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独立23年・10年・1年生が語る失敗と教訓【ゼロからはじめる独立農家#43】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

独立23年・10年・1年生が語る失敗と教訓【ゼロからはじめる独立農家#43】

この20年はインターネットの普及、スマートフォン、SNSの誕生で世界が大きく変化しました。農業もその影響を受けています。独立就農もそのひとつ。そんな時代でも以前と変わらぬ悩みや失敗はあるし、またこの時代だからこその悩みや失敗もあります。世代別のリアルな声をお届けします。

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参加メンバーはこちら

まっつん農園代表 松本浩司(まつもと・こうじ)さん
32歳。茨城県在住。
大学2年の時にボランティアでカンボジアへ。大学3年でベトナムを旅している最中に現地の食文化に触れ農業に興味がわき、日本で農業をやろうと決心。2012年、大学卒業後ゼロからいきなり独立新規就農。借地農地1.5ヘクタールにてナス、インゲン、ネギ、赤ネギ、 ブロッコリーなどを栽培。
自社ECサイトと産直EC、フリマサイトにて野菜を販売中。

おざき農園代表 尾崎七海(おざき・ななみ)さん
29歳。兵庫県在住。
大学にて生物学を専攻。大学卒業後、農業プラントメーカーへ就職し、さまざまな農家と接する中で自らも農業をしたいと思い農家を目指すことに。神戸市の小池農園こめハウスにて4年間研修し2022年4月に独立。借地農地約30アールでミニトマト、オクラ、ズッキーニ、ブロッコリー、ニンジン等少量多品目を栽培。
ポッドキャスト「食べるのうか」配信中。

筆者:菜園生活風来(ふうらい)代表 西田栄喜(にした・えいき)
53歳。石川県在住。
自称日本一小さい農家。家族経営の少量多品種栽培で直売を行っている。
ポッドキャスト「ゼロからはじめる独立農家~命の時代に向けて~」配信中。

それぞれの独立方法と時代背景

西田(筆者)

今回のテーマは「失敗とそこからの教訓」です。同じ新規独立就農者同士で共感できるところがありますし、また、就農した当時の時代背景によって違うところもあると思います。失敗ということでは、私も話題に事欠きませんので、今回は存分に私の体験も話しますね。
Zoom風景

今回の参加メンバー。松本浩司さん(上段左)、尾崎七海さん(下)、筆者(上段右)

西田(筆者)

まずそれぞれの時代背景と就農、独立までの道のりからいきましょう。
私の場合近くの大規模農業法人で1年研修した後、独立したのは1999年。「IT革命」と言われた時期です。ただ、ブログサービスやスマートフォン、LINEなどのSNSもない時代。個人でのインターネット販売が少しずつ広がってきていた感じで、私も手作りでホームページを立ち上げました。またその当時はこの地域に大型の野菜直売所がなく、農業法人がそれぞれ自店舗を構えていました。初期の頃はそれらの店舗に配達したり、車に野菜や漬物を積んであちこち売りに行く引き売りからスタートしました。
私は大学では経営学部を卒業しており、農業は全くのゼロからのスタートでした。幸い友人の祖父が大規模農家だったので、そこで面倒をみてもらい、農地を借りることができました。茨城県は農業が盛んな地域だからというのもあったと思います。

就農した2012年当時は、野菜セットを農家が個人でネット販売していることが話題になっていて、私もSNSで野菜セットが必要な人を募集したりしました。まだ産直ECがなく、それぞれ個々で販売していたと思います。近所に大型野菜直売所が何軒かあり、そこでも2年目から販売。また、地元農協のインゲン生産部会に入り、インゲンは全量農協出荷になりました。

松本さん

私の場合は、農家になりたい思いはあったものの、前職で農業の厳しさを感じていたので、しっかり研修してからやろうと研修先を探すことからスタートしました。そういった意味では石橋を叩いて渡るタイプだと思います。

研修先探しは、前の職場で評判のいい人を紹介してもらっては話を聞きに行きました。9軒目で目指しているものと近いところを見つけ、そちらで研修させてもらうことに。実際に話を聞きに行く前には、必ずその人のホームページやSNSを確認しました。そういった意味ではネットを活用しましたが、まず人に紹介してもらってから会うことができたので良かったです。

4年間研修したのち、2022年春に独立しました。SNSはTwitter、インスタグラムを告知の手段として使っています。ネット販売はしていなくて、主な販売先はファーマーズマーケットです。ほかには、仲卸業者に間に入ってもらい、飲食店からリクエストのある変わり野菜なども育てています。

尾崎さん

西田(筆者)

やはり就農した時代ごとに大きく違うのはインターネットの発達ですね。また大型野菜直売所やファーマーズマーケットが当たり前になってきて、最初の売り先探しとしては以前よりハードルが下がった感じですね。ただその分安売り競争に巻き込まれないことが大切ですが。

栽培についての失敗

西田(筆者)

農家で失敗というと、真っ先に思いつくのは栽培でしょうか。病害虫の被害もですが、自然災害もモロに影響を受けますね。それぞれいろいろあったかと思います。

私も農家になって23年。数々の失敗があります。今でも忘れられないのは10年ほど前に農法を全面的に切り替えてしまったときのことでしょうか。もう野菜定期便のお客さんもついてくれているのに成長が遅く、いつもは販売できていた時期に野菜の成長が間に合わず、この先どうなるかと心配になりました。幸いその後成長してくれましたが、1カ月ほど野菜セットを休むことに。その経験から新しい栽培方法や新しい品種に変える時は少しづつやらなければならないと思いました。

自然災害だと雪でハウスを何棟もつぶしてしまったこと。農家の先輩からは「いざという時はビニールを破って雪をハウスの中に落として、骨組みのパイプは守るように」と言われていたのですが、それまで大丈夫だったし、ビニールも何気に値段が高いのでどうしようかと躊躇(ちゅうちょ)している間にグシャッと。それからは冬場はビニールハウスにつっかえ棒を入れ、ハウスには棒の先に鎌をくくりつけたものを用意しておき、いざという時はビニールを切ることにしました。
雪でつぶれたハウス

雪でつぶれた菜園生活風来のビニールハウス

西田(筆者)

農家あるあるですが、災害もしばらくたつとなんだか武勇伝のようになり、その口調で聞いているとそんなに大変ではなかったかな、と誤解することありますね。
それは大変でしたね。想像するだけで怖くなります。あと農家の武勇伝になるというの、分かります。

尾崎さん

栽培でいうと、最初はインゲンと赤ネギが苦手でした。インゲンは初年度に台風で支柱が倒れて全滅。それからはインゲン部会の人に教えてもらい、またネットでも情報を集めて自分に合った仕立て方を見つけました。赤ネギも芽出しがうまくいかなかったのですが、これも知り合いから栽培名人を紹介してもらい教えてもらいました。教えてもらえる環境というのは大変助かります。

松本さん

私は独立1年目で大きな自然災害はなく、少量多品目ということでリスクは分散しています。ただ研修時代は何度も軽トラックを脱輪させて田んぼにハメたり、トラクターもすべてのエラーを体験しました。それでも頼りになる親方がいてくれて安心して学ぶことができました。今も研修先にお世話になることが多々あります。

あと失敗というかマメ科を育てるのが苦手です。大雑把な性格というのもあり、チマチマしたものはできなくて。そのあたりはひとつのことに集中するのが得意なスタッフさんにおまかせしたりしています。

尾崎さん

西田(筆者)

松本さんといえばインゲンと赤ネギが代表作物なので意外でした。でも失敗してもそこで逃げなかったからこそ得意になったのでしょうね。

松本さんも尾崎さんも近くに聞ける人がいるというのは心強いですね。それはふたりの人柄があるのだと思います。聞く勇気の必要性を感じました。そして今はネットで知識を補強できるのがいいですね。

販売についての失敗

西田(筆者)

3人に共通しているのが、販売を重視しているところですね。販売先ありきでの栽培。だからこそ安心できる部分もありますが、直接お客さんと接することで失敗もあったかと思います。

売り先については私の場合、最初は売れるかどうか心配ということもあり、いろいろなところに声をかけがちでしたね。私も農家の直売店や自然食品店への配達、そして全国の自然食品宅配グループへ漬物を納品するなど、いろいろなところに出していました。私が出していたところでは月曜に仕分けするので、こちらからは日曜発送の量が多くなります。細かく対応して全国各地に届けていたので日曜は全く休めず、体を壊すくらいになりました。そういうわけで、かなり勇気が必要だったのですが、小売業者への配達や販売をやめ、お客さんと直接つながる方へかじを切りました。最初は売り上げが落ちましたが徐々に広まり、今のスタイルになりました。

個人に販売することでコミュニケーションコスト(個人対応する時間)もかかりますし、個々のクレーム対応も必要になりますが、サービス業出身者としてはこのスタイルが苦ではなくむしろ仕事を楽しめるようになりました。
販売での大きなトラブルはこれまでありませんが、品質のクレームでは夏場のブロッコリーの変色については定期的にあります。今は包む袋の材質で日持ちが変わるので、いろいろと試しています。あと産直ECでは「カットネギ」という商品名であっても「切れたネギが届いた」などとクレームを受けることもあり、そういった時はこちらの姿勢を説明しつつ真摯(しんし)に受けとめ、以後はもっと表示を分かりやすくするなど対応しています。

松本さん

今は小売店や飲食店からオファーをいただくことが多いのですが、どこまで信用していいのかというのが悩ましいところです。そのお店が近場にある場合は研修先の親方に聞いたり、またネットで評判を検索したりしています。

あと飲食店への販売の場合は間にバイヤーに入ってもらっているので、クレームはあったとしてもクッションになってくれている感じがします。バイヤーさんとは持ちつ持たれつで収穫まで手伝ってくれることもあれば、こちらで近隣農家さんの収穫物の集荷を手伝うことも。私は農業に関わって5年ですが、バイヤーさんの姿勢もずいぶん変わり、農家の話を聞いてくれる人が多くなったように思います。

尾崎さん

西田(筆者)

お客さんとの距離感も時代とともに変わってきているように思います。10年ほど前はレビューも一方的だったのですが、SNSの発達で双方向性も出てきて、以前より無茶なクレームはなくなってきたように感じています。まあそのような雰囲気づくりを心掛けているからというのもありますが。

ネット時代の農業

西田(筆者)

この20年で大きく変わったのがネット販売やSNSでの関係性です。そんなネットならではの失敗談がありましたらお願いします。
今のところSNSでの大きなトラブルはありません。Twitterも学生時代からのアカウントを使っているのですが、今はほぼ仕事用になりました。ツイートの内容も、以前は好きなことだったのですが、今はお客さんも見ているのではないかと思って、気を付けて発信しています。

ネット販売でいうと今は自社ECサイトと産直EC3つ、フリマアプリ3つで販売していて正直手が回っていないのが現状です。登録さえすれば気軽に販売できますが、数を増やしすぎるのも問題ではないかと感じています。

松本さん

私は、取材される時には野菜を持つのをやめるようになりました。今は取材記事もネットにアップされる時代。その時の旬の野菜を手に持った写真が載るのですが、掲載時期が先だったりするとその野菜を求められてももう終了していることもあります。その野菜を求めて問い合わせしてきた人をガッカリさせるのが申し訳なくて。

おざき農園では、Twitterは私が個人として好き勝手につぶやいていますが、インスタはスタッフにまかせて告知に使って、と使い分けしています。Twitterは本当に人柄が出ると思います。良い面より悪い面が出やすいので気を付けていますが、逆にその人の人柄を感じるのに最適なツールだとも思っています。

尾崎さん

西田(筆者)

ネットの販売形態も、個人のネットショップからショッピングモールへ、そしてアマゾンのような超大型ショッピングモールが出てきて、今は産直ECのような専門店で野菜を売る時代になりました。SNSも初期と比べて大きく変遷したように感じます。インスタがこんなにビジネスに直結するようになるとは思いませんでした。変化がはやいものに正解を出すのは難しい。変化に対応していくことこそ失敗しないコツかもしれませんね。

新規就農者に向けて

西田(筆者)

それでは最後に独立新規就農希望者へ、先輩としてひと言ずつ。

私の実感としては就農希望動機がこの20年で変わってきたと感じています。生き方として選んでいるという度合いが大きくなってきた。ただ、食べていけないと業と言えない。失敗という意味でも私が推奨しているのが小さい農業です。失敗してもすぐに取り返せる規模でスタートすることを勧めています。
農業は失敗しないことは無理で、失敗があって当たり前。失敗を恐れないことが大切だと思います。柔軟に受け止め、失敗を学びにしていく姿勢が大切だと思います。

松本さん

確かに農業は失敗しても当たり前というところはあります。ただここ最近の資材高騰はすごくて、また助成金の制度の期間も短くなり、金額も少なくなって、かなりシビアになってきました。私もビニールハウスをたてているのですが、モロに影響を受けています。
なので失敗しても仕方ないけど、失敗してもいいようにできるだけ手を尽くすことが大切。販売先を確保してから栽培する姿勢がもっとも大切ではないかと思います。

尾崎さん

西田(筆者)

私も松本さんと同じような考えでしたが、尾崎さんが言うように独立就農が厳しい時代ではありますね。リスクの分散という意味では個人農家にとって何より大切なのがネットワークづくりではないかと思っています。ネットワークがあることで教えてもらったり、助けてもらったり、勇気づけられたりする。そういった点においてもおふたりもすごいのではないかと思います。

あとふたりに共通しているのは失敗を失敗のままにしないで経験値にしているところですね。失敗だけど苦労ではなく学びとする。その前向きに取り組む姿勢は私も刺激になりました。本日はありがとうございました。

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