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花き流通の要となる花き卸売市場。DX化のカギは?【花き流通DX②】

花き流通の要となる花き卸売市場。DX化のカギは?【花き流通DX②】

花きは農産物の中でも卸売市場を経由する比率が高い品目です。花き卸売市場は他品目の市場とは分けられており、特別な設備や機能を持っています。一方でデジタル化については他品目同様にさまざまな取り組みの余地が残されており、業界団体や自治体、卸売市場事業者による検討が進められています。花き流通のDX化について考えるシリーズの第2弾となる今回は、卸売市場の課題や改革について詳しい、株式会社日本総合研究所の石田健太(いしだ・けんた)マネジャーと山本大介(やまもと・だいすけ)シニアマネジャーが意見を交わしました。

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石田健太プロフィール
小売・流通分野のコンサルタントとして中長期経営戦略策定、物流戦略策定、DX戦略策定など10年以上活動。食・農分野では生鮮卸売市場に対する物流戦略策定や卸売市場法改正に伴う卸売市場の在り方やビジョンなどの研究・発信に従事。

◆書き手:山本大介プロフィール
コンサルタントとして事業戦略・組織戦略策定、新規事業開発、地域金融機関支援に従事。農業分野には官民のプロジェクト実務担当として15年以上携わる。食・農分野における企業の取り組み評価を行う業界初の金融商品を10年以上前に開発。先進的な農業経営のあり方を研究・発信してきた。岡山県農業経営・就農支援センター登録専門家。

花き市場では卸売市場の存在感が大きいが、変化も生じている

調理場整備の失敗

花きの生産・流通の構造(出典:農林水産省「花きの現状について(令和4年11月)」

山本:日本では花きは卸売市場経由率が他品目に比べて高いのが特徴です(2018年度で73.6%。青果54,4%、水産物47.1%)。その理由には花きの品目・品種の複雑さや、生産や販売に零細事業者が多いことがあります。零細事業者間を卸売市場がつなぐ仕組みが日本の花き消費の多様性、豊かな花の文化を守ってきたと言えます。一方で、ここ数年花き卸売市場の経由率が低下してきているのも事実です。他品目ではずっと以前から起こっていたことですが、花きでも卸売市場経由率が低下してきた理由をどう考えますか。

石田:青果・水産品で市場経由率が減少した背景には、生産者の高齢化・減少に伴って国内生産力の低下を補うために輸入品の割合が増加したことが大きく関係しています。それらは卸売市場を経由しない取引が多いです。また、量販店が台頭したことにより荷の大ロット化が必要になりました。大消費地のハブとなる卸売市場では荷が集中することによる狭隘(きょうあい)化で扱い量が限界に達する一方、地方の卸売市場では経由率が下がる対極の問題が発生しています。

山本:花きにおいても同じことが起こりうるということでしょうか。

石田:花きでも輸入品の割合は増えており、卸売市場を経由しない取引の比率が上昇すると考えることが自然です。また、花き市場は青果・水産品以上に最終消費額の減少に起因するマーケット全体の縮小が顕著であることも気になります。生産と消費をつなぐ流通の拠点としての機能は当然のことですが、これからは需要拡大の役割も求められるのではないかと思います。

卸売市場取引の意義を高めるための取り組み

山本:卸売市場経由の取引の意義を高めるための新しい取り組みも多く行われているとききますが、どのような取り組みでしょうか。

石田:流通の高度化と、データを活用したサプライチェーン上流・下流の支援です。流通の高度化ではフィジカルインターネットがキーワードです。海上コンテナ輸送の考え方を陸運にも当てはめるという概念で、コンテナ(輸送容器)、ハブ(コンテナの荷役)、プロトコル(運用上のルール)を標準・統一化することで物流の“究極の最適化“を目指す考えです。既に、経済産業省のフィジカルインターネット実現会議でロードマップ(加工食品・日雑品が対象)が示されている通り、今後の流通にとって欠かせないアプローチであると言えます。また、サプライチェーン上流・下流支援では、市場データを活用した生産者に対する品質改善・作付けなどの支援による生産力強化、小売業者に対するマーケティング・販売促進支援による販売力強化が考えられます。大手食品卸企業ではデータを活用したサプライチェーンの結びつき強化を最重要課題として取り扱っており、花き流通においてもクローズアップされるのではないでしょうか。

調理場整備の失敗

フィジカルインターネット・ロードマップ(出典:経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップ(2022年3月)」

調理場整備の失敗

卸売市場データの活用イメージ(日本総研作成)

花き流通DXの推進に求められる体制づくり

山本:花き業界でも物流に関する標準化の取り組みが行われています。とはいえフィジカルインターネットの段階まで到達するにはまだまだ多くの論点が残されていますし、市場データのサプライチェーン横断的な活用についてはこれから本格的な検討が進むように思います。石田さんからみて、花き卸売市場の関係者が流通のデジタル改革のためにどのような取り組みや体制づくりを行うべきでしょうか?

石田:どの分野でも共通ですが、まずは現状の危機感や望ましい姿について関係者・団体で共通認識を持ち、何をすべきかを議論する必要があります。花き卸売市場だけではなく、主要な生産団体、小売関係者、外部有識者の参加はもちろんですが、先行している青果や水産の関係者と連携したり、意見をきいたりしてもよいでしょう。先のフィジカルインターネット実現会議では、関係者の認識をしっかり共有した上で、業界ごとのワーキンググループ(WG)を組成し、過去のしがらみを排除して「誰が、何を、いつまでにすべきか」が議論されました。物流分野では花き業界でも横断的な取り組みが進んでいるとのことですが、データ活用でも類似の体制づくりができるとよいですね。最初から大きな枠組みで取り組むことが難しければ有志でスタートしてもよいと思います。

調理場整備の失敗

フィジカルインターネット実現会議の体制(出典:経済産業省「第1回フィジカルインターネット実現会議」(2021)事務局資料」

国産花き流通はいままさに変革期。サプライチェーン横断の取り組みに期待

山本:私が国産花き流通に関する実証事業に関わらせていただいてしばらく経ちますが、業界関係者が多岐にわたり、またその立場もさまざまであることもあって「実証試験はできても実事業まで広がりにくい」という状況をみてきました。ただ、他産業の変化は加速しており、花きでもこれまでの業界の中核プレーヤー以外に変革の担い手が現れることもあり得ます。国産花きは輸入産地との激しい競争にさらされてもいますが、世の中が円安の影響を実感した今こそ業界横断で取り組みを強化すべき時期であるとひしひしと感じます。

そこでシリーズ最終回は、業界内で問題意識を持って活動されている、株式会社大田花き花の生活研究所の桐生進さん、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の久松完さんにお話を伺います。

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