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収穫目前でブロッコリーが全滅!? 農業系YouTuberが選ぶ、農業での失敗談3選

収穫目前でブロッコリーが全滅!? 農業系YouTuberが選ぶ、農業での失敗談3選

農業では毎年違うことが起き、それだけ失敗することも多い。失敗はしたくないものだが、チャレンジの数だけ失敗はつきものでもある。農業経験ゼロから就農し、現在は農業系YouTuberとしても活躍する新居田裕人(にいだ・ひろと)さんに、自身の経験と失敗の乗り越え方について話を聞いた。

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■新居田裕人さんプロフィール

近藤貴馬 愛媛県今治市出身。愛媛大学中退。ホテル、派遣スタッフ、不動産などさまざまな職を経て、2012年に就農。経験、家族、農地すべてゼロからのスタート。農業系YouTubeチャンネル「農業物語」を運営し、ほぼ毎日新作動画を投稿している。

ニートも経験。33歳でゼロからの就農

2012年に33歳で地元今治市で就農した新居田さん。大学を中退し、さまざまな職を転々とした。就職氷河期の世代であり、一年間ほどニートになったこともある。30歳を過ぎたころ、「若い人がやりたがらない農業であれば、何も持たない自分にも勝機があるのではないか」と考え、就農を決意した。

実家が農家というわけでもなく、経験も農地も完全にゼロからのスタートだった。地域の先輩農家に相談することもあったが、基本的には図書館に通うなどして独学で農業を学んだ。「3年目ぐらいで、農業で生きていけそうだと思えるようになりました。8年目ぐらいである程度農機がそろって、経営も安定してきましたね」と新居田さんは振り返る。

現在の主力品目は、ブロッコリー、サニーレタス、夏秋トマトだ。1.5ヘクタールの畑を借り、6アールの2連棟ハウスが1棟ある。収穫した野菜はすべて産地直売所で販売し、年間売上は1200~1300万円。そのほか、YouTubeの広告収益や株式投資などの副収入もある。

挑戦の裏に失敗あり。エピソード3選

農業経験ゼロからスタートした新居田さんにとって、農業は挑戦の連続だった。
失敗だらけだったという新居田さんに、これまでの主な失敗談を3つ聞いた。

100万円強で調理場整備も、8カ月でとん挫

2017年に倉庫の一部を調理場として使えるように改築した。産地直売所の惣菜コーナーを見て、「これからは6次産業の時代だ」と考えてのことだった。余った農作物で弁当や惣菜などを作る計画を立て、100万円強の費用と2年間に及ぶ手間をかけて、約30平方メートルの調理場を整備した。

結果は大失敗。農作業をしながら調理加工をするには、ある程度の組織力が必要である。しかし、スタッフとの話し合いや事前準備があまりにも足りていなかった。買い出しなどの細かな業務なども当初は想定しておらず、本業の農業に割く時間がすぐに足りなくなってしまった。調理品の販売は8カ月ほど続けたが、ほどなくして休止に。その後調理場は使っていない。

「焦りすぎやったと反省しています」と新居田さん。「そもそもの基盤ができていませんでした。調理のメニューはもっとしっかり検討すべきだったし、責任者も不在で体制が不十分でした。作業しやすいように広く作ったんですけど、実際にはその半分でよかったですね」。

とはいえ、農業と天秤にかけるほど飲食業はもともとやりたいことでもあった。やらずに後悔はしたくないとの思いで実行に移したことであり、やってよかったとは思っている。
現在使用していない調理場だが、これからYouTubeのための料理動画など、活用方法を検討中だ。

調理場整備の失敗

調理場整備の失敗を振り返る新居田さん

水路の水が入ってブロッコリー8000株が全滅

収穫間際のブロッコリーが水没して枯れてしまった事件が起きた。2020年6月のことである。

新居田さんがブロッコリーを栽培していた農地は元々、ほぼすべてが田んぼであり、すぐ脇には水路が通っている。6月の雨の多い時期だった。水路から水があふれ、新居田さんの畑に流れ込んでしまった。20アールの畑に植えた約8000株のブロッコリーは、収穫を目前に全滅。80~90万円ほどの損失となった。

「あの時はショックでしたね。もうちょっとで収穫だったので」と新居田さんは苦笑する。

一番の反省点は、土地を見る目がなかったということだ。被害に遭った圃場(ほじょう)は水路よりも低い位置にあり、水路の構造上水があふれやすい場所でもあった。「農地を借りるときはちゃんと水の流れも見ておかないとあかんな、と。ですから、ここの圃場はもうお返ししましたね」。

ブロッコリーに関しては、1万株をダメにしたこともある。この地域では、ブロッコリーは6月になると産地直売所から姿を消していく。前年までの市場リサーチからそれを知っていた新居田さんは、その年、販売単価を上げるために時期をずらして6月下旬に収穫できるようにスケジュールを組んでいた。

ところが、梅雨の降雨と暑さでブロッコリーが病気になってしまった。高単価で売れるなら1万株のうちの半分でも十分と考えていたが、半分どころか全滅という結果に。苗代だけでも数十万円の損失となった。

スタッフの雇用や教育に苦労

家族の労働力を持たない新居田さん。忙しくなる時にはパートタイムの雇用をしなければならない。だが、スタッフを使うことの難しさも痛感している。

「雇い始めのころは、作業に慣れるまで教えないといけません。人手が足りなくて人を雇うわけですけど、教えているとさらに人が足りなくなるという、わけのわからん状況になります」と新居田さんは語る。

2020年からは新型コロナウイルス感染症の影響も大きかった。スタッフの雇用を安定させるために規模を拡大するなど仕事の用意をしていたが、感染や濃厚接触のために突然出勤できなくなるスタッフが頻繁に出て、結局植え付けや収穫が間に合わない事態になることもあった。大きな損害が出たわけではないが、予定していた売上に届かなかった例は数えきれない。「労務に関する課題はなかなか解決できませんね。今後、農業大学校に通って組織経営について学ぶ予定です」と新居田さんは話す。

失敗した時の乗り越え方とは

度重なる失敗の数々。もともと非農家であり、資本も頼る人もない新居田さんにとって、農業経営での失敗は大きな痛手となっていたはずだ。
そんな新井田さんに、これまで失敗をどう乗り越えてきたのかを教えてもらった。

保険に加入する

損害が出た場合に、まず役立つのが保険である。お金の心配を軽減させることがなにより心の安定には必要だろう。

農業に関係する保険には、その品目や損害の内容などによってさまざまあるが、新居田さんがおすすめするのは農林水産省の収入保険だ。

収入保険は2019年から実施されている制度である。品目や自然災害など、対象が限定されることがなく、年間収入の合計金額をベースに減収分を補償してもらえる。青色申告をしていることが加入の条件となるが、補償の対象が幅広く、新しいことに挑戦したい人には心強い味方になりそうだ。

メモを取る

同じ失敗を繰り返さないためには、記録を残しておくことが基本だ。次の栽培時に対策が立てやすくなるのはもちろんのこと、メモに書き残すことで頭の中が整理され、一人で考え込む時間が少なくなり、パフォーマンスの低下を防ぐこともできる。

近年はスマートフォンで手軽に圃場の写真や動画を撮影できるようになった。画像や映像であれば、人に相談する時にも伝えやすいので、失敗の原因が突き止めやすくなる。

SNSで投稿する

FacebookなどのSNSでは、特定のジャンルに興味を持つ人たちが集まるグループページがある。農業に関連するグループも多数あるので、参加してみるのも一つの方法だ。

グループには全国の農業者が登録しており、農業での失敗事例を画像付きで投稿すると、それを見た農業者たちがアドバイスをしてくれることが多い。

やりたいことのリストを作っておく

失敗すると落ち込んでしまいがちだが、考えすぎは行動力を鈍らせてしまう。
そこで新居田さんがおすすめするのが、時間ができた時にやりたいことのリストを普段から作っておくことだ。

作物を枯らして収穫ができずに時間が空いてしまったら、他に栽培してみたい野菜を植えてもいいし、産地直売所などで価格のリサーチをしてもいい。農業とは無関係の読書や映画鑑賞でもいい。普段からやりたいことを用意しておくと、落ち込むことがあった時でも前向きな気持ちに切り替えやすくなる。

YouTubeで農業動画を毎日投稿

新居田さんはYouTubeでの動画投稿も行っている。2018年10月から少しずつ投稿を始め、2020年2月から本格的に農業系YouTuberとして活動している。

チャンネル名は「農業物語」と名付けた。「かっこいい主人公ではなく、泥にまみれてぐちゃぐちゃになりながら成長するのが人の本来の姿ですからね」と新居田さん。無職、無学、無農地という、なんの取り柄もないおじさんが成長していく農業の物語を、失敗を含めてさらけ出し、見る人に元気を与えたいとの思いが込められている。

動画はほぼ毎日新作を投稿している。野菜の作り方、視聴者の質問への回答、農作業の様子といった内容が多い。

動画の総数は1000以上で、直近数カ月の動画のほとんどが数千回の視聴回数となっている。農業に次ぐ収益事業として、少なからぬ収入が得られるまでになった。

家庭菜園をする視聴者~~

家庭菜園をする視聴者からの反応が大きい

毎日投稿を続けるコツについて、「編集は30分ぐらい。あまり凝った動画は作らないようにしています。あまりこだわるとドツボにはまってしまうので」と新居田さん。何もネタがない時は、作業風景や畑の様子を伝えるだけの日もある。前年に投稿した動画の焼き直しをすることもある。そうやってさまざまなパターンを30日分用意できれば、毎日投稿するのも苦ではないという。

失敗はチャレンジのたまもの

昔から落ち込みやすい性格だったいう新居田さん。世界的な経営者や思想家の著書などでさまざまな金言に触れ、意識的に落ち込まないようにしているという。

「世間では成功者とされている人たちも失敗を重ねているようなので、そういう人たちの言葉を励みにしています。だいたい、チャレンジするから失敗があるんで、チャレンジしただけでも自分をほめてあげるようにしたほうがいいと思います。失敗も、一つの必要な行程ですからね。ただ、世間では成功しないとほめられないので、せめて自分だけでもほめてあげたらいいんじゃないでしょうか(笑)」。

失敗談も積極的に公開する

失敗談も積極的に公開する新居田さん

他人の成功事例を耳にする機会は多いが、失敗例を教えてくれる人は少ない。だが、世間で高く評価されている成功者も、数多くの失敗をしているものだ。

毎年違うことが起きる農業においては、特に失敗から学ぶことは多い。成功への最短距離だけではなく、失敗の乗り越え方も学んでおくことが重要だ。

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