農産物輸出は相手国通貨との関係が影響
為替相場の農業への影響は、日本から海外への輸出と海外からの輸入で異なる。まず農産物の輸出にどう響くかを見てみよう。
急激な円安は、米国の利上げで日米の金利差が拡大したことがきっかけだ。米連邦準備理事会(FRB)がゼロ金利を2年ぶりに解除し、3月16日に短期金利の誘導目標の引き上げを決定。いまも続く円安の流れができた。
円レートが下がれば輸出価格も下がり、基本的には輸出にとって有利になる。問題はどの通貨をベースに、どの国に輸出しているかだ。
この点に関して農林水産省が最近、輸出関連業者にヒアリングしたところ、農産物は円建てで輸出するケースが多かったという。定量的な調査ではないが、相手国通貨と円の関係が輸出を左右することを示唆している。
円と各通貨の関係を見てみよう。3月初めから10月20日までを見ると、円は対ドルで2割強下落した。対香港ドルでもほぼ同じ水準で、シンガポールドルに対しては約2割下がった。これに対し台湾ドルや人民元に対しては下げ幅が1割強になり、タイバーツでは1割下落の下落にとどまった。
ここで留意すべきは、輸出を左右する要素が為替相場だけではないという点だ。とくに影響が大きいのが、新型コロナウイルスの流行以降の輸送費の上昇。輸出先によっては、円安の効果が相殺される可能性がある。
輸入資材はドル建てが中心
一方、輸入に関して注目すべきなのは、円とドルの関係だ。財務省の2022年上半期の統計によると、農産物を含む全品目の輸出に占めるドル建ての比率は50.8%なのに対し、輸入では71.2%に達している。
輸入でドル建てが多いのは、原油をはじめとしてドル建てで取引されているものが多いからだ。農業との関連で言えば、トウモロコシなどの飼料穀物や化学肥料も同じ理由でドル建てが中心になっている。
肥料を例に考えてみよう。全国農業協同組合連合会(JA全農)の調べによると、国際相場は2022年4月を境に下落し始めた。2017年1月の価格を100としたとき、尿素は4月の364から10月は235に下がった。それでも対ドルでの急激な円安が響き、輸入価格には上昇圧力がかかっている。
こうした事情は、日本が海外からの輸入に依存する他の商品でも共通だ。農業との関連で言えば、飼料用トウモロコシや大豆、ガソリンなどの価格が引き続きコストとして経営に重くのしかかる可能性がある。
では円安基調はいつまで続くのか。背景にあるのはインフレを抑えるための米国の利上げであり、米国の物価高にいつ歯止めがかかるのか見通せる状況にはない。日本が金融政策を大幅に見直すべき状況にもなく、農林水産省や各農家は当面は円安を前提に対応を考える必要がありそうだ。