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栽培と販売にかかる変動費を減らすには? 小さい農家の節約術【ゼロからはじめる独立農家#41】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

栽培と販売にかかる変動費を減らすには? 小さい農家の節約術【ゼロからはじめる独立農家#41】

急激な円安や世界的資源不足の影響を受け、肥料や資材が驚くほどのスピードで値上がりしています。小さい農家の強みは小回りがきくこと。また生産から製造、販売まで一貫しているからこそできる対策もあります。こんな時こそ小さい農家の本領発揮。農業を継続していくために。

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さまざまなモノの値段が上がる今、コストを見直す

私の前職はビジネスホテルの支配人で、そのころに簿記や損益計算書の見方など、経理の知識を身に付けました。一般的な経営の視点で農業を見ると、農業における固定費が所得に対してあまりに大きいのに驚きました。ちなみに「固定費」とは、地代、ハウスや農業機械のローンやリース料などのことで、なかなか減らすのは難しいものです。それに対し「変動費」は種苗代、肥料代、農薬代、燃料代、ビニールマルチ代などで耕地面積に比例します。こちらは工夫次第で節約することが可能です。

昨今問題になっているのは肥料代、燃料代の高騰による変動費の増加。この変動費の対策が急務になっています。今回は、我が「菜園生活 風来(ふうらい)」で行っている経費の節約法について説明します。

半不耕起栽培がコスト削減につながった

農業機械は管理機だけ! 燃料代の影響も少ない

自称、日本一小さい農家である風来ではトラクターを持たず、メインの農業機械は家庭菜園用の管理機のみ。この状態で15年以上、半不耕起栽培を実践しています。管理機だけでの農業は極端にしても、コスト削減においては半不耕起栽培がおすすめです。

風来のメイン農業機械、家庭菜園用の管理機

半不耕起とは畝の形を変えず、表面15センチだけ耕す農法です。畝を固定することで、トラクターなど大型機械は必要なくなります。大型機械がいらないということは、使う燃料も少ないということ。今回の燃料価格高騰の打撃も少なくて済みます。

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マルチ代も半分に

風来ではビニールマルチを使用していますが、半不耕起だと畝の下の方の土が締まったままなので、周囲に土をかぶせてマルチを押さえるのではなく、ピンだけで押さえることができます。そうするとマルチの端が傷まないので、春・夏作のものをそのまま秋・冬作に使いまわすことができます。つまり半年ごとの交換から1年ごとになり、マルチ代が半分になります。

肥料の無駄も削減

また最初から畝があることで、肥料を効かせたいところにだけまくことができます。一般的な耕起栽培では、畑全体に施肥してから耕起し、畝立てします。その場合、畝間の通路に無駄な肥料をまくことになってしまい、とてももったいない。
風来では、必要なところだけに施肥することに徹した結果、肥料の使用量を5分の1に減らすことができました。

雇用の仕方も見直す

風来では、ヨガの先生など自営業の人や、メインのパートを別に持っている人に、「セカンドパート」という形で空いた時間に働いてもらっています。

今は国が副業を推進する時代。自由な働き方の一環としてこのような雇用スタイルもあっていいと思いますし、地域で眠っているマンパワーの活用にもつながると実感しています。
コストを見直す中で大切なのは固定観念をなくすこと。これまで当たり前にやってきたことを見直す機会として、あらためて考えてみましょう。

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販路によって販売コストは変わる

農業でコストと言うと、先述した栽培にかかる経費のことを考えがちですが、小さい農家にとっては「販売コスト」こそ最も考えなければならないコストです。販売コストには販売手数料と送料が含まれます。
農産物のすごいところは、一般的な品目であれば説明がなくても買ってもらえるということ。それはありがたいことですが、その分品質の違いを明確に打ち出しにくく競争相手も多いために、価格もおおよそ決まってしまいます。有機農産物でも、消費者が購入してもよいと思うのは慣行栽培の1割高の価格までという調査もあります。つまり農産物はズバ抜けて高く販売することが難しく、一つ一つの商品から得られる利益を増やすことは現実的ではありません。そこで、手元に残る金額を増やすために必要なのが、販売コストの見直しなのです。

農林水産省の2017年の青果物経費調査によると、市場出荷の場合、青果物(主要16品)の小売価格に占める流通経費は52.5%、一方、生産者受取価格の割合は47.5%です。

大量の農産物を出荷する際に市場はありがたい存在ですが、販売コストを圧縮できる余地は限られてきます。それに対し販売量自体が少ない小さい農家は市場出荷しない方が販売経費がかかりませんし、そうすることで収入額が大きく変わってきます。

直売所への持ち込みは、利益につながるか

一般的に野菜直売所の販売手数料は、低めに設定されていることが多いと思います。ちなみに風来周辺では17%から20%ぐらいです。手数料が低いのは販売する農家にとって魅力ですが、直売所は近隣の農家が余った野菜を持ち寄る場からスタートしたという経緯もあり、安売り合戦になりがちです。中にはお小遣い稼ぎという人もいて、新規参入者にとってはそういった人との価格競争はとても不利になります。袋詰めしてバーコードシールを貼って現場に持っていき棚に並べる。簡単そうではありますが意外と手間がかかります。しかも売れなかったら野菜を引き取る手間も必要で、さらに引き取った野菜は基本的に廃棄することになりロスとなります。

産直ECの手数料は高めだが、ロスは少ない

産直ECポケットマルシェでの販売ページ

そこでおすすめなのが、インターネットを利用して産地直送販売を行う産直ECです。コロナ禍でおうち時間が増えたことから産直ECのユーザーが一気に増え、成長しています。産直ECは手数料が2割、また宅配便伝票の発行手数料もかかりますが、配達に行く必要もなくなり受注販売となりますので、ロスが少なくて済みます。登録や商品ページ作成など最初に手間はかかりますが、それ以上によいところがあります。

産直ECは販売ツールというだけでなくコミュニケーションツールとしても活用できます。ユーザー登録の増加とともに生産者の登録も増えており、競争が激しくなっています。しかし、産直ECの仕組みをうまく使うことで客ときちんとコミュニケーションをとれば、リピーターになってもらえる確率も上がります。さらにリピーターが増え、口コミ効果も上がると売り上げも上がってきます。

送料の新たな節約方法

産直ECはおすすめですが、送料がかかるのがネックです。宅配料金は産直ECの場合は一般的にユーザー負担となるので生産者的には費用負担はないのですが、社会全体でモノの値段が高騰しているので、送料負担のせいでユーザーさんの購買意欲が下がってきているのではないかと思います。そこで、風来ではどうにかユーザー負担を減らせないかと、新たな方法を模索しました。

クリックポストを活用

送料のことは以前から気になっていたので、風来では昨年より「クリックポスト」で送れる商品に着手しました。クリックポストとは日本郵便が提供しているサービスで、風来のある石川県から北海道に送っても沖縄に送っても、全国一律送料185円で郵便受けに届けてくれます。サイズは郵便ポストに入る大きさで、重さ1キロ以内、長さ14~34センチ、幅9~25センチ、厚さ3センチ以内。あらかじめ専用サイトで申し込み、ラベルを印刷して貼れば投函できます。
生産者の中には、アスパラやスティックセニョール、カリーノケールなどの葉野菜、海苔(のり)やちりめんじゃこなどを販売している人もいます。常温なので食品の発送には注意も必要ですが、お試しセットとして活用している生産者もいます。風来の場合、漬物を規定内のサイズの化粧箱に入れて「ちょいギフト」と名付けて販売したところ、売り上げも上々です。コロナ禍の中、このクリックポスト商品のおかげで1割ほど売り上げが増え、風来史上最高売り上げを達成しました。

クリックポストを使ってポストにお届け「ちょいギフト」セット

直接来てくれる客を増やす

産直ECやインターネットで情報を出すことの利点は、遠い人とつながれるということだけではありません。実は、地元の人も検索してくれるので、地元のお客さんともつながりやすくなるのです。
5年ほど前から風来では野菜セットをお店まで取りに来てもらうことに力を入れています。もちろん、マイバッグを持ってきてもらうことでダンボール代や包装資材費がかからないという利点は大きいです。さらに、お客さんとまさに「顔の見える関係」となれるので、アフターフォローもでき、長くリピーターになってもらえます。なんと、5年以上毎週取りに来てくれている人もいます。リピーターが増えれば新規開拓の必要はなく、そのぶん広告宣伝費も節約できます。

値上げができるその日まで

今後も資材が値上がりしていけば、根本的な解決手段として生産物や加工品の販売価格を上げるしかないと思います。ただ日本では長期間デフレが続いたため、生産者も「値上げしたら売れなくなるのでは」という心配があるでしょうし、実際その通りだと思います。それでも、他の商品も軒並み価格が上がってきているので、消費者側の値上げを受け入れる態勢も少しずつできているように思います。値上げしても大丈夫という状況になるまで、知恵をしぼり生き抜いていきましょう。

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