営農型太陽光発電とは?
営農型太陽光発電とは、その名の通り農業を営みながら行う太陽光発電のこと。クリーンで環境にやさしい太陽光発電を、農業を続けながら同時に行うことができる仕組みです。
大まかに言うと、畑の作物の上に太陽光パネル(ソーラーパネル)を設置し、日射量を調節しながら農業生産と発電を並行して行うイメージです。農業と発電で太陽光を共有することから「ソーラーシェアリング」とも呼ばれています。
営農型太陽光発電では太陽光パネルの下部の農地で適切に営農を継続する必要があり、設備の設置にあたっては、農地法の規定に基づく一時転用許可が必要です。
また、長期にわたって安定的に発電事業を行うためには、持続可能な営農計画の策定や営農体制の確保のほか、建築基準法や電気事業法等の関連法規を遵守する必要があります。
営農型太陽光発電の特長
営農型太陽光発電の最大の特長は、農業と発電を両立できる点にあります。畑などの農地に⽀柱を⽴て、上部の空間に太陽光パネルを設置することで、農業を継続しながら太陽光発電ができるのです。
これまで特に利用していなかった農地の上部空間を有効活用できますが、農地に立てる⽀柱の基礎部分については農業に関する利用ではなくなるため、⼀時転⽤許可が必要となります。
また、営農型太陽光発電では農業の継続が前提となることから、農作業に支障をきたさない発電が求められます。作物の生育に必要な日照量を確保し、作業をする人や機械が問題なく通れる高さに太陽光パネルを設置するなどの工夫が必要です。
発電した電気は、自家で利用したり売電によって収入を得たりできます。2022年から、これまでの固定買取価格(FIT)制度に加え市場変動制のFIP制度が日本でも導入されました。
太陽光発電と言えば売電、というイメージを持つ人も多いかもしれませんが、エネルギー価格が高騰している2022年現在では、発電した電気をそのまま自家利用することで電気料金の削減になり、農業経営改善が期待できるなどのメリットがあります。
また、蓄電により大規模災害などの停電時にも対応できる体制を作ることで、リスク管理の面でも役立てられます。
農作物への影響は?
農地の上に太陽光パネルを設置すると、当然ながらパネルの下には日陰ができます。上部に何も設置していない畑に比べて斜光されるため、作物の生育に必要な日射量を確保しておく必要があります。
一般に、半陰性植物であるジャガイモ、レタス、ホウレンソウなどは挑戦しやすいと言われています。すでに取り組み事例のある作物の中から、日照特性を考え、比較的直射日光が少なくても生育しやすいものを選ぶケースも多く見られます。
キュウリやトマト、スイカ、トウモロコシなどの陽性植物の場合、1日あたり6時間程度の直射日光が必要とされています。これらの作物の場合、太陽光パネルの角度や高さを調整し、適切な日射量を確保する設計にする必要があります。
農林水産省の「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック」には、さまざまな事例が紹介されており、米、茶、麦、大豆、エダマメ、ブルーベリー、キウイフルーツ、ばれいしょなどの取り組み事例が掲載されています。
地域 | 作物 | 傾向 |
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秋田県 | えだまめ |
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静岡県 | 茶 |
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ブルーベリー |
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キウイフルーツ |
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また、畜舎の屋根、畜舎間の土地などを利用して太陽光パネルを設置することもできます。牛舎の屋根を活用する事例では、蓄電池を備えることで地震などにより停電が起きた場合でも搾乳機などを稼働させる体制を作り、災害時のリスク対策をあわせて行うケースもあります。
導入事例はこちら:農林水産省「地域資源利用型産業創出緊急対策事業 (太陽光パネル緊急導入事業)」
農地転用型太陽光発電(野立て)との違い
農地を利用して行う太陽光発電には「営農型」と「農地転用型」の2種類があります。
農地転用型太陽光発電(野立て)は、農地を転用して農業は行わずに太陽光発電だけを行う方法です。下の農地で作物を育てないため比較的低い位置にパネルを設置することが可能で、一般的には営農型に比べ発電量が多くなります。
どちらを選ぶかは、今後もその土地で農業を続けていきたいかどうかで変わります。農地転用型では文字通り農地を宅地など別の地目に転用するため、農業を行うことはできません。その土地で引き続き農業を行いたい場合には営農型を、農業を続けない場合には農地転用型を選びます。
営農型太陽光発電には補助金が出る
営農型太陽光発電の導入を考える場合、初期費用等が気になるという人も多いでしょう。
環境省では、令和4年5月17日から同年6月17日(一次公募)及び令和4年6月27日から同年7月27日(二次公募)に「令和3年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(PPA活用等による地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進加速化事業)」において、地域における太陽光発電の新たな設置場所(営農地・ため池・廃棄物処分場)活用事業補助金の公募を行いました。
これは新たな手法による再エネ導入・価格低減促進事業のうち、地域における太陽光発電の新たな設置場所活用事業による営農地・ため池・廃棄物処分場を活用した太陽光発電について、コスト要件を満たす場合に設備等導入の支援を行うと定められたもの。補助率は2分の1(補助金の上限は3億円)です。
令和4年の募集は終了しましたが、コスト要件とあわせて今後の動向をチェックしておきたい事項です。
【公募要領】
http://eta.or.jp/offering/22_08_shin2/files/01_jigyougaiyo.pdf
http://eta.or.jp/offering/22_08_shin2/files/02_kouboyouryo_1.pdf
また、補助金や助成金など、独自の支援制度を持つ自治体もあります。
農林水産省のアンケートによれば、都道府県では宮城県、神奈川県、新潟県、兵庫県、愛媛県が、市町村では所沢市と羽村市が営農型太陽光発電の支援事業を行なっています。
営農型太陽光発電向けの商品を用意している金融機関も全国各地にあります。付き合いのある金融機関に問い合わせてみてもよいでしょう。
太陽光発電設備の設置には、農業委員会への申請が必要または農水省の相談窓口に相談”
農地に太陽光発電設備を設置するためには、農地の転用について定めた農地法第4条第1項又は第5条第1項の許可が必要になります。農業委員会に申請し、知事の許可を得なければなりません(注1)。
注1:知事から権限を移譲された市町村の場合、市町村の農業委員会に提出して許可を得る場合もあります
営農型であれば「一時転用」、農地転用型であれば「農地転用」の許可申請を行います。
農林水産省では事前の相談窓口として、各地方の農政局に「農山漁村再生可能エネルギー相談窓口」を設置しています。事業計画や栽培作物について無料で相談ができるので、必要に応じて活用したいものです。
農地転用の許可申請について
営農型太陽光発電のために太陽光パネルの支柱部分について一時転用許可を申請する際には、市区町村の農業委員会へ農地転用許可申請書を提出します。この場合には農地法施行規則第30条第7号又は第57条の4第2項第5号の書類として、下記のような添付書類が必要とされています。
- 営農型発電設備の設計図
- 下部の農地における営農計画書
-
営農型発電設備の設置による下部の農地における営農への影響の見込み及びその根拠となる次に掲げるいずれかの書類
- 下部の農地で栽培する農作物の収穫量及び品質に関するデータ(例えば、試験研究機関による調査結果等)
- 必要な知見を有する者(例えば、普及指導員、試験研究機関、設備の製造業者等)の意見書
- 先行して営農型太陽光発電の設置に取り組んでいる者の事例
- 営農型発電設備を設置する者(以下「設置者」という。)と下部の農地におい て営農する者(以下「営農者」という。)が異なる場合には、支柱を含む営農型発電設備の撤去について、設置者が費用を負担することを基本として、当該費用の負担について合意されていることを証する書面
出典:農林水産省「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/attach/pdf/einogata-1.pdf
許可申請書のフォーマットは、各都道府県または市区町村のウェブサイトからダウンロードして使うのが一般的です。Excel、Word、PDF等で提供される書式をダウンロードし、入力あるいは手書きします。必要事項をすべて記入し、印刷したものに押印して提出します。現在のところ、オンライン申請に対応している自治体はほぼありません。
営農型の「一時転用許可」の条件
営農型太陽光発電においては、太陽光パネルを立てる支柱の基礎部分が「一時転用許可」の対象となります。基本的な制度として一時転用許可の期間は3年間ですが、下記の条件を満たせば10年間有効となります。
- 認定農業者等の担い⼿が下部の農地で営農を⾏う場合
- 荒廃農地を活⽤する場合
- 第2種農地⼜は第3種農地を活⽤する場合
営農型太陽光発電は、あくまでも下部の農地で適切に営農が継続されていなければなりません。
- 農作物の品質に著しい劣化が生じないこと
- 同じ年の地域の平均的な単収と比較して概ね2割以上減少しないこと
- 荒廃農地を再生利用した場合は適正かつ効率的に利用されていること
などを満たす営農計画が必要です。
また、太陽光発電を開始した後も、農作物の生産に支障が生じていないか年に一度の報告義務があります。営農に著しく支障をきたしているとみなされると、太陽光パネルを撤去して農地に戻す必要があるので注意しましょう。
許可申請にあたって、次のような事項をチェックしておくことが重要です。
- 農作物の⽣育に適した⽇照量を保つための設計であるか
- 効率的な農業機械等の利⽤が可能な⾼さ(最低地上⾼2m以上)であるか
- 周辺農地の効率的利⽤等に⽀障がない位置に設置されているか 等
一時転用許可は一度限りのものではなく、再許可が可能です。再許可にあたっては、従前の転⽤期間の営農状況を勘案し、総合的に判断されます。
無許可・無断での設置には罰則も
「農地を勝手に駐車場にしたり家を建てたりしてはいけない」というのは、農業に従事する人にとってはよく知られていることかもしれません。農地法の規定により、農地を無断転用することは違法行為にあたります。これは営農型太陽光発電のための太陽光パネルを設置する場合にも当てはまります。
無許可・無断で太陽光パネル等を設置する行為は農地法違反となります。違法行為により転用の効力が生じないとみなされるため、工事の中止や原状回復の命令が出される場合があります。
さらに3年以下の懲役や300万円以下(法人に対しては1億円以下)の罰金が科せられることもあります。許可申請には提出書類の準備や営農計画の策定などに手間や時間がかかりますが、面倒でも必要な手続きを怠らないようにしましょう。
申請にはプロの手を借りるのも手
農業を続けながら農地の上部空間を活用し、ソーラーシェアリングによって発電を行う「営農型太陽光発電」。発電した電気を自家利用することによる経営の改善効果が見込めるほか、蓄電による災害時のリスク管理といった面でも注目を集めています。
一方で、農地の一時転用に必要な許可申請や各種補助金の申請にはどうしても手間や時間がかかりがちです。スムーズに手続きを進めるためには、思い切ってプロの手を借りるのもおすすめです。
国内での導入事例
最後に、営農型太陽光発電を導入している国内の事例を紹介します。
株式会社ケンソー
千葉県木更津市周辺を拠点とした、従業員数約50人の建設会社。
2020年春に農業生産を主とするアグリ事業部を立ち上げ、土地条件の悪い農地でも収益性の高いビジネスモデルを確立できないかと、農業収益と発電収入を同時に得られる営農型太陽光発電を導入しました。
君津市にブルーベリー圃場を構え、そこに768枚のパネルを等間隔で配置。本格的に収穫が見込める定植から5年目の2026年にはブルーベリーの出荷のみで800万円の売り上げを見込んでおり、発電収益も年間で計約800万円を見込んでいます。
株式会社わさび
株式会社わさびでは、兵庫県小野市でサツマイモやカボチャなどの野菜のほか、摘み取り園としてイチゴやブルーベリー、ジューンベリーなどを栽培しています。ハウスの電気化をすすめる同社では、合計20アールの畑で営農型太陽光発電にも挑戦しています。発電力は毎時62キロワット。FIT法(固定価格買取制度)によって、1時間当たり36円で売電することができ、耐用年数の20年のうち10年で元がとれる計算だといいます。
【参考資料】
農林水産省「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-6.pdf
支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて
https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/attach/pdf/einogata-1.pdf