参加メンバーはこちら
まっつん農園代表 松本浩司(まつもと・こうじ)さん
32歳。茨城県在住。
大学2年の時にボランティアでカンボジアへ。大学3年でベトナムを旅している最中に現地の食文化に触れ農業に興味がわき、日本で農業をやろうと決心。2012年、大学卒業後ゼロからいきなり独立新規就農。借地農地1.5ヘクタールにてナス、インゲン、ネギ、赤ネギ、 ブロッコリーなどを栽培。
自社ECサイトと産直EC、フリマサイトにて野菜を販売中。
おざき農園代表 尾崎七海(おざき・ななみ)さん
29歳。兵庫県在住。
大学にて生物学を専攻。大学卒業後、農業プラントメーカーへ就職し、さまざまな農家と接する中で自らも農業をしたいと思い農家を目指すことに。神戸市の小池農園こめハウスにて4年間研修し2022年4月に独立。借地農地約30アールでミニトマト、オクラ、ズッキーニ、ブロッコリー、ニンジン等少量多品目を栽培。
ポッドキャスト「食べるのうか」配信中。
筆者:菜園生活風来(ふうらい)代表 西田栄喜(にした・えいき)
53歳。石川県在住。
自称日本一小さい農家。家族経営の少量多品種栽培で直売を行っている。
ポッドキャスト「ゼロからはじめる独立農家~命の時代に向けて~」配信中。
それぞれの独立方法と時代背景
西田(筆者)
西田(筆者)
私の場合近くの大規模農業法人で1年研修した後、独立したのは1999年。「IT革命」と言われた時期です。ただ、ブログサービスやスマートフォン、LINEなどのSNSもない時代。個人でのインターネット販売が少しずつ広がってきていた感じで、私も手作りでホームページを立ち上げました。またその当時はこの地域に大型の野菜直売所がなく、農業法人がそれぞれ自店舗を構えていました。初期の頃はそれらの店舗に配達したり、車に野菜や漬物を積んであちこち売りに行く引き売りからスタートしました。
就農した2012年当時は、野菜セットを農家が個人でネット販売していることが話題になっていて、私もSNSで野菜セットが必要な人を募集したりしました。まだ産直ECがなく、それぞれ個々で販売していたと思います。近所に大型野菜直売所が何軒かあり、そこでも2年目から販売。また、地元農協のインゲン生産部会に入り、インゲンは全量農協出荷になりました。
松本さん
研修先探しは、前の職場で評判のいい人を紹介してもらっては話を聞きに行きました。9軒目で目指しているものと近いところを見つけ、そちらで研修させてもらうことに。実際に話を聞きに行く前には、必ずその人のホームページやSNSを確認しました。そういった意味ではネットを活用しましたが、まず人に紹介してもらってから会うことができたので良かったです。
4年間研修したのち、2022年春に独立しました。SNSはTwitter、インスタグラムを告知の手段として使っています。ネット販売はしていなくて、主な販売先はファーマーズマーケットです。ほかには、仲卸業者に間に入ってもらい、飲食店からリクエストのある変わり野菜なども育てています。
尾崎さん
西田(筆者)
栽培についての失敗
西田(筆者)
私も農家になって23年。数々の失敗があります。今でも忘れられないのは10年ほど前に農法を全面的に切り替えてしまったときのことでしょうか。もう野菜定期便のお客さんもついてくれているのに成長が遅く、いつもは販売できていた時期に野菜の成長が間に合わず、この先どうなるかと心配になりました。幸いその後成長してくれましたが、1カ月ほど野菜セットを休むことに。その経験から新しい栽培方法や新しい品種に変える時は少しづつやらなければならないと思いました。
自然災害だと雪でハウスを何棟もつぶしてしまったこと。農家の先輩からは「いざという時はビニールを破って雪をハウスの中に落として、骨組みのパイプは守るように」と言われていたのですが、それまで大丈夫だったし、ビニールも何気に値段が高いのでどうしようかと躊躇(ちゅうちょ)している間にグシャッと。それからは冬場はビニールハウスにつっかえ棒を入れ、ハウスには棒の先に鎌をくくりつけたものを用意しておき、いざという時はビニールを切ることにしました。
西田(筆者)
尾崎さん
松本さん
あと失敗というかマメ科を育てるのが苦手です。大雑把な性格というのもあり、チマチマしたものはできなくて。そのあたりはひとつのことに集中するのが得意なスタッフさんにおまかせしたりしています。
尾崎さん
西田(筆者)
松本さんも尾崎さんも近くに聞ける人がいるというのは心強いですね。それはふたりの人柄があるのだと思います。聞く勇気の必要性を感じました。そして今はネットで知識を補強できるのがいいですね。
販売についての失敗
西田(筆者)
売り先については私の場合、最初は売れるかどうか心配ということもあり、いろいろなところに声をかけがちでしたね。私も農家の直売店や自然食品店への配達、そして全国の自然食品宅配グループへ漬物を納品するなど、いろいろなところに出していました。私が出していたところでは月曜に仕分けするので、こちらからは日曜発送の量が多くなります。細かく対応して全国各地に届けていたので日曜は全く休めず、体を壊すくらいになりました。そういうわけで、かなり勇気が必要だったのですが、小売業者への配達や販売をやめ、お客さんと直接つながる方へかじを切りました。最初は売り上げが落ちましたが徐々に広まり、今のスタイルになりました。
個人に販売することでコミュニケーションコスト(個人対応する時間)もかかりますし、個々のクレーム対応も必要になりますが、サービス業出身者としてはこのスタイルが苦ではなくむしろ仕事を楽しめるようになりました。
松本さん
あと飲食店への販売の場合は間にバイヤーに入ってもらっているので、クレームはあったとしてもクッションになってくれている感じがします。バイヤーさんとは持ちつ持たれつで収穫まで手伝ってくれることもあれば、こちらで近隣農家さんの収穫物の集荷を手伝うことも。私は農業に関わって5年ですが、バイヤーさんの姿勢もずいぶん変わり、農家の話を聞いてくれる人が多くなったように思います。
尾崎さん
西田(筆者)
ネット時代の農業
西田(筆者)
ネット販売でいうと今は自社ECサイトと産直EC3つ、フリマアプリ3つで販売していて正直手が回っていないのが現状です。登録さえすれば気軽に販売できますが、数を増やしすぎるのも問題ではないかと感じています。
松本さん
おざき農園では、Twitterは私が個人として好き勝手につぶやいていますが、インスタはスタッフにまかせて告知に使って、と使い分けしています。Twitterは本当に人柄が出ると思います。良い面より悪い面が出やすいので気を付けていますが、逆にその人の人柄を感じるのに最適なツールだとも思っています。
尾崎さん
西田(筆者)
新規就農者に向けて
西田(筆者)
私の実感としては就農希望動機がこの20年で変わってきたと感じています。生き方として選んでいるという度合いが大きくなってきた。ただ、食べていけないと業と言えない。失敗という意味でも私が推奨しているのが小さい農業です。失敗してもすぐに取り返せる規模でスタートすることを勧めています。
松本さん
なので失敗しても仕方ないけど、失敗してもいいようにできるだけ手を尽くすことが大切。販売先を確保してから栽培する姿勢がもっとも大切ではないかと思います。
尾崎さん
西田(筆者)
あとふたりに共通しているのは失敗を失敗のままにしないで経験値にしているところですね。失敗だけど苦労ではなく学びとする。その前向きに取り組む姿勢は私も刺激になりました。本日はありがとうございました。