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日本産牛乳が飲めなくなる? 酪農から見える日本の農業【ゼロからはじめる独立農家#42】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

日本産牛乳が飲めなくなる? 酪農から見える日本の農業【ゼロからはじめる独立農家#42】

飼料価格の高騰にもかかわらず、コストの上昇分が乳価に反映されないため、多くの酪農家がたちゆかない状況になっている昨今。離農の危機にあるという酪農家の声も聞こえてきます。どうしてそのような事態になったのか。そして一般的に言われている解決策の誤解とは。小さな酪農家の現場から現状と未来について語ってもらいました。日本酪農業の未来は日本農業の縮図。そこから見えてきたものとは。

参加メンバーはこちら

こばっしーランド代表 小橋敏行(こばし・としゆき)さん
45歳。岡山県在住。
酪農家の息子として生まれるが、大学卒業後は芸人を目指すも挫折。運送業など経て、2017年にUターンし酪農を継ぐ。酪農の今を真摯(しんし)に伝えたいと2022年3月にポッドキャスト「酪していきぬくラジオ」を配信開始。ほぼ毎日情報を発信し続けている。総飼養頭数60頭(うち搾乳牛40頭)。

clover farm(クローバーファーム)代表 青沼光(あおぬま・あきら)さん
36歳。富山県在住。
広島県生まれ。学生時代から酪農家を志し、高校、大学で農業を学ぶ。卒業後は黒部市直営の牧場などで経験を積み、2015年4月に第三者継承で酪農家に。100年後も日本で酪農が当然のように続いている産業になるようにと、ポッドキャストにて「百年酪農」を配信。
総飼養頭数70頭(うち搾乳牛40頭)。

ニセコリンリンファーム代表 鈴木登(すずき・のぼる)さん
38歳。北海道在住。
東京生まれ。ヒッチハイク旅で立ち寄った北海道ニセコで、バイトのつもりで入った酪農にハマる。14年間就業したのち2021年10月に独立。ビニールハウス牛舎で5頭からスタート。それから子牛が4頭生まれ、合計9頭に。兼業で酪農ヘルパーもしている。酪農家を増やしたいという思いで、stand.fm(スタンドエフエム)という音声配信サービスにて「ニセコリンリンファーム life is a journey」を配信中。

筆者:菜園生活風来(ふうらい)代表 西田栄喜(にした・えいき)
53歳。石川県在住。
自称日本一小さい農家。家族経営の少量多品種栽培で直売を行っている。
ポッドキャスト「ゼロからはじめる独立農家~命の時代に向けて~」配信中。

酪農の現状

西田(筆者)

今日は日本の酪農についてお話を聞いていきたいと思います。ニュースで酪農が大変苦しい状況にあると聞きますが、それぞれ具体的に今の状況を教えてください。
5年前に岡山に帰郷し酪農を継いだ時は「いい時に帰ってきたな」と周囲から言われました。今、その時と比べて2022年度は1500万円の売り上げ減となっています。大きな理由は牛のエサである輸入飼料の高騰。コロナ禍以前と比べ1キロあたり40円値上がりしました。1頭あたり1日25キロ与えてますので、コストに換算すると1000円アップ。搾乳牛40頭で1日4万円、月間120万、年間1440万円上がった形になります。

小橋さん

飼料代が上がったのも厳しいのですが、牛乳の需要がコロナで減ったのも大きい。コロナ禍で2020年の春に3カ月給食ストップ。そして観光旅行もなくなり、ホテル需要も大幅減。結婚式場でのケーキや料理がなくなったのも乳製品の需要減に直結しました。
その時の影響がまだ残っています。小橋さんが言われたように5年前はなんとかやれていましたが、今は牛を飼っていること自体で赤字となっています。でも、牛乳が出るのは止められず、廃棄するにもコストがかかります。

青沼さん

私は2021年10月に独立しました。独立に際して1年かけて作った経営計画書があったのですが、ここ1年で状況が大きく変わってしまいました。厳しいと思ってはいましたが、ここまでとは正直思わなかった。子牛の引き取り価格も暴落し、セリに出して売ることもできない状況が続いています。

私達が就農した2021年には酪農の新規参入者が全国で40人ぐらいいましたが、2022年度はかなり減ってしまっているのではないかと心配。現状は事業計画書を出そうと思っても計画が立てられないのではないかと思います。

鈴木さん

西田(筆者)

経営的にとても厳しいんですね。こうした状況の中、実際に離農している人は増えているのでしょうか。
実際に離農している酪農仲間もいますが、離農できる人は高齢で設備投資をしていない人ばかり。多くの人は借金があるので離農したくてもできないというのが現状で、私も借り入れに奔走しています。

小橋さん

西田(筆者)

それは大変ですね。厳しい状況から酪農家を守るために国の政策や補助はあるのでしょうか?
補助でいうと2022年9月に搾乳牛1頭あたり1万円(北海道では7200円)の交付、配合飼料1トンあたり6750円の補助が決まりましたが、正直焼け石に水といった感じです。生乳の需給改善ということで、乳量が少ないなどの低能力牛の早期淘汰(とうた)に1頭15万円を交付するという方針も決まりました。

青沼さん

西田(筆者)

コロナ禍は読めなかったとしても、牛の頭数を減らす、淘汰するというのは現場からみてもしかたないことなのでしょうか。
うちは全部で9頭しかいないので、牛は家族同然。牛をいかに健康に育てようかと頑張ってきました。なので「淘汰って何のことだろう」と正直頭に入ってこない。もちろん他の意見もあると思いますが。

鈴木さん

私も鈴木さんと同じ意見です。このままだといずれは飼っている乳用牛を食用肉に転用しなければならなくなるとモヤモヤしています。でも早期淘汰をすすめるのは酪農家の士気にも関わる。数字上そうなるのは分かるんですが、農水省はもっと説明する必要があると思います。そして牛を減らすのではなく牛乳の需要を増やす政策をしてほしいですね。

小橋さん

打開策の誤解

西田(筆者)

想像以上に厳しい状態であることが分かりました。その上でなのですが、いくつか素人の疑問があります。1つ目は「牛乳が余っているならバターやチーズにすればいいのではないか?」と思うのですが……。
コロナ禍の初期に余った牛乳がバターやチーズ、また脱脂粉乳に加工されましたが、それも供給過多状態になりました。それを保管する乳業メーカーの倉庫もいっぱいになり、2021年末ニュースになった牛乳の大量廃棄の危機となりました。厳しい状況は今も解消されていません。

小橋さん

西田(筆者)

たまに、酪農家さんが直接牛乳を販売しているのを見かけますが、直売や6次化は難しいのでしょうか?
牛乳を直売する場合ですが、牛乳をパック詰めする時の衛生管理の法律が厳しく設備投資に莫大なコストがかかります。なので牛乳を直売しているところでは1リットル1000円以上というところも少なくありません。そこまでいかなくても最低500円しないとやっていけない。1リットル500円の牛乳だと普段使いはできないのではないでしょうか?

青沼さん

西田(筆者)

やはりそれぞれに理由があって今があるのですね。それでもあらためて現場の声を聞くことで解像度が上がったように思います。ちなみに、地元の牛乳を買うことは何か効果があるのでしょうか?
牛乳は生ものなので新鮮な方がおいしいというのがあります。サプライチェーンが短く、また輸送コストもかからないので環境面でもいいのではないでしょうか。なにより少しでも高いものを買ってもらえればそれだけ牛乳価格の底上げにつながります。

青沼さん

日本酪農の未来

西田(筆者)

それではこれからの酪農について、難しいと思いますが打開策や展望があれば教えてください。
なにより牛乳の消費量を上げることが短期的には必要です。コストを下げることも必要だけど、生き残るためには乳価が上がることが不可欠。年に一度の乳価交渉も牛乳が余っていたら説得力がありません。せめて、乳価上昇のきざしだけでも欲しい。

このままいくと酪農家が激減するでしょう。そうなったら需給の関係で国産牛乳が400~500円になるのも大げさではありません。結果的に国産牛乳が飲めなくなり、海外からのおいしくないロングライフ牛乳があふれるような状況になるかも。
今牛乳を消費してもらうのは消費者のためでもあると思っています。そのために酪農の現場から毎日ポッドキャストで情報発信しています。そこでは信用してほしいという思いで経営の数字もすべてさらしています。リスナーの皆さんには、想像力をもって今の状況を考えてもらえれば、うれしく思います。

小橋さん

コロナ禍以前の消費量であればここまでひどい状況にはなっていないので、まずは消費をコロナ前の水準に戻すことが大事です。
先進国の中で飼料を輸入に頼っているところはほとんどありません。恒久的な安定のためにも飼料の自給率を上げていくのは必要です。そのための法律の改善、飼料自給の必要性の啓蒙などにアプローチしていきたいと思っています。

身近なところでは小学生の授業の一環として酪農教育を無料で受け入れています。酪農を身近に感じてもらうことで、子供たちが牛乳ファンになってくれています。スポーツと同じでファンあってのプレイヤー。ファンがついてくれれば100年先も日本で酪農が続いていると思います。

そのために「百年酪農」ということでポッドキャストを配信しています。

青沼さん


新規参入が減るのではなく増えていかないとその業界に未来はありません。そんなこともあり、小さく、コストをかけずできる酪農を実践しています。うちの牛舎はビニールハウスで、業者の方に「どこが牛舎ですか?」と聞かれることもあるくらい。それでも酪農はできます。

最近はインスタで小さい酪農がやりたいというメッセージもいただきます。牛は人ととても近い存在。緑の草の中に白と黒のホルスタインがいる風景は素敵です。酪農をやってみたいと思う需要はあると信じて情報を発信しています。

鈴木さん

西田(筆者)

近々の課題は牛乳の消費を増やすことですね。私もTwitterで小橋さんと出会ったことをきっかけに、ひさしぶりに自分で牛乳を買って飲んだり、いろいろと料理に使ってます。今は牛乳は調味料のひとつとしても、生活に欠かせないものになりました。牛乳は前菜にもメインにもデザートにも、もちろん飲み物としても使える万能選手だとあらためて魅力に気づきました。

昔は牛乳配達の小瓶牛乳が当たり前で、手軽に飲みやすかったですね。今はコンビニでも200ミリリットルの小パックがあるので、それらももっと目立っていいかも。まずはキッカケづくりが必要ですね。

農水省の方でも10年以上前から牛乳のレシピを開発して公開していますし、乳業関係の組織がミルク鍋のSNSキャンペーンをやっていたり、また最近では有名なレシピサイトでも牛乳レシピを募ったりもしていました。そのようなサイトや情報はあるので、あとはどのようにそこへのアプローチにつなげるかだと実感しています。

そういった意味では3人とも情報を発信していますね。酪農の未来は日本農業の未来にも見えます。手遅れになる前に微力ではありますが、私も情報発信していこうと思います。今日はありがとうございました。

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