ベテランを追って若手も成長、品質で勝負する栃木のにら
にらの栽培面積が全国第1位の栃木県。県の生産量の約3割を占めているのが、JAかみつが管区の鹿沼市、日光市、栃木市西方地区です。保水力と排水性に優れた鹿沼土、日光連山の豊富な水、冬場の日照時間の長さなど、にら栽培の好条件が揃っています。
にら栽培歴35年、鹿沼市の石川順一さん(59)は、約120軒の生産者が所属するにら部会の会長。
130aのにら畑で、栃木県で開発されたゆめみどりをはじめ、ミラクルグリーンベルト、ショートスリープの3品種を栽培しています。春に播種して育苗した株を6月に定植。品質重視で1株1株を大事に育て、平均5、6回の収穫で周年出荷しています。
管内の若手にら生産者のひとり、益子智史さん(35)は就農5年目。
両親の代には40aだった栽培面積を110aまで増やし、技能実習生2人とパートタイム従業員2人を雇用して、ゆめみどり、ミラクルグリーンベルト、パワフルグリーンベルトを栽培しています。上位等級での出荷を目指し、手間を惜しまず取り組んでいます。
実績のあるベテラン農家と躍進中の若手。研究熱心な二人は口を揃えて「にらはネダニとの戦い」だと言います。
ネダニ類をきっかけにさまざまな病気が株に入り込むため「まず制するのはネダニ」というのが共通認識です。
収穫直前は使えない上、薬剤の選択肢が少ない 収量増加を目指すにら農家の悩み
地域でネダニ類が確認されたのは、今から20年ほど前。下葉が枯れたり腐ったりするなどの現象の原因がネダニ類であることが石川さんの圃場で初めて確認されました。
にら部会ではネダニ類に対処するため、株元灌注によるネダニ類防除を行っていますが、ネダニ類との戦いは今日まで続いています。
ネダニ類はほとんど1年中存在し、石川さんの圃場で被害が出やすいのは、ハウスで保温を開始する12月頃。「にらが休眠に入るため根が動かなくなり、作物自体の防除作用が働きにくくなることが原因ではないか」と見ています。1回の収穫量が1/3まで落ち込んだこともあるそうです。
「最初の収穫で被害が出ると後々まで影響が続いてしまいます」と石川さん。
効き目があっても同じものを使い続けると抵抗性がつくためローテーションは必須。ネダニ類は登録薬剤が圧倒的に少ないことが悩みでした。そのうえ、主な薬剤は収穫30日前から14日前までに使用しなければなりません。
夏場などにらの生長が早い時期は、ぎりぎりのタイミングになってしまうため薬剤処理を諦め被害が多発し、出荷を諦める生産者もいるそうです。
一方、益子さんの圃場では、8月に定植していた両親の代では被害が確認されていませんでした。
しかし、6月定植に切り替えて管理期間が長くなったころから、ネダニ類による被害が発生するように。「病害虫によって収量が減ったり、作業性が落ちたりすることは極力なくしたい」と防除処理を徹底したところ、収量は両親が管理していたときの2倍になりました。
とはいえ、にらは早ければ10日から14日で収穫期を迎える生長の早い作物。従来の薬剤では防除が間に合わないこともあり、対策に頭を悩ませていました。
そこへ新たに登場したのが『ネコナカットフロアブル』です。収穫7日前まで使えることにメリットを感じた二人は、JAかみつがの呼びかけによる実地試験に参画。2022年9月、捨て刈りした株に灌注処理を行いました。
ネダニ類の防除に新戦力、『ネコナカットフロアブル』とは
『ネコナカットフロアブル』は、にらを加害するネダニ類およびほうれんそうを加害するケナガコナダニ類の防除剤として、2022年秋、新たに誕生しました。
有効成分のエトキサゾールに、幼若虫の脱皮を阻害する作用があります。また、成虫に対してはその成虫から産まれた卵を孵化させず、密度抑制にも優れた効果を発揮します。
収穫7日前まで使用可能で、作物に対する高い安全性が確認されています。
9月に『ネコナカットフロアブル』を灌注してから1カ月後、石川さんと益子さんはともに「余裕を持って使えるので、使い勝手がかなりいいですね」「今回使用したハウスでは、ネダニの被害にあった株はありません」と満足した表情で話してくれました。
ネダニ類の防除を確立し、持続的なにら産地を目指す
若手生産者の益子さんの目標は、100%上位等級。たとえ加工用のにらであっても、生食用と遜色のない品質で出していくことです。
「ネコナカットを使った圃場のにらは青々としています。年末に向けてネダニの被害が出ないようにしたいですね。他の薬剤と組み合わせてどれくらい効くか、また単体で使ってどれだけの期間効くのかなど、試しながら防除を考えたいです」と、新しい薬剤への関心がさらに高まっています。
JAや開発メーカーの協友アグリとともに実地試験に取り組んできた石川さんは、「にらには有効な薬剤が少なかったところに、既存の薬剤と系統が異なり収穫7日前まで使えるものが登録されたのは大きな進展です」と『ネコナカットフロアブル』に期待を寄せます。
「部会で広めるため、いつか説明会も開きたいです。これからもにら産地として高品質なにらを作り続けます」と、産地を盛り上げていく抱負を語ってくれました。
にら農家を長年悩ませてきたネダニ類被害。
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