カンボジア進出のため調査事業を計画
お花屋さんぶんご清川は豊後大野市にある3.3ヘクタールの園芸施設で菊を栽培している。パートとして雇用しているのは9人。その平均年齢は70歳。園芸施設は中山間の過疎地にあるため、新たに入ってくる人はほとんどない一方、辞める人は出ている。
地域の人手を継続的に確保することに不安が生じたため、外国人技能実習生を毎年3人ずつ入れてきた。一方で最近になって検討していたのが海外に進出することだった。
小久保さんが目を付けたのはカンボジア。同国に農場を設ければ、当然ながら現地の人を雇用することになる。その従業員を研修生として大分の農場に呼ぶことで、人手の不足も解消できるのではないかと思った。それにしてもなぜカンボジアだったのか。
「カンボジアから受け入れた実習生が真面目だったんだよね。彼なら向こうの農場を任せてもいいなあと思った」
そこで小久保さんは国際協力機構(JICA)の事業を活用して、同国で菊が作れるのかどうかを調べることになった。そんな矢先に世間を騒がせるようになったのが新型コロナウイルス。その影響で調査事業は頓挫する。
全作業時間の23%を占める芽かき
代わって小久保さんが手を打ったのがロボットの開発。産学官連携で農研機構の生物系特定産業技術研究支援センターが実施する「イノベーション創出強化研究推進事業」に応募。2019年度に採択され、菊の脇芽の位置を特定する人工知能(AI)の技術と、GPSを使って圃場(ほじょう)を自動で走行・旋回しながら脇芽を取り除く(=芽かき)ロボットの開発を進めている。ロボットに頼る作業を芽かきにしたのは、それが全作業時間に占める割合が23%と最も高いからだ。
すでに自動走行するロボットや芽かきをする腕の部分の開発は終わっている。研究開発の最終年度となる2021年度は、それらを組み合わせて単体のロボットとして圃場で使えるかどうか検証する。研究開発チームの大分工業高等専門学校によると、商品化については「2024、2025年の予定」とのこと。
カーテンの代替に防草シートでコスト5分の1に
菊の消費量は、人口減少や葬儀の簡素化のあおりを受けて冷え込んでいる。年商20億円のお花屋さんグループも無傷というわけではない。需要の拡大が見込めない中、安定した経営のために低コスト化は大きな課題だ。
そのためにいま試しているのが、遮光の役割を持つ内張りのカーテンの代替品として防草シートを使うこと。前回紹介した通り、お花屋さんぶんご清川は10アールを1区画としている。日長を調整するため、各区画の間は遮光カーテンで仕切っている。このカーテンを防草シートで代替した。「防草シートを使えばコストは3分の1になる」(小久保さん)。
1万坪で1000万円の経費節減
このほか園芸施設では天窓の下に遮光カーテンと保温カーテンを二重に張っている。これらもまた防草シートで代替するつもりだ。小久保さんは「1万坪の園芸施設で使うカーテンをすべて防草シートにしたら1000万円は浮く」と語る。
カーテンは一度張ってしまえば、「20年近くは持つ」という。それだけ耐久性があるのに、小久保さんが代替品として防草シートを検討している訳は、豊後大野市の園芸施設を建てたのが2004年なので、カーテンを更新する時期が迫っているのが一つ。もう一つは県内で園芸施設を増棟する計画があるからだ。
大分市で農場進出と直売を開始
増棟については現在研修生である20代の男性3人が2023年には独立して、計3.3ヘクタールで栽培を始め、「お花屋さん」にほぼ全量を出荷する。
加えて、お花屋さんぶんご清川も2023年度から大分市で新たに菊を作ることが決まっている。9ヘクタールの敷地に3.3ヘクタールの園芸施設を建てて、主に菊のほかにブドウやイチゴなども作る。駐車場を設営するほか、表通りに面した場所では直売所を運営して、収穫物を販売する予定。
「すでに豊後大野市の直売所では規格外の菊を格安で売っているんだよ。この辺りは菊の産地じゃないから、かなり売れる。地元だけじゃなくて大分市や熊本からも買いに来る。うちの菊は日持ちがいいからね」
消費が減る中で新たに直売に活路を見いだしたお花屋さんぶんご清川。これまで度重ねて取材してきた小久保さんに今回もまた、困難にあっても常に可能性を模索する明るくたくましい姿勢を感じた。