしまう有毒物質を含むものもあります。普段は子どもやペットの手が届かないところに置いておくのが望ましいでしょう。
家庭でも始めやすい水耕栽培
このように、水耕栽培は比較的、家庭でも始めやすい栽培方法だと言えます。育てやすい野菜もあり、日々の食事でも役に立つことでしょう。
身近に植物がある生活から、ゆとりも生まれてくるかもしれません。お気に入りの植物の水耕栽培を、始めてみてはいかがでしょうか。