畜産業の持続可能性へ、全社的なSDGsを推進
持続可能な社会を目指して、SDGsに取り組む企業が増えています。これは、食料生産を担う畜産業も例外ではありません。環境保全、家畜の健康や衛生管理、労働安全などに努力を払い、直面する飼料価格の高騰、担い手不足などの課題を乗り越えながら、世界的なエネルギー不足や食糧問題の解決に寄与すべく環境負荷低減や資源循環型畜産に取り組んでいます。
その中の一社、養豚大手の株式会社フリーデンは、創業以来60余年にわたり生産物の「安全・安心・おいしさ」を追求し、日本人の味覚に合うブランド豚「やまと豚」を育ててきました。同社は今、2030年に向けた新たな企業ビジョンを、SDGsへの取り組みを通して実現しようとしています。
畜産の持続可能な未来のために、全社一丸となってSDGsを推進していく。社長の強い思いを受けて、2019年に社内でSDGs推進委員会が立ち上がりました。
企業理念の達成にSDGsのゴールを当てはめる
SDGsを経営に取り入れたくても、どのように活動を始めたらいいのかわからない企業も多いことでしょう。「当社も最初はそうでした」と話すのは、フリーデンで広報を務める落合あずささんです。
同社では、社長からSDGsを通してかなえたい3つの約束が提示されたことで活動の方向性が定まりました。
社長からは、
①企業理念である「安全・安心・おいしさ」をさらに追求していく
②人と環境に優しい企業であり続ける
③より一層みんなが安心して働ける職場で、会社が継続的に発展するために具体的な目標を掲げて進んでいく
という3つの約束が示されました。
「3つの約束に対してSDGsの目標を当てはめたことで、取り組むテーマが具体的になりました」と落合さんは話します。
同社がターゲットとするSDGsの目標は6つ。「5.ジェンダー平等を実現しよう」「8.働きがいも経済成長も」「12.つくる責任 つかう責任」「13.気候変動に具体的な対策を」「15.陸の豊かさも守ろう」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」です。
落合さんの委員会での役割は、取り組みを社内外に浸透させることです。
例えば、同社は2003年に農場のある岩手県大東町で環境保全に寄与すべく、耕作放棄地で養豚堆肥を使って飼料米を栽培する循環型畜産のプロジェクトを始めました。大東町、東京農業大学、農研機構と同社の産官学連携は、SDGsの「パートナーシップで目標を達成しよう」(目標17)に該当します。
このプロジェクトを「社内広報誌(自由伝)」や「SDGs通信」で発信すると、従業員から「私たちが今まで取り組んでいたことが、実はSDGsだったんですね」という反響がありました。これに対して落合さんは、「SDGsは全員が協力しなければ達成できません。社内の士気を高めるには、労働環境の整備も必要です。一つひとつ達成して社員の意欲を高めて、SDGsを推進させるよい循環を作りたいですね」と話します。
JGAP認証で、環境保全、家畜衛生、労働者の安全も
SDGs推進委員会が発足する直前、同社の農場はJGAP畜産の団体認証を取得しています。その審査基準である113の項目は、食品安全、家畜の健康(家畜衛生)、快適な飼育環境への配慮(アニマルウェルフェア)、労働者の安全、環境保全に関するもので、SDGsと紐づけることができます。
そのため、「特に生産現場はSDGsに取り組みやすかったと思います」と落合さんは話します。
同社の企業理念「安全・安心・おいしさ」のうち、安全と安心は第三者の審査によるJGAP認証で可視化されますが、おいしさを証明するのは難しいことです。
そこで同社では、2022年9月に東京ビッグサイトで3日間にわたって開催されたSDGsイベント「GOOD LIFE フェア」に出展し、一般消費者に「やまと豚」を試食してもらいました。
試食した来場者の中には「やまと豚」を知っていて、同社の展示内容を見て初めて価格とおいしさに納得する人も。
落合さんは、改めて取り組みをPRすることが大事だと思ったそうです。
「おいしさの秘密は穀物主体の飼料のほかに、健康な状態で育てるためにJGAPの項目にもある衛生管理やアニマルウェルフェアがすごく大事です」と落合さん。
同社が生産する「やまと豚」は国際味覚審査コンテストで8年連続三ツ星を獲得していることからも、その努力と工夫は結実していると言えそうです。
畜産業のより良い発展につながる施策
JGAPだけでなく、フリーデンには新たなSDGsの試みもあります。飼料米プロジェクトの延長線上で、2021年に飼料穀物の中で最も比率が高い子実トウモロコシの生産を開始し、2022年から試験的に供給を始めました。
「CO2削減につながるだけでなく、畜産業界では輸入飼料の高騰が死活問題になっています。このプロジェクトが成功事例になれば、同業者にもメリットが大きいと思います」と落合さん。今年度は栽培面積を28haに増やし150トンの収量を見込んでいます。
同じく2021年には、SDGsの「つくる責任 つかう責任」(目標12)にあたる賞味期限の延長も行われました。品質保証室と商品部が製造工程を一つひとつ見直して改善をはかることによって10日の延長を実現したのです。食品ロス削減に貢献し、取引先からも扱いやすさが増したと好評を得ています。
「当社の取り組みが、SDGsを通すことで社内外に伝えやすくなっています。当社が100年続くためにどうすればいいか、若い人たちに考えてもらうきっかけもできました」と落合さん。
これまで直接PRできていなかった消費者に対する情報発信、自社で当たり前に行われているJGAPがSDGsにリンクしていることを社内にもっと伝えることが、今後の抱負です。
SDGsの達成は、社会貢献で終わらず、企業が社会課題を解決して持続的に発展するための施策であることを、フリーデンの取り組みが物語っています。
畜産や小売業に携わる皆さん、まずはJGAPから始めてみませんか。
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一般財団法人日本GAP協会 Japan GAP Foundation