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新規就農希望者を迎え入れるにはどんな点に注意すべき? 接し方・指導方法などを解説!!

hiracchi

ライター:

新規就農希望者を迎え入れるにはどんな点に注意すべき? 接し方・指導方法などを解説!!

2010年に就農し13年目を迎えた筆者。現在は、「新規就農者育成総合対策事業(旧農業次世代人材投資事業)」を活用した地元自治体・JA主催の研修の受け入れ先にも指定されるなど、新規就農の指導・育成に関わる機会も多くなりました。今回は、先輩農家の立場になった元新規就農者の視点から、新たな新規就農者への適切な対応や指導方法について考えます。

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先輩農家になった元新規就農者

過去の記事でもお伝えしている通り、非農家出身の僕は地元自治体とJAが共催する農業研修に参加し、そこでつながった地元の農家グループに仲間入りする形で、2010年に新規就農しました。2023年の今年は、本格的に農業を始めて13年になります。加入した農家グループから徐々に先輩のベテラン農家が引退する一方、それと同じくらいの新規就農者が仲間に加わり、現在はほぼ新規就農者のみでグループを運営するという状況になっています。

僕が加わった農家のグループは、それまで新規就農者の受け入れを一切してきませんでした。脱サラなどをして親元就農をした人はいるものの、農業とは縁もゆかりもない非農家からの新規就農者が加入したのは僕が初めて。高齢の先輩農家の引退とともにグループの加入者は減少の一途をたどっており、僕が仲間入りした時点ですでにピーク時の半数以下に落ち込んでいました。

そこで、以前から採用関係の仕事に携わってきた経験をもとに、何とか新たな仲間を集められないかと、徐々に新規就農者の勧誘や指導などに力を入れ始めました。ライターとして過去に培ったメディア関連のつながりを生かし、新聞や雑誌、テレビなどに露出してPR活動に力を入れてみたり、自治体の農業研修の運営担当者に依頼して、新規就農者向けの説明会を開催したりしました。

もちろん、全てがうまくいったわけではありません。説明会を通じて一挙に3組の新規就農希望者を獲得できたケースもあれば、かなり前のめりに準備を進めていた人が、ある日突然音信不通になったこともあります。今回は、僕がこれまでいろいろと試行錯誤してきた実体験を基に、新規就農者を勧誘・育成する際の秘訣(ひけつ)についてまとめてみたいと思います。

農家

非農家から就農した経験を基に後輩たちをサポート(写真はイメージです)

勧誘成功の秘訣

秘訣その1:農業のリアルな収益を伝える

新規就農者を勧誘する際、一番のポイントだと思っているのが「収益」、つまり農業でどれくらいもうかるのかを伝えるということです。僕は、就農前に別の都道府県の就農希望者向け見学会に参加したことがあるのですが、そこでとても良いと思ったのが、モデルとなる先輩農家が売り上げや経費などの数字を開示してくれたことでした。

個人情報に関わることですから、さすがに全ての数字を開示するのは控えた方がいいでしょう。それでも、これから新規就農し、家族を養っていかなければいけない立場の人間としては、「どれくらいの収益が上がるか」は最も気になるポイントです。この時の経験を踏まえ、僕も就農希望者には、収入の目安を可能な限り早めに伝えるようにしています。特に僕が取り組んでいる作物は、同じ地域内でもかなり収益率が高いのが特徴です。それを隠さず伝えると興味を持ってもらえることが多いです。

そこで大事なのが、自分自身がちゃんと農業で稼いでいること。売り上げについて話している人間がしっかり稼げていなければ、全く説得力がありません。僕の場合、ライターとしての売り上げもあるため、後輩ができるまでは「農業1本でそこまで稼がなくてもいい」という考えも多少ありました。ただ、それでは後輩の模範にはなれません。多くの人に就農に興味を持ってもらうためにも、勧誘する立場になってからは売り上げをより一層意識するようになりました。

秘訣その2:農業が好きかどうかを見極める

前段の話と矛盾するようですが、最終的には「農業が好きかどうか」を就農希望者にきちんと問うようにしています。僕のところに相談に来た希望者の多くが会社員で、毎月安定した収入を得られる状況に慣れています。そのため、「農業が好き」という思いが根底にないと、収入が不安定になった時、困難にぶつかった時に、くじけてしまいやすいと思うからです。

おそらく「農業が好き」という気持ちが足りずに就農に至らなかったと思われる、こんな事例がありました。
誰もが知るような大手通信会社に勤務し、高収入ながら「今後の農業の可能性に魅力を感じた」と僕のところに就農の相談に来た40代後半の男性がいました。「初年度から売り上げ2000万円を達成したい」。ものすごく前のめりに就農を希望していましたが、突如連絡が途絶え、音信不通になりました。僕がグループの先輩農家に説明するなど、すべて手はずを整え、行政の担当者などを交えた定例会の席では「これからお世話になります」と地域の農家の前であいさつまでしていたのに……。「やはりやめたい。また連絡する」と話したのを最後に、その後は電話をかけてもつながらなくなりました。

その人は地域の農家の息子だったため、しばらくたった後、どうなったのか耳にすることになりました。どうやら目先のもうけだけに目を奪われ、それ相応の投資が必要なこと、1年目からすぐにもうけを出すのが難しいことなどを知り、興味がうせてしまったようです。当時の制度では年齢的に新規就農者向けの補助金を受け取るのが難しかったうえに、子供が小さくパートナーから反対されたのも原因だったと聞きました。

目先の利益を優先するのであれば、農業は不向きな業種だと思います。僕はフリーランスでライターの仕事も続けているため、いろいろな業種の方にインタビューするのでよく分かりますが、農業は初期投資もかなり大きく、利益率も決して高くはない。もっと稼げる仕事は他にたくさんあります。農業は「好き」という気持ちがなければ、続けるのが難しい職業だと思います。

勧誘の武器として最も効くのは「稼ぎ」ですが、その一方で、適正を見極めるうえでは「農業が好きかどうか」を一番の基準にする。新規就農者を獲得するうえでは、この二つのバランスをうまく取るのが大事だというのが僕なりの答えです。

農業が好きかどうか

本質的に「農業が好きかどうか」を見極めることが大事(写真はイメージです)

就農後のフォローのポイント

栽培技術だけでなく経営者マインドを教える

研修中から就農後のフォローについては、「新規就農者のバックボーン」を理解することが大事だと思います。「農業の経験があるのか」はもちろん、「経営の経験があるのか」によって教えるべき内容が変わってくるからです。新規就農は、農業法人に勤める従業員ではありません。独立した一人の経営者となるわけで、栽培技術だけでなく、経営者としてのイロハを学んでもらう必要がある。その点を意識しないと、単に栽培技術だけたけていて、経営の感覚が全く身に付かない人が生まれるだけ。これでは農家として独り立ちすることはできません。

個人事業の場合、家計と密接に関わるお金が多いですから、新規就農者の細かな経営の部分に関与するのは難しいことです。その点は、僕もあまり立ち入らないようにしています。それでも、ファイナンシャルプランナーの有資格者としての知識を生かし、僕のケースを踏まえてどのような資金計画が必要なのか、特にキャッシュフローの観点から詳しく説明するようにしています。また、常に主体的に物事を考えるなど、経営者のマインドの部分もフォローするようにしています。

農家の世界のしきたりやルールを伝える

栽培技術については、地元JAなどがフォローしてくれる面も多く、「習うより慣れよ」の側面が大きいので、そこまで細かく指導していません。何か質問したいと思った時にすぐ聞ける関係性さえ築いておけば、就農後もそこまで困ることはないと思っています。

僕が栽培技術よりも熱心に教えているのが、農家の世界のしきたりやルールです。新規就農者の場合、既存の農家との人間関係に悩む人が少なくないと思うからです。僕自身、これまでの常識が通用せず、面食らう場面も少なくありませんでした。非農家の立場から僕が経験したことやその対処法を伝えることで、これまでとは勝手が違う環境になじみやすいように配慮しています。

草刈りの様子

地域のしきたりや振る舞い方などをきちんと伝えることも重要(写真はイメージです)

非農家出身の新規就農者の視点が大事

これまで、新規就農者への対応のポイントについていろいろ説明してきましたが、一番のポイントは、やはり「非農家の新規就農者」の視点で、気持ちに寄り添うことを意識した点だったと思っています。よりよい新規就農者の勧誘・育成を考えるうえでは、やはり元新規就農者の意見を積極的に取り入れてカリキュラムを組み立てるのがよいと思います。僕自身も、その視点で数組の研修生を指導してきました。

2022年の夏には、「農業次世代人材投資資金」を活用して、新たに40代の夫婦が新規就農を果たしました。彼らに就農1年目の苦労を聞いてみると、「これまで2年間、ひらっちさんのもとで研修してきたものの、やはり自分で一からやるのは全然違う」と話しつつも、僕の指導したことを基本に頑張っているようです。
僕自身、就農当時は作業全体のイメージが十分に把握できず困った経験から、研修中には「農作業前の段取りは早めにするように」と指導していました。また一方で、規模を小さく始めることで失敗が小さくて済むということも伝えました。
彼らに話を聞くと、やはり「道具や資材をそろえるなど、どれくらい前から準備を始めればいいのかが分からず、蓋(ふた)を開けてみると作業の開始が遅れてしまうことも多い」とのこと。早め早めを心掛けていても、1年目は手際よくできないのは仕方のないことでしょう。それでも「まずは小さく始めよ」と僕が口を酸っぱくして伝えてきたので、どうにか挽回しながら作業を進めていけているようです。
また細かな農作業や栽培方法については、全てを一緒にやることができなかったので、動画撮影して共有するようにしていました。これに関しては「今後はこれを見返しながら復習したい」と言ってくれています。

僕が新規就農時に苦労した人間関係についても、できる限りのことを教えました。別の農家の元で研修する時などは「普段の仕事ぶりを見られているから絶対に手を抜くようなことはするな」と伝えていました。彼らがその通りに頑張ってくれた結果、僕が所属するグループ以外の人たちからも可愛がられ、土地探しに難航している際には親身に手助けをしてくれる農家さんも現れました。
「どういったお付き合いをしていけばいいのか分からなかったため、農家の世界での立ち居振る舞い方を教えてもらえて良かった」と、彼らもその効果を実感してくれたようです。

今、先輩就農者として新規就農者を勧誘したり指導したりしている人に伝えたいのは、自分が就農した時に何に困り、どんなフォローをしてほしかったかをしっかり考え実践してほしい、ということです。それぞれの地域にはその地域ならではの事情もあり、全国一律のマニュアルではフォローできない部分が多くあります。あなたの地域ならではの事情をくんだうえで、新規就農者の目線を大事にすれば、定着につながると思います。

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