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人生の目的は幸せになること。小さい農家夫婦のあり方【ゼロからはじめる独立農家#44】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

人生の目的は幸せになること。小さい農家夫婦のあり方【ゼロからはじめる独立農家#44】

小さい農業の最初の一歩は家族経営。結婚している場合、夫婦で一緒に農業を営む場合も多いでしょう。天候によって先が読めず臨機応変な対応が必要な農業では、夫婦で経営するからこそのメリットは多くあります。しかし一歩間違うと夫婦関係にヒビが入りかねないことに。そうならないために、自称・日本一小さな農家の私自身の経験をもとに、気づいたことと対策してきたこと、そしてこれからの働き方を提案していきます。

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ある日妻がキレた

私たちが結婚したのが1999年。我が菜園生活 風来(ふうらい)を起業した年です。「目的は幸せになること、農業はその手段」。そんな思いはあったものの、当時私の収入はゼロでした。今思うとよく結婚してくれたなと思います。結婚当時、看護師として働いていた妻の要望は「子どもが生まれる頃には家族を食べさせるぐらいになっていてほしい」でした。

妻はそのころ北陸三県から重い疾患を持つ幼い子どもが運ばれてくる大学病院の小児科に勤めていました。保護者の仕事が忙しいなどの理由で付き添いがなく寂しい思いをしている子どもに接することも多く、そのことに心を痛めていました。子ども好きで小児看護に携わってきたこともあり、自分に子どもができたら幼いうちはずっと一緒にいたいとのことでした。

そんな妻の思いもあったおかげか、長女が生まれた2001年には風来の売り上げもある程度になっていて、妻は看護師を辞め育児に専念することになりました。長女が1歳の時に自宅兼店舗兼加工場を畑の前に新築。一緒に過ごす中で、妻の時間に少し余裕があるように見えたので、子育ての合間に妻に仕事を手伝ってもらうことにしました。最初はほんのちょっとでしたが、子どもを近くに住む私の両親にあずけた時などを中心に、農産物の加工や袋詰めなど、どんどん作業量を増やしていきました。

大好評だった風来ママのケーキ

大好評だった風来ママのシフォンケーキ

畑仕事は天気次第で、やることもその日次第。手を貸してもらいたい時に、その都度2階のリビングにいる妻を呼び出していました。

そんなある日、一緒に加工場で仕事をしていると、気付けばお昼の時間になっていました。ふと私が「今日の昼食は何?」と聞いたところ……。

「今の今まで一緒に仕事しててなんでそんなこと聞けるの! 分かるわけないでしょ!」

とキレられてしまいました。鬱憤がかなりたまっていてそれが爆発したようです。

役割を分けると責任感がでる

そこで初めてゆっくり話をすることに。妻いわく「家業としてやってるので、もちろん仕事は手伝うつもり。 でも生活と一体化してるので、休んでるとこちらもサボった気分になってしまい、またいつ呼び出されるか分からない。ゆっくり子育てをしたいと思っていたのになかなかできてない」とのこと。

最初は「そう言われても、自営業なんだし、仕方ないのでは?」という気持ちもありましたが、よくよく聞いていると確かにそうだなと思いました。それこそ普段から「目的は幸せになること、農業はその手段」と言っていたのに本末転倒になっていたことに気づきました。そこで仕事をその都度頼むことをやめ、作業量が前もってわかるように分業制に移行。妻の方には漬物づくり、漬物袋詰め、お菓子作り、それと配達を担当してもらうことにしました。私から仕事を依頼する場合には前々日までに「○日○時までにこの漬物とこのお菓子を用意しといて」と伝えるようにしたのです。

畑仕事はよほどのことがない限り、私ひとりでやることにしました。妻は自分の都合のいい時に合わせて作業をします。あとは口出ししない。こちらも変に依存することがなくなりました。二人の時間を合わせて一緒にやらざるを得ない仕事も一部ありましたが、その他は基本的にそれぞれ好きな時間にやるように。そのことで互いのストレスが軽減したように思います。

一方、加工品に関してお客さんから届く声は、しっかり妻に届けるようにしました。お褒めの言葉は彼女の手柄ですし、実際のお客さんの反応を目にすることで、妻の責任感ややる気にもつながってきました。

そんな両親の姿は子ども達にとっても良かったようです。自営のいいところは夫婦それぞれ働いているところを子ども達に見せることができること。またお手伝いをさせられること。正月明けのかき餅づくりは家族総出の風物詩。現在は作らなくなりましたが、今でも時々話題にのぼります。

末娘お手伝い

自営業は子どものお手伝い力も磨く

また時間の融通が利くのも、家族経営の良いところ。小学校のマラソン大会は平日に開催されるのですが、長女も長男も次女も1年生から6年生まで、夫婦そろって応援することができました。

百姓的な夫婦のあり方

そんな家内分業制のスタイルが15年ほど続いた2019年、妻から看護師に復帰しようと思っていると相談がありました。「末っ子も小学校高学年になって手がかからなくなったし、これから長女が大学生になるとお金がかかる。私は私で最大限に稼げた方がいいのでは」と言うのです。

その時の私の気持ちとしては、「その方が効率がいいのは分かる。でも今のままでも十分稼げているし、家族経営できているというのは対外的にもいいのではないか。何より妻がいなくなったら仕事は回るだろうか」という思いでした。

ただ冷静に考えてみると、それぞれ仕事した方が我が家の所得が増えるのは確か。風来では天候や市場のリスク分散のために、百の仕事を持つという意味で“百姓的”に仕事を分散してきましたが、代表である私に何かあった時にすべてがダメになるスタイルでもありました。そういった意味でもそれぞれ働いた方がいいのではという結果に至り、妻は看護師に復帰しました。

こうして別々で仕事することになり、風来の仕事のやり方もイチから見直しました。配達をやめ産直EC重視に切り替え、また加工品も整理しラインアップをしぼることに。ネット販売での事務処理もそれまではその都度していたのですが、時間を決めるなど効率化をはかりました。そして、パートの募集など新たなことにも挑戦しました。

復帰後の2年間は妻と一緒にやっていた頃と比べ売り上げは落ちたのですが、3年目には週に6時間パートさんに入ってもらうことで以前と同等に。4年目は以前と比べて1.1倍の売り上げになりました。これまで基礎をつくりあげてきたからこそですが、このような機会がなければ根本的な見直しはしなかったかもしれません。

あと妻が看護師復帰の際に「自営業には定年がない。子ども達が巣立ち、私が定年になったらまた風来に帰ってこられるし、その時にはまたスタイルを変えてもいい。それが生きがいになる」と言ってくれたのが心強かったです。

家からの風景

この風景を生かしてどんなことが将来できるか

元々風来という屋号は「漬物屋 風来」「喫茶 風来」「ビストロ 風来」「農家民宿 風来」など頭に何をつけてもいいという発想からのネーミング。畑を中心にすることは変わりませんが、その時々においていろんなことができる。そう思うと今は将来が楽しみになっています。

「目的は幸せになること、農業はその手段」と常々言っていましたが、夫婦のあり方も目的に合わせて変えていいのだと実感しています。人生100年時代、いつまでも夫婦でワクワクしていられるように。

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