新規就農者の育成拠点「トレーニングファーム」
佐賀県内に四カ所ある「トレーニングファーム」。いずれも県の補助事業を受けて、JAが2017年度からキュウリのほか、イチゴとトマト、ホウレンソウの4品目をそれぞれ作りたい人を育てる拠点だ。毎年、県内外から研修生として数組ずつを受け入れている。
このうち、キュウリを作る人の育成拠点があるのは武雄市朝日町。県の元職員で県農業改良普及センターで長年キュウリづくりの指導に当たってきた西田昭義(にしだ・あきよし)さんと、山口さんが講師となり、2年間にわたって実技を中心に教えている。
環境制御技術で反収の壁を次々突破
山口さんは、全国でも早い時期に環境制御技術に関心を持ち、1984年からその先端的な機器を試しては、自らの栽培に取り入れてきた。その結果、誰よりも早くに反収で20トン、30トン、40トンという壁を次々に超えていったことは既報したとおりだ。
西田さんは、山口さんとともに、環境制御技術の開発やその普及などで産地に貢献してきた。これまでの功績が認められ、大日本農会から2022年11月に緑白綬有功賞を受賞している。
卒業生は反収40トン超が続々
トレーニングファームでは、西田さんを始めとした先駆者がこれまでに培ってきた技術を惜しみなく伝えている。
1年目の研修生には、2年生に付き沿って、栽培の基礎を学んでもらう。2年目の研修生には、独立を前に、1棟丸ごとの管理を任せている。
2022年度までに、キュウリのトレーニングファームを卒業したのは4期生までの14組16人。その多くが、一年目から反収で40トン前後という成績を納めている。佐賀県内はおろか、全国でもトップクラスだ。
LINEのグループで逐一助言
卒業生がこれだけの反収を挙げられている理由は、研修生時代にトレーニングファームで全国トップレベルの技術を身に着けられることに加え、卒業後の山口さんによる献身的な支援があることが大きい。
山口さんは、卒業生と研修生らを会員とするLINEのグループをつくり、適時、助言を与えている。それは、卒業生からの依頼で彼らのハウスを回った際の気づきだったり、山口さん自身のハウスや作物の管理の現状を撮影した写真だったりといろいろ。
といっても、細かく教えることはない。「ポイントを伝えるだけ」と山口さん。自ら気づき、考える力を付けてもらうのが目的だからだ。
産地の今後に募る不安。JAに願う現場理解
トレーニングファームとその講師陣のおかげで、後進は育ってきている。ただ、山口さんは産地の今後に安心しているわけではない。大きな課題とみているのは、選果施設の処理能力が限界値に達しつつあることだ。
JAさがが武雄市に選果施設を建てたのは2017年。山口さんによると、その設計にそもそもの問題があったという。
というのも、JAは新旧含めて農家一戸当たりの反収を年間25トンで計算していたそうだ。ただ、これが見通しの甘い数字であることは、すでにキュウリ部会の一戸当たりの平均反収が25トンに達していることが示している。しかも、卒業生の実績はその平均を大きく上回っており、山口さんは「あまりに過小評価」と批判する。
トレーニングファームの研修生は、一から農業を始める人が多い。ハウスや環境制御技術の関連機器などを新規に導入するので、既存の農家と比べて経費が余計にかかる。それを返済するために、既存の農家よりも反収を上げたいという意欲が強くなるのは当たり前だ。
その意欲に応えるために、山口さんはLINEでグループをつくり、献身的に助言をしている。そうした気持ちや動きを理解していない以上、「JAが、トレーニングファームをはじめとする現場の動きをつかめていなかった」と、山口さんが厳しい口調になるのも仕方ない。
既存の選果施設でその処理能力を上げようとすれば、作業員を増やすしかない。当然ながら機械よりも能率は落ちるし、それだけ人件費がかかる。そのツケが選果施設の利用料が高騰する形で農家に降ってくることは、目に見えている。JAさがは、選果施設について増設し、機械による選果ラインを拡張することも検討しているところだ。
山口さんによると、JAではキュウリの生産と販売の部署が縦割りで、連携できていないことも課題だという。「販売の担当は、各市場への出荷割合を固定化させていて、相場によって変える努力をしない。これでは農家が報われない」。生産技術の底上げは進んでいる。そこから先のJAの臨機応変な対応が、農家所得向上のカギになることはいうまでもないだろう。