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青果物流業者が農産物の加工や商品開発に挑む理由

窪田 新之助

ライター:

青果物流業者が農産物の加工や商品開発に挑む理由

物流環境の悪化により、従来通りの量や質を保ちながら産地から消費地に生産物を輸送できるかどうかが不透明な青果業界。事態を打開するため、産地や企業と連携した取り組みを展開する青果物流業者がある。青果の新たな価値を生み出す同社の挑戦に迫る。

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東日本へ物流拠点を拡大する計画

青果物流を専門とする福岡ソノリク(佐賀県鳥栖市)の事業については以前紹介したが、その内容を簡単におさらいしたい。まず同社は、野菜や果物の鮮度を長期間にわたって維持する「特許冷蔵」「CA冷蔵」といった技術を持つ設備をそろえることで、荷主である産地や農家が出荷できる期間を延ばすことを支援している。

さらに輸送段階の鮮度の劣化を防ぐため、その原因の一つであるエチレンガスを排出する機能を持ったトラックや、菌やカビの繁殖を防ぐパッケージをつくり、輸送中も鮮度や品質を損なわないようにすることも検討しているところだ。

併せて、物流拠点を東日本にも拡大していく。既存の物流拠点があるのは本社所在地の佐賀県鳥栖市のほか、鹿児島県鹿児島市と岡山県倉敷市、兵庫県神戸市。今後は関東地方、さらに東北地方へと展開する計画を持っている。各物流拠点では特許冷蔵とCA冷蔵の両方、あるいは片方を整えた設備になる。

物流拠点間をリレー形式でつなぐことで残業規制に対応

福岡ソノリク常務の酒井さん

常務の酒井謙一(さかい・けんいち)さんはその狙いをこう語る。「物流拠点をリレー形式でつないでいくことで、ドライバ―の1日当たりの走行時間を最大9時間としたい」

これは、昨今のドライバー不足に加えて物流業界で2024年4月1日から始まる残業規制を意識したものだ。2019年の改正労働基準法を受けて、2年後、物流業界でも時間外労働時間が年間960時間以内に規制される。その際、鮮度を保つため限られた時間の中で九州から関東へ長距離を輸送するには、一人のドライバーだけでは手に負えなくなる。複数のドライバーが物流拠点間をリレー形式でつなぐしかない。

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物流の合理化には産地の努力も欠かせない。取締役の園田裕輔(そのだ・ゆうすけ)さんが特に産地へ求めることとして挙げるのは、出荷用の箱の改善だ。産地によって大きさの規格がばらばらだったり、鮮度が保ちにくい素材だったりする。大きさの規格が異なる箱を詰め込むのは「テトリスみたいで、熟練を要する」(園田さん)。だから手荷役(人手による積み降ろし作業)に時間も手間もかかる。熟練者をもってしても荷台に積んだら大きな隙間(すきま)が生じることがあり、これが荷崩れの原因になる。園田さんは産地にこう訴える。「現状の箱は設計がデザイン重視になっていて、サイズの不ぞろいによる積載率への影響や鮮度の維持についての検討がなされていません。今後の物流環境の悪化を踏まえれば改善すべきことです」

福岡ソノリク取締役の園田さん

物流会社と産地がこうした努力を重ねれば、双方が連携できる余地が生まれてくる。福岡ソノリクがまず始めようとしているのは、産地の集荷拠点から物流拠点までの輸送の合理化だ。両拠点が離れていたり、集荷拠点で集められる青果物が少なかったりすると、費用対効果が合わずに輸送を断念せざるを得なくなる。そうした事態を避けるために、同社は自治体やJAと生産から集荷、輸送するまでの一貫した仕組みを構築する話し合いを始めている。

これと同じ課題について、農業法人から相談を受けることも多いという。最近では複数の農業法人と島根県を訪ねて、過疎地で耕作を放棄されている農地での農業生産から集荷、輸送までの仕組みをつくろうとしている。園田さんは「地元の人に農作業を手伝っていただきながら、力のある農業法人とともに新たな産地をつくっていきたい」と話す。

流通の過程で生じる産地の困りごとに商機

オクラの規格外品を加工商品にした「御来楽(おくらく)」

福岡ソノリクが産地で果たす役割は物流だけではない。最近では青果物の水洗いや袋詰め、パック詰め、1次段階のカット加工を行う「カミサリー事業」も展開している。

同時に、生産者とのネットワークを活用し、農業でどうしても生じてしまう規格外品を加工して商品化する事業も開始した。
「ソノリク農作物劇場」と名付けられたこの事業では、複数のパートナー企業と連携しながら、保存方法や加工方法、デザインを工夫することで、収穫期を過ぎたり規格外になったりして出荷が困難となった農産物の魅力を掘り起こし、消費者のもとに新たな商品として届けることを目的としている。
第1弾は日本への輸入用に生産を委託しているタイ産のオクラ。出荷できなくなった分を丸ごと乾燥させて粉末化、昨年1月に「御来楽(おくらく)」として販売した。加工会社やデザイナーなどと連携することで、「高速での商品開発が可能になっている」と園田さん。

第2弾としてタイ産のアスパラガスを原料にした薬膳カレー「アスパリー」、第3弾として種子島産のサツマイモ「安納芋」を原料にしたジャムを製造して販売した。すでに次なる仕掛けも計画済みだ。

物流を合理化するだけでなく、流通の過程で生じる産地の困りごとを引き受けて、新規事業に仕立てていく福岡ソノリク。その新たな試みは閉塞感漂う青果物流の業界に風穴を開けようとしている。

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