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意外と知らない特別栽培の基本。認証申請の流れや販路・価格を解説

意外と知らない特別栽培の基本。認証申請の流れや販路・価格を解説

農薬と化学肥料を50%以上削減して作られた特別栽培農産物。有機農業のハードルの高さから、その前段階として取り組む生産者も少なくない。では、実際に特別栽培の表示をして販売するためにはどうしたらいいのか。また、販路や価格でのメリットはどれほどあるのか。山形県農林水産部農業技術環境課とやまがた農業支援センターを取材した。

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左:寒河江孝(さがえ・たかし)さん
やまがた農業支援センター常務理事(兼)環境農業推進課長

中央:森岡幹夫(もりおか・みきお)さん
山形県農林水産部農業技術環境課課長補佐(環境保全型農業担当)

右:片桐千穂(かたぎり・ちほ)さん
やまがた農業支援センター環境農業推進課技術主幹

特別栽培の認証制度は都道府県によってさまざま

節減対象農薬の使用回数と化学肥料の窒素成分量を50%以上低減して生産した作物は、農林水産省が示す表示ガイドラインに沿った生産管理ができていれば「特別栽培農産物」と表示をして出荷・販売することができる。

農林水産省の表示ガイドラインは全国一律のものだが、必ずしも認証や認定を取得しなければならない制度ではない。特別栽培への取り組み方は都道府県によってさまざまで、ガイドラインに忠実な認証制度を運用している県もあれば、ガイドラインに準拠しつつも独自の制度で進めているところもある。一方で特別栽培に関する認証そのものを設けていない地方公共団体も一定数あり、そういった地域では、農協や民間団体などが認証を行っている場合もある。

特別栽培の認証を取ろうと考えたら、まずは地域で認証制度を実施している機関があるかを確認する必要がある。

認証取得までの流れ

地域に特別栽培農産物の認証制度がある場合、手続きはおおまかに次のような流れとなる。
認証機関によって細かな手続きは異なるので、詳細は各地域の担当窓口に確認してほしい。

準備

申請書を提出する前に準備しておくことがある。
まずはガイドラインに則した生産計画を立てること。特別栽培の認証を得るためには、事前に作成した生産計画に沿って栽培を進めなければならない。

今回取材した山形県で認証機関として指定されている「やまがた農業支援センター」においては、生産計画を作成する段階で、普及指導員のいる県総合支庁農業技術普及課からの助言・指導を受けることが申請の要件とされている。

初めて特別栽培に取り組む場合は、どうしたら栽培基準をクリアできるかを地域の普及指導員に相談することがファーストステップとなる。これまでの栽培方法でどこまで基準値に近づけるのか、あるいはどれくらい変えていく必要があるのかを見通すところから始めよう。

すでに肥料や農薬の使用量を抑える努力をしている生産者であれば、現時点で特別栽培の基準値をほぼクリアできていることもある。

もう一つ重要なのが、申請に際してどのような資料が必要になるかをあらかじめ確認しておくこと。やまがた農業支援センターの場合、生産計画と出荷計画、ガイドライン表示、資材証明書などが必要となる。特に、肥料は化学肥料由来の窒素成分割合が判断できる書面を証拠資料として求められ、また栽培管理の上でも重要な情報となるので、肥料や農薬のパッケージもしっかり保管しておきたい

申請書の作成・提出

生産計画の作成、地域の普及指導員に指導・助言を受けるなど、事前の準備が整ったら、所定の様式に従って申請書を作成し、資料を添付して認証機関に提出する。申請書の様式は、認証機関のホームページからダウンロードするか、直接窓口でもらうことができる。

「特別栽培のガイドラインを全て頭の中に入れておくのは、生産者さんには大変だと思います」。そう寒河江さんが言うように、申請書の内容も、必要な資料もやや複雑でそろえるのには手間がかかる。不明点は担当者に問い合わせ、早めに準備を整えるようにしよう。

現地検査

申請書類を提出すると、書類内容が認証基準に適合しているか、認証機関で検査される。
検査を通過すると、現地検査が行われる。「まず作物がそこに植えてあること。看板が立っていること。栽培責任者がきちんと管理をしていること。確認責任者がこれらを確認していること。現地検査では、そういったことを確認することになります」(寒河江さん)
現地検査が終わると、申請書類と現地検査結果に基づいて、認証機関で審査が行われる。

寒河江さん

認証登録完了

審査に通ると、無事認証登録完了となり、認証登録証と認証シールが交付される。
その後、認証シールを付けて販売ができるようになる。

出荷・販売をしたら生産計画の内容通りに栽培が行われたかを確認するために実績報告書を提出する。出荷量や出荷先、使用した認証シールの枚数などを記載する。

申請期間

特別栽培の認証申請期間は、品目によって数回に分かれているケースが多い。
やまがた農業支援センターでは申請期間を年間で3期設けていて、作付け前2~4カ月が目安だ。例えば、水稲や夏どり野菜の場合は2月15日~3月15日が申請書の第1期提出期間となっている。

「当センターでは水稲の申請件数が多いため、第1期の2~3月に申請が集中し、事務処理に少し時間がかかってしまう可能性があります」と片桐さんは言う。
申請書類に不備があると再提出を求められることもある。申請に不慣れな人や、これから特別栽培を始めようという人などは、その年の収穫を終えて農閑期に入った時点で、余裕を持って来期の準備を始めたほうがいいかもしれない。

片桐さん

認証制度がない地域の場合

認証を行う機関・団体が地域になくても特別栽培に取り組むことはできる。
農林水産省の表示ガイドラインに従って生産管理をしていれば、パッケージへの印字などによるガイドライン表示で「特別栽培農産物」の表記をして出荷販売することは可能だ。公的な機関や農協といった事務手続きの専門家がいなくても、確認責任者を設定することで生産者が独自に行うこともできる。

だが、表示ガイドラインを読み込むのは実際のところ難しい。生産者が自ら取り組むとしても、やはり制度に詳しい行政職員や農協職員などに相談しながら進めるほうがいいだろう。

特別栽培農産物の表示例(農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン(平成19年3月23日改正)」より一部抜粋)

特別栽培はどこから始めればいい?

特別栽培を始めるに当たって、やはり気になるのは農薬をどう減らすかだろう。
森岡さんは言う。「例えば、耕種的防除や物理的防除といった技術は取り組みやすいかもしれません。雑草に関しては、田植え後の数日間、除草機械を用いて田んぼの水を撹拌(かくはん)することで雑草の発芽・成長を抑えるといった技術体系もあります。どのような生産技術があるのかは、地域の普及指導員さんに相談するといいと思います」

では、特別栽培に取り組みやすい環境や条件はどうだろうか。「確かに、環境によって特別栽培に取り組みやすい地域や圃場(ほじょう)というのは、一定程度はあるかもしれません。ただ、最も重要なのは環境や条件などよりも、生産者さん自身の取り組もうとする姿勢のほうが大きいと思います」(森岡さん)

森岡さん

気になる販路と付加価値は?

特別栽培農産物は、販売先や価格の点でどれだけの優位性があるのか。
山形県のブランド米「つや姫」はその点において好事例といえる。山形県産つや姫は有機栽培または特別栽培の基準で生産されていることが条件の一つとなっていて、取引価格が高く、JA主導で販路も確保されている。つや姫を作ろうとする生産者も多く、やまがた農業支援センターで特別栽培の認証登録を受けている田んぼの面積は県全体で1万4360ヘクタール(つや姫以外の品種も含む)にもなる。全国の特別栽培の耕地面積が約12万ヘクタールとされているので、8分の1近くを単独で占めていることになる。

やまがた農業支援センターの特別栽培農産物認証登録の状況(2021年度)

ただ、水稲以外の品目になると、上記の表からも分かる通り、申請区分が生産であるもののうち果樹の登録認証件数が8件(2.0%)、野菜が22件(5.6%)であり、2016年以降、合計400件前後で横ばいとなっている。
森岡さんは「有機JAS農産物はある程度付加価値をつけて有利販売できるのですが、特別栽培、特に野菜・果樹に関しては高く売るのが難しいというのが実情です。なかなか消費者理解が進んでいないのかもしれません」と話す。

一方で、特別栽培農産物で信用を得たことで有利販売できるケースもある。
新庄市のあるネギ農家(40代女性)は、卸売業者との契約のために一度は特別栽培の認証を受けたものの、翌年からは特別栽培の手続きを取らずに取引を続けられているという。業者からの信用が得られたからだ。

また、近年は消費者に直接販売ができるウェブサービスを活用して、特別栽培の基準を満たしていることを宣伝して販売する生産者も増えてきた。

販売業者や消費者からの信頼さえ得られれば、認証や表示などは必須ではないということだ。

特別栽培は今後どうなるか?

政府は2021年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、2050年までに日本の耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%に拡大するという目標を発表した。山形県でも、「やまがた・人と環境に優しい持続可能な農業推進計画」を策定し、有機農業だけではなく特別栽培の取り組みも支援していく方針だ。

有機農業や特別栽培の認証とは別の課題として、今後、全国的に環境保全型農業が進められていくことが予想される。

有機農業は難しくとも、特別栽培であれば手の届く生産者は多いのではないか。まずは地域の慣行栽培の基準値を調べ、栽培履歴と照らし合わせてみると検討しやすいかもしれない。
栽培方法を急に変えることは難しい。実際にその必要性を感じた時に移行しやすいように、今から少しずつでも準備しておいてはどうだろうか。

各都道府県の慣行基準

特別栽培農産物に関する各都道府県の慣行レベル(慣行栽培の基準値)は、農林水産省のホームページでリンク一覧が公開されている。
ただし、認証制度の実施・不実施は自治体によって異なり、実施している場合であっても、特別栽培に準じた独自の制度を運用しているところもある。
特別栽培に関してどのような取り組みを行っているかは、一覧に掲載されている各地域の担当部署に確認をしてほしい。

農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドラインに基づき地方公共団体が定めた慣行レベル等」(ページ中段「その他の関連情報」内)

https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/tokusai_a.html

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