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りんご王国・青森県はいかにして黒星病の危機を乗り越えたか 産地の誇りをかけた病害対策

りんご王国・青森県はいかにして黒星病の危機を乗り越えたか 産地の誇りをかけた病害対策

本州最北端の青森県は、りんご生産量が日本一のりんご王国です。県庁に「りんご果樹課」があるなど、存在感が大きく経済効果も高いりんごは、安全安心で高品質な生産のための病害虫防除が欠かせません。そんなりんご生産を支えているのは、「防除暦」を作成するりんご研究所。年々めまぐるしく変わる環境の中、最適な防除法を探り続ける研究所の皆さんにりんごにかける思いと近年深刻化する病害との戦いについて伺いました。

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質・量ともに日本一、りんご王国青森県

青森県黒石市にある、地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所。
ここでは、りんごの品種改良や栽培試験などのほか、病害虫防除体系の構築や新規農薬の登録試験など、所内の圃場を中心に調査・研究を行っています。

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1901年に植樹された国光。ふじの親であり、青森県の風土に適し、長年りんご生産を支えてきた品種のひとつ

「この木は樹齢122年の国光こっこうという品種で、研究所のシンボル的存在なんですよ」と教えてくれたのは、りんご研究所病害虫管理部の赤平知也さんと平山和幸さんです。

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左:病害虫管理部・赤平知也部長 右:病害虫管理部・平山和幸主任研究員

青森県におけるりんご栽培は、1875年にアメリカから輸入した西洋りんごが県庁に植えられたことから始まり、現在は弘前市を中心とした中南地域などで広く栽培されています。これまで140年以上にわたって栽培技術や品種の改良を続け、今日の産地がつくられてきました。

「青森県のりんご生産において他県と大きく異なるのは、一年を通してりんごの供給ができる点です。他の産地はりんご用の冷蔵庫がほとんどないため、年内でほぼ販売を終了しますが、本県には翌年の8月まで長期貯蔵が可能なCA冷蔵庫をはじめ、冷蔵施設が県内各地に多くあります」と赤平さん。
秋に収穫したりんごを翌年の8月まで新鮮なまま出荷できるのは、青森県の貯蔵技術が高いことによると話します。また、冷涼な気候は病害虫の発生を抑え、他の栽培地域よりも薬剤散布の回数を抑えることを可能にしているそうです。

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病害虫管理部歴26年の赤平さん。りんごは食味が良く味が濃厚な北斗やふじが好き

このようにして青森県で生産されたりんごは、1年を通して全国のスーパーなどに出荷されるほか、近年では台湾などの東南アジアを中心に毎年3万t以上輸出されています。

大発生した黒星病。変化する耐性菌や温暖化への対処で、防除暦の見直しへ

りんごによって経済が支えられている青森県。だからこそ、病害による被害は地域経済につながる深刻な問題です。

「りんごは、防除がとても難しい果物です」と赤平さん。「りんごの病害は現在約60種類ほど確認されています。このうち、黒星病や斑点落葉病など青森県のりんごで防除対象となっている10種類の病害は、適切な防除を行わないと減収や品質低下の原因となるので、これらの病害に対して、適切な薬を適切な時期に散布する必要があります。このため、りんご研究所では毎年『りんご病害虫防除暦』を作成しており、これに従って散布すれば新規就農者でも防除できること、そして『どの時期に、どの薬剤を選べばよいのか』が見てすぐに分かることを目指しています」。

そんな研究所の知恵と思いの込められた「りんご病害虫防除暦」が刷新されるきっかけとなった病害があります。
かびが原因で発生する病害、黒星病です。前年の被害落葉から胞子が飛散するため被害が広範囲に及び、多大な経済的損失を生む深刻な病害です。

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葉や果実に円形で褐色の病斑を形成し、果実にできた病斑は肥大に伴って亀裂が生じる黒星病。被害を受けたりんごは売り物にならない

平山さんは黒星病について、「かつてはDMI剤が有効であるとされ、1985年以降長年使用されてきました」と話します。「しかし30年という長い期間DMI剤を使用してきたことで耐性菌が顕在化してきました。薬の効果が落ちてきたタイミングに病害が発生しやすい気象が重なり、2016~2018年に黒星病による深刻な被害が出てしまったんです」。

耐性菌の顕在化によって、これまでのDMI剤では防除が難しくなりました。農家から「なんとかしてくれないか」という悲痛の声が寄せられ、防除暦の見直しが始まりました。
「この頃は、寝ても覚めても黒星病のことで頭がいっぱいでしたが、とにかく様々な試験を行って、結果を出すことに必死でした」と赤平さんは振り返ります。その後、防除時期の見直しや効果のある薬剤の検索などの試験を積み重ねて、2021年にDMI剤を使用しない防除暦を作り上げました。

「青森県の防除暦には100年以上の歴史があり、これまで高品質のりんご生産を支えてきました。今は、その編成に関わることに大きな責任を感じています」と話す平山さん。
「今回黒星病が多発した要因には、薬剤耐性の顕在化があります。環境負荷や安全性への配慮から選択性の薬剤が増えている現状もあり、耐性菌対策は今後も重要な課題として受け止めています。防除暦を刷新してからは黒星病の発生も少なく推移しており、内心ほっとしています」。

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大学でかびの研究をし、りんご研究所に採用された平山さん。好きなりんごはさわやかな甘みが特長のトキ

防除暦には、たくさんの農薬の中から試験を重ねて選抜され、研究所が自信を持ってすすめられる剤だけが掲載されています。その選抜には重責が伴いますが、高品質なりんご生産を守ろうとする研究所の強い意思が宿っています。

また、赤平さんは最近の病気の発生について、「近年では気温の上昇や降雨が増え、これまで青森県では確認されていなかった炭疽病や輪紋病など暖地型の病害もみられるようになってきました」と話します。

「炭疽病や輪紋病は果実が腐敗するため、直接減収に結びつき被害が大きくなるので、発生増加が懸念されていました。この問題に取り組み、効果的な薬剤の検索をしていましたが、そのうちの一つがパスポート顆粒水和剤です」と赤平さんは振り返ります。

「パスポート顆粒水和剤は炭疽病や輪紋病などの果実病害に対する効果が優れ、耐雨性などの点で安定した効果を示しました。さらに顆粒状なので水に溶かす際に粉が舞い上がらない上、水に溶けやすいという扱いやすさがあり、黒星病や褐斑病など多くの病害にも対応できる汎用性の高さも評価できました。そこで、2018年に防除暦へ採用しました」。

りんご作りに関わる人たちの最後の拠り所として 産地を支え続けるりんご研究所の決意

温暖化によって、病害の顕在化や発生時期にずれが出てきていると話す赤平さん。「黒星病の防除に対しては、薬剤散布だけではなく被害落葉の処理など耕種的防除も非常に重要です」と危機感を強めています。
赤平さんは「わたしたちの仕事は、農協の指導員や普及員などを通じて、その先にいる農家さんに繋がっていきます」と力を込めます。「その人たちひとりひとりがりんごと向き合い、苦労しながらりんごを栽培しています。だからこそわたしたちも、その思いに応えないといけないと思います。最終的な拠り所は自分たちしかいない、そう思うことが使命感につながっていますし、原動力でもあります」。

平山さんは「実験がしたいという理由で就職した自分にとって、2016年の黒星病の被害は、真剣に防除と向き合うきっかけとなりました」と苦笑します。「農家さんと話す機会もあり、多くの方が真剣にりんご栽培に取り組んでいる中、自分も真剣に取り組まないといけないと襟を正される思いになりました。日本一の産地として、今後は初めてりんご栽培に参入する農家さんでも始めやすいような仕組みづくりがますます必要ですし、研究所がより開かれた場所になれたらと思います。りんごは青森県の重要な産業のひとつですから、しっかり守っていきたいです」。

「日本のりんごの半分以上を青森県が生産していることは誇りだし、この先も譲れません」と笑顔で語る2人。
そして、防除の刷新という大きな転換を迎えたりんごの名産地、青森県。
りんごに携わる人々の思いを背負う研究所が、今後もりんご生産を支えていくのでしょう。

【取材協力】

地方独立行政法人 青森県産業センターりんご研究所

【お問い合わせ】

株式会社エス・ディー・エス バイオテック
東京都千代田区神田練塀町3番地AKSビル
TEL:03-6867-8320 FAX:03-6867-8329

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