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物流業者が青果物の買い取りに着手。端境期まで保管して販売する仕組みとは

窪田 新之助

ライター:

物流業者が青果物の買い取りに着手。端境期まで保管して販売する仕組みとは

物流業者の福岡ソノリク(佐賀県鳥栖市)が青果物の買い取り販売を始めている。買い取った青果物は特殊な冷蔵技術によって長期的に保管し、需要に合わせて出荷する。この冷蔵技術は野菜や果物の品質を高める機能も備えていることから、いずれは買い取った青果物で自社ブランドをつくることも視野に入れている。
※写真は五島振興局農業振興普及課提供

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長崎・五島のサツマイモの産地化から

福岡ソノリクの物流拠点


福岡ソノリクは今年度から、長崎県や五島市、JAごとう、一般社団法人離島振興地方創生協会などと共同で、同市でサツマイモ「べにはるか」の産地化に乗り出した。

長崎県によると、同市ではこれまで、焼酎や菓子の原料となる加工用サツマイモが作られてきたが、青果用での本格的な生産は初めて。今年産では、7戸の農家が4ヘクタール弱で栽培を始めている。今秋の収獲では72トンに達する見込みだ。

長期的に鮮度を保持する、特殊な貯蔵庫で保管

福岡ソノリクの物流拠点

その出荷先はすべて福岡ソノリク。以前の記事(https://agri.mynavi.jp/2022_02_27_184759/)で紹介したとおり、同社は、農産物の鮮度を長期的に保持する「特許冷蔵」「CA冷蔵」という二つの技術、あるいはどちらか片方だけを持つ設備を鳥栖市をはじめ各地に持っている。

それぞれの冷蔵技術について簡単に説明すると、前者は、貯蔵庫内にたまるエチレンガスを強制的に排出して、青果物が劣化するのを防ぐ。後者は、庫内の酸素と窒素、二酸化炭素の濃度を調整し、冷蔵中の青果物の呼吸を抑えて、鮮度を維持する。たとえばゴボウで8カ月、デコポンで7カ月、愛宕(あたご)梨で3カ月まで延ばせた。

サツマイモでは糖度が高まる副次的効果も

同社はこれまで、特殊な冷蔵技術を活用して、荷主である産地や農家が出荷できる期間を延ばすことを支援してきた。それを、2020年度からは自社で買い取った鹿児島県産の農産物でも活用してきた。

第二弾ともいえるのが五島市産のサツマイモである。長期にわたって鮮度を保てるので、端境期を狙って販売できる。
サツマイモについてはすでに実績がある。鹿児島県種子島の特産のサツマイモ「安納芋」を先ほど紹介した「特許冷蔵」で保管したところ、鮮度を保持できる期間は1年となった。従来の保管方法では5カ月がせいぜいだった。

サツマイモを長期保管することで期待できるもう一つの効果は、糖度が高まることだ。安納芋では副次的なその効果を確かめているので、五島市産「べにはるか」でも検証する。

選別と調製が大幅に省力化

福岡ソノリクの物流拠点

五島市の農家にとって、福岡ソノリクに出荷する利点は、選別と調製にかかる手間が大幅に省けることにある。農家が収穫後にすべきことは、主には泥をはらうことと、三つの大きさで分けるという簡単な選別だけ。後は規格に関係なく、すべての収穫物を同じコンテナに入れて出荷する。

福岡ソノリクがそうした状態のサツマイモを受け入れられるのは、「カミサリー事業」を展開しているから。同事業では貯蔵施設内に専用の部屋を設けて、青果物の選別や洗浄、袋詰めやパック詰め、さらには1次段階のカット加工までを請け負っている。

同事業をつくったのは、量販店からの要望が強くなったためだ。従来は量販店が各店舗でこなしてきた。ただ、そのための場所や人手をそれぞれで揃えないといけないことから、外注したいという意向が強まっていたのだ。福岡ソノリクは2007年から同事業を手がけ、委託の件数は年々増えている。

産地側の買い戻しを許可

五島市側との契約では、産地が出荷した後、保管中のサツマイモを買い戻したいとなれば、それができるという付帯条件も織り込んでいる。その理由について、福岡ソノリク取締役の園田裕輔(そのだ・ゆうすけ)さんはこう語る。

「ゴールは当社が販売することではなく、保管や配送などの物流に基づいたマーケットプレイスを提供すること。だから農家が営業して販売機会を得たのであれば、買い戻して直接販売してもらうと、マーケットの拡大にもつながると考えている」

五島市でのサツマイモの栽培については、次のように計画している。「2030年までに年間で3000トンから4000トンを作ってもらうつもりだ。弊社はこれから、そのための販路や物流を開拓していく」(園田さん)

福岡ソノリクは、五島市産のサツマイモ以外でも、買い取り販売を検討するという。園田さんは「端境期まで保管ができるかどうかを見極めていきたい」と話している。

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