いま注目を集める「常温煙霧」とは?
みなさんは常温煙霧という防除方法を聞いたことがあるでしょうか。専用の機械を使って農薬を送風ファンで施設内に拡散させる方法のことです。読んで字のごとく、熱源を用いることなくコンプレッサーで薬剤を常温のまま細かい煙状の霧にして噴霧します。農薬の微粒子は静かに舞いながら葉などに付着し作物に効果を発揮します。
通常、農薬の散布は噴霧器などを使って作業者が農作物全体にかけますが、これが重労働。繁茂するとかけムラが生じることに加え、キュウリのように生育スピードの速い作物では、成長のたびに薬のかかっていない部分が増えるので頻繁に防除しなければなりません。時間と労力をともなう大掛かりな作業となります。
一方、常温煙霧は一度設置すれば、散布液を用意してスイッチを押すだけという手軽さ。何時間もの労働コストをカットできます。また、日中に行っていた防除を夜間に行えるので、昼間の労働力を有効に活用できるのもポイント。省力化と労力分散を兼ね備えた画期的な防除方法といえるでしょう。
「常温煙霧は昭和の終わり頃、使われていた技術です。しかし、使える薬が限られていたことや正しい機械の使い方が広まらなかったことで、衰退していきました」。
そう話すのは、高知県農業振興部環境農業推進課の朝比奈泰史先生。常温煙霧の復活にかかわったひとりです。
あるとき、今後の防除のあり方をテーマにしたシンポジウムに参加。その席で、朝比奈先生は「古いけれど今こそ注目すべき技術がある」として常温煙霧を話題に挙げました。ちょうど日本の農業施策の一環として、大規模農業(大型施設の設置)が進展していた時期。施設園芸農業の大規模化を推し進めるためには、防除の省力化は必須でした。
そんな朝比奈先生の話を興味深く聞いていたのが機器メーカー・有光工業株式会社の社長。先生の考えに賛同し、以後ともに常温煙霧を押し進めるキーパーソンとなります。
「高知県で常温煙霧の普及に向けた取り組みが進んでいるのは、農薬メーカーをはじめ、県の取り組みに賛同いただき技術検証等に協力してくれた有光工業(株)さん、(一社)日本植物防疫協会のお力添えあってのことです。有光工業(株)さんには、常温煙霧機の改良や機器の貸与などでご協力いただいていますし、現地での実証試験のために何度もお越しいただきました。(一社)日本植物防疫協会も、新しい農薬処理方法の技術検討・普及に向けて、令和3年に立ち上げた『農薬の新施用技術検討協議会』において、常温煙霧に取り組んでいただいています」。
こうした協力者たちが次々に現れ、常温煙霧は再び注目されるようになります。
高知県のIPM技術による病害防除の歴史
IPM(総合的病害虫・雑草管理)技術の普及において先進県である高知県。きっかけは、ナスの人工受粉の労力軽減のため1992年頃からハチを導入したことです。ハチを導入した施設では殺虫剤の使用が制限されたため、害虫防除の代替技術として天敵の利用がスタートしたのです。
ナスやピーマンにおいて、1997年ごろから、天敵を中心としたIPM技術の県内での普及が進展。2000年からは国の補助事業も活用され、2020年現在、ナスおよびピーマンの天敵導入面率はほぼ100%になっています。
一方、キュウリでは、アザミウマ類が媒介するウイルス病が問題になっていること、年間を通して様々な病気が発生することから、農薬散布による防除が主体のままでした。
このように、害虫防除だけではなく、病害防除においても適用可能で、特に、キュウリ栽培における省力化も可能となるIPM技術が求められていました。
その解決策が、常温煙霧法の導入でした。当時を振り返りながら、下元先生はこう話します。
「県としても害虫のIPMは進んでいましたが、病気についてはなんとかしなくてはいけないと考えており、常温煙霧をスタートさせました。薬剤は予防剤を2つ選び、そのひとつがダコニール1000。様々な病気に幅広く効くことと、耐性菌発生が問題となった事例が報告されていないことが魅力でした。これらが選定した理由です」。
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防除の労力を軽減し、多様な農作物にも対応 最適解は「常温煙霧×予防剤」
新たな病気対策として、常温煙霧の推進を決めた高知県。そして、その薬剤の一つにダコニールを選びました。農家にとって防除は重労働であること、また薬剤にコストがかかることを踏まえると、防除の労力を軽減し、多様な農作物に対応できる「常温煙霧×ダコニール1000」という組み合わせが適していると考えたのです。
「防除の効果は永遠ではありません。作物はどんどん生育しているので、新しい葉は薬剤がかからず病気に罹りやすい状態です。未病状態をキープするには10日に1回くらいの頻度で防除を行ってほしいと思います。それも常温煙霧ならスイッチを押せばいいだけですから簡単に行えます」。(朝比奈先生)
現在、農家の協力を得て、現地で試作機を用いた実証を行っていますが、いずれも評価は高く「早く実機を販売に繋げてほしい」という声が挙がっています。
殺菌剤ダコニール1000の常温煙霧における役割とこれからの農業
「殺菌剤ダコニール1000は70種以上の作物、およそ180種類の病害に登録があることから幅広く使い続けられる農薬です。“農薬は危険”と考える消費者がいるかもしれませんが、決してそうではありません。農薬の登録には医薬と同様に厳しい安全性試験が課されており、登録内容に従って農薬を使用した作物を毎日食べ続けても健康に影響はないということが証明されています」。(朝比奈先生)
農薬を忌避する消費者心理の一方で、虫食いの野菜、病気で変形した野菜は売れないという事実。そのはざまで、“おいしく食べ続けられるものを安定に作り・届けたい”という生産者の思いがあります。消費者の気持ちと生産者の思い、これらを実現するために必要なIPM技術・省力化技術のひとつが「安心できる薬剤を使った手間いらずの病害防除」なのです。
「農薬散布はこれまで手で撒くのが常識とされてきましたが、施設園芸という限られた空間であれば、常温煙霧が普及していくと確信しています。今後も現場に合った農薬の使い方を農薬メーカー・機械メーカーと一緒に考えていきたいですね」。(朝比奈先生)
「無人化・省力化を可能とする常温煙霧の防除はこれから普及するだろうと思います。と同時に、これからも新しい病気が発生してくるので、それに対応していなかければなりません。多様な切り口で対応しながら、これからも安全・安心な農産物の安定供給のために取り組んでいきたいです」。(下元先生)
高知県の常温煙霧の取り組みは省力化への貢献が注目され、全国に広がる気配を見せています。いずれは施設園芸の一般的な技術として普及することが期待されます。
そして、防除の薬剤に求められるのは、耐性菌発生リスクが低く、複数病害を同時に防除できること。そういった観点からもダコニール1000は常温煙霧のベース剤として最適な薬剤といえるのです。
【取材協力】
高知県農業振興部環境農業推進課 高知県農業技術センター
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ダコニール普及会
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