イバラの道を選んでばかりの新規就農時代
今では、営業をすることもなく星付きレストランへ野菜を販売したり、新規就農者の育成や農家向けの講演をしたりしている私ですが、新規就農時代は失敗の連続でした。そもそも野菜の作り方は独学ですし、売り方もわかりません。「野菜さえうまく作れれば売れるに違いない」と考えていたのです。私は「野菜をどう作るか」を「入り口」、「どう売るか」を「出口」と表現しますが、就農当初は入り口ばかりを重視していて出口を軽視した農業をしていました。結果、働いている割に売り上げが上がらないのは当然です。当時は、床屋さんに行くお金ももったいないので自分で髪を切っていて、人と会わなければならない時はバンダナでボサボサの髪の毛を隠していました。
私がお金を稼ぐために考えたことは、販売チャンネルを増やすこと。インターネットでの野菜セットの販売に加え、レストランや百貨店との取引を始め、マルシェにも出店しました。実は、これが裏目に出てしまったのです。販売チャンネルごとに調整作業の仕方にも違いがあるため手間が増え、時間に余裕がなくなりました。その他にも、良かれと思って近隣のレストランへは宅配便ではなく直接配達をしていましたので、当時の1日の労働時間は12時間以上にもなっていました。いろいろな事をやりすぎて働きづめの毎日だったのです。
最近は、就農したての農家に会う機会が多いのですが、昔の私と同じような農業をしている人がたくさんいます。そしてその多くは、そこから抜け出せずに苦労しているようです。