まさか我が身に。実野菜に大打撃
気候変動の影響か、毎年のように自然災害が発生し、その規模も大きくなってきているように感じます。それでも筆者が営む菜園生活 風来(ふうらい)のある石川県はもともと自然災害が少ないこともあり、どこか安心していました。
ところが今年8月、大雨が続いたことで、気がつくと家の前の道路が冠水。車が通る度に波がきて、もう少しで床上浸水という事態に。石川県加賀地方では、1日の降雨量が観測史上最大となるほどでした。
翌朝、比較的低平な方の畑に行くと1メートルほど冠水しており、あまりの光景に目を疑いました。
水は半日ほどで引き、このまま野菜たちも大丈夫かと少し安堵(あんど)しましたが、やはり現実はそんなに甘くありません。キュウリ、トマト、ナス、ピーマンなど実野菜がどんどん枯れていきました。このため、風来の看板商品である野菜セットの新規受付は、休止を余儀なくされました。
ショックは大きかったのですが、そこで思考停止しているわけにもいきません。何か販売できるものはないかと大型冷蔵庫を物色していると、超豊作の時期にパートさんに手伝ってもらい仕込んでおいた「胡瓜(きゅうり)キムチ」「胡瓜の新生姜(しょうが)甘辛醤油(しょうゆ)漬け」「旬野菜MIX(ミックス)ピクルス」「胡瓜の甘酢漬け」など、キュウリの漬物がたくさんあることに気づき、これに目を付けました。
普段はキュウリの漬物だけというような偏ったセットは出さないのですが、復興支援セットということで上記の4種4袋入りのセットを税込み1998円(送料別)で販売。この価格は普段販売している漬物セットと同じ価格になります。
SNSでこの支援セットの販売を畑の現状と併せて告知したところ、いろいろな人がシェアしてくれて2日で30セットの注文をいただきました。
注文自体金銭的に助かるのはもちろんですが、注文時に添えられた声にとても勇気づけられました。何より購入してくれた人がまた買いたいと言ってくれるのがうれしかったです。
また、遠方から研修を兼ねて復興の手伝いをしたいという申し出も。これまでそのような受け入れはしたことがなかったのですが、友人からの紹介ということもあり、宿泊・滞在費を出すことで1週間農作業などを手伝ってもらいました。
そして、以前バイトしてくれていた何人かの学生も窮状を知り、夏休みの間に再びバイトに入ってくれました。
ダメになった夏野菜の片付けや秋・冬野菜に向けた畑の準備など、いろいろ手伝ってもらい作業もかなり進みました。これまでのつながり、そしてSNSで情報開示することの効果を実感した一件です。
そして大きく助けになったのが、産直ECサイトの復興支援プログラムです。
産直ECが救いに
風来で普段から使っている産直ECサイトは、ポケットマルシェ(株式会社雨風太陽)と食べチョク(株式会社ビビッドガーデン)になります。その両方が全国の生産者の豪雨被害を受け、迅速に動いてくれました。
ポケットマルシェでは災害支援の特集ページを立ち上げ、被災した生産者を金銭面で応援可能な「応援商品」の販売を開始。普段販売している商品価格に支援分を上乗せした商品のほか、生産物のつかない金銭支援のみの商品が用意されました。また、現物が届くのはかなり先になりますが、予約販売商品にも支援できる仕組みとなっていました(8月いっぱいで終了)。
食べチョクでも純粋に金銭支援するタイプの商品があり、また復興商品については買い上げ1点につき、生産者に食べチョクから寄付金が付与されるというプログラムもありました(9月10日で終了)。
風来としては普段から商品を販売していることもあり、自社ホームページで販売しているものと同じ復興支援セットをつくり、両サイトで迅速に販売することができました。こちらも普段と変わらない価格での販売を心掛けました。
これらの支援特集のおかげで、両方合わせて100セット販売でき、冷蔵庫にあった在庫も完売。ポケットマルシェ、食べチョクの双方が普段から公言している「生産者ファースト」の姿勢を実感しました。
話は少し変わりますが、よく「どの産直ECサイトがオススメですか?」と聞かれることがあります。その都度答えているのが「それぞれ特徴があり、それぞれで販売してみて自分に合ったところをメインに使うといい」ということ。リアル直売所でも数店に置くのが当たり前。産直ECサイトは月額費用などの会費がかからないところがほとんどなので、いろいろ試してみればいいと思っています。
私としては、今は産直ECサイトに登録する生産者、購入してくれるユーザーを増やし、生産物流通の中でのパイ(割合)を大きくすることが先決ではないかと感じています。生産者が販売先のひとつとして当たり前に産直ECを選択し、また購入者も産直ECを当たり前に選択する。そのことで昔からある流通にも刺激になります。そして規模が大きくなれば、今回のような被災支援についても多くの人が知る事ができ、助けようと思う人が行動できる。小さい農家も参加でき、ある意味新しい形の共済にもなると期待しています。
今は過渡期で雨後のタケノコのように産直ECサイトが増えていますので選択も大変ですが、私は最終的に残るのは2、3サイトだと思っています。そしてそこは生産者ファーストのところだと確信しています。売る人がいなければ買うことができないのですから。
ともあれ、生産者としても普段から生産者ファーストの産直ECサイトで販売してユーザーとのつながりを持っておくことが大切です。困った時だけ販売するのでは信用されません。
大変な時は素直に困ってると言っていい
自然災害は自分が悪いわけではないけど、生産者としては何か対策できたのではないかと思ってしまいがち。それなのに助けてもらうのは申し訳ないような気持ちになります。実際に私もそういうところがあり、今回は普段と変わらない価格で販売しました。少し心に余裕があったからできたことではありますが……。
私と同じように支援されることに消極的だったのが、農系ポッドキャスト仲間であり青森県でハーブを生産、加工販売しているCONSE FARM(コンセファーム)の赤石英二(あかいし・えいじ)さん。赤石さんの圃場(ほじょう)があるところは普段乾燥する地域なのに、今年は異常気象で畑が水田状態。メインとなるハーブがほとんど収穫できない状態でした。
それでも支援されるのが申し訳ないと、赤石さんは普段通りに販売。そこでせんえつながら「応援したいという人がいるはずだから、応援商品と分かるものをつくって現状を話した方がいいのではないか」とアドバイスさせてもらいました。
私自身、以前からCONSE FARMの商品を買いたいと思っていたものの、タイミングを逃していたのですが、今回のことがキッカケで購入。届いた商品はすばらしく、味もおいしくて、パッケージデザインも洗練されていました。一度購入したらファンになるだろうなと、応援購入なネットワークは自然災害の強い味方【ゼロからはじめる独立農家#38】がらも大満足でした。
応援商品販売がキッカケなのか、窮状を知ったポッドキャスト仲間がCONSE FARMの音声CMを勝手につくったりと支援が広がりました。実際に金銭的にはどのくらい支援になったか分かりませんが、こうやって応援してくれる人がいるというのはとても勇気づけられるものです。
応援してくれる人がいる。未来を信じられてこそ農家は種をまくことができます。今回、私自身水害にあってもそれほど落ち込まなかった理由は、本当に大変な時は助けてくれる人がいるという確信があったからです。実際、以前大雪でビニールハウスが潰れた時にも、友人がクラウドファンディングを立ち上げて支援してくれたおかげでハウスの再建ができたことがあります。
その時、申し訳ないと思っていたら、友人から「助かってありがたいという気持ちがあったら、今度は“恩送り”してあげてほしい」と言われ、とても心が楽になりました。恩送りとは、受けた恩を助けてくれた人ではなく後輩や別の人に送る、つまり手助けをするということ。大変な時は素直に困ってると言っていい。そのことで救われたなら今度は後進に恩送りする。それが支援される人の心構えだと思います。
自然災害はこれからも増えていくのではないかと思います。そんな時に備えて普段からネットワークでつながっておく。最初は下心ありきでいい、でも支援を受けたら恩送り。そのことで救われることもあるし、救うことができます。
小さい農家こそSNSやブログ、ポッドキャストなどを活用して普段からつながりを構築していきましょう。そのことを、心からオススメします。