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世界で評価される日本酒。顔の見えない海外輸出でブランド価値を守り、魅力を伝えるために

世界で評価される日本酒。顔の見えない海外輸出でブランド価値を守り、魅力を伝えるために

暗号技術を用いて情報を分散管理するブロックチェーン。暗号資産のイメージが強いが、近年は海外を中心に生産物のトレーサビリティにこの技術を活用する事例が増えてきた。国内事例としては、SBIトレーサビリティ株式会社が、ブロックチェーンを活用して日本酒の不正な流通を防ぐ新たなサービスの提供を2022年10月に開始した。その手応えと生産物の価値向上への展望について、同社代表取締役の輪島智仁(わじま・ともひと)さんに、株式会社日本総合研究所の木村智行(きむら・ともゆき)さんが話を聞いた。

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輪島智仁さんプロフィール

SBIトレーサビリティ株式会社代表取締役。
大手保険グループの損害保険会社を経て、2017年SBIホールディングス株式会社へ中途入社。社長室、SBI生命保険株式会社での新規事業開発、がんゲノム医療プロジェクト統括を歴任後、2019年にSBI wefox Asia(現、SBIインシュアランスラボ)株式会社を設立し、代表取締役を務める。2021年より現職。

木村智行さん(聞き手)プロフィール

株式会社日本総合研究所 創発戦略センターマネジャー。
株式会社NTTデータを経て、株式会社三井住友フィナンシャルグループにてグループ全体のイノベーション推進に従事。株式会社日本総合研究所に出向し、Web3.0(ブロックチェーン)を活用したトークンエコノミーの設計・実装に注力する。

ブロックチェーン技術とICタグ技術の掛け算で、本物を証明

木村さん:早速ですが、SBIトレーサビリティが提供する日本酒のトレーサビリティとは、どのようなサービスなのでしょうか。

輪島さん:当社では、ブロックチェーン技術とICタグ技術を使って、日本酒の不正な流通を防ぐサービス「SIMENAWA(しめなわ)」を提供しています。日本酒の偽造防止については、以前からベンチマーク(分析・評価)していた技術ケースがありました。それは、世界で流通するダイヤモンドのトレーサビリティで、原石の産地が紛争エリアでないことや本物証明にブロックチェーン技術が使われています。ダイヤモンドは本体にシリアルナンバーが刻印されますが、日本酒ではICタグの技術を使い物理的な資産にシリアルナンバーを付し、改ざんが困難な高度な暗号技術を用いてデータを分散管理・共有することができるブロックチェーン技術と組み合わせる仕組みで、本物を証明するサービスを展開しています。

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サービスの仕組みを語る輪島さん

木村さん:タグを付けることで具体的にどのような機能を発揮するのでしょうか。

輪島さん:酒造会社が酒瓶一本一本にICタグを付けてシリアルコードにひもづけてブロックチェーンに記録して出荷すると、購入者がスマートフォンでブロックチェーンにその情報を読みに行き、どこで造られたお酒なのかを正しく確認することができます。これには容易に閲覧できるNFC規格のタグを用いますが、もうひとつRFID規格という流通で使われているタグがあります。RFIDタグをセンサーが読み取り、入出荷を自動的に登録したデータをNFCタグにひもづけることで、ロット単位の流通経路を把握できるサービスも開発中です。


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日本酒の不正な流通を防ぐサービスイメージ(提供:SBIトレーサビリティ

不正流通によるブランド毀損(きそん)から、日本酒の価値を守る

木村さん:どのような背景から、トレーサビリティサービスが開発されたのでしょうか。

輪島さん:このサービスを最初に採用していただいたのは、福井県で創業162年の歴史を紡ぐ酒造会社「加藤吉平(きちべえ)商店」さんでした。世界108カ国に日本酒を輸出し、141カ所の日本国総領事館などで国賓のおもてなしに使われている高級日本酒「梵(BORN)」の「超吟」「夢は正夢」を製造していますが、海外で空き瓶が販売され、異なる中身で提供されるケースが多発しており、不正な使われ方への対策を考えていらっしゃいました。

この場合、中身は本物でも、運搬の際に適正な温度管理がされず全く違う品質のお酒になってしまうケースもあるそうです。また課題はもう一つあり、流通過程で数本、数十本中抜きされて横流しで販売されることもあったそうです。

木村さん:偽物や非正規品が多く流通してしまうと、ブランド価値が毀損されるなどの実害が出てきますよね。加藤吉平商店さんに話をしたときは、すでに「SIMENAWA(しめなわ)」サービスをローンチしていたのでしょうか。

輪島さん:いいえ。当時はまだサービス開発のためのヒアリングをしていた段階でした。加藤吉平商店さんへもヒアリングの名目で訪問したのですが、初めてお会いしてから2時間ほどの話の中で、社長に即決していただきました。そこから急ピッチで開発を進めていきました。

木村さん:海外でのブランド価値の毀損を強く懸念されていたことがうかがわれます。実際にサービスを提供されて、どのような反応がありましたか。

輪島さん:私たちとしては、偽物や非正規品に困っている酒造会社さんだけでなく、消費者の方にも喜ばれる仕組みだと思っていましたが、意外なところからも喜びのお声をいただきました。それが、個々の酒造会社の海外輸出を取り扱う正規ディストリビューターさん。市場での不正に対抗して、正規品を誇りを持って世に出せると評価いただいています。

サプライチェーンにおける価値創造の拡張性

木村さん:作り手のみならず、サプライチェーンの中で真摯に取り組んで来られた方々の活動が、透明性ある記録によって担保されるようになったわけですね。ところで、このサービスでは、どこからどこまでをトレースし、どのようなビジネスモデルになっているのですか。

輪島さん:原材料の酒米づくりから追い始め、最終的にエンドユーザーが購入するまでのトランザクション(商取引)をブロックチェーンに記録できます。現在はシンプルに酒造会社さんの商品の出どころを証明していますが、流通過程でのニーズによって機能を拡張することは可能です。いわゆるインフラをブロックチェーン技術で支えるプロダクトなので、当初はSaaSとして月額料金でサービス設計していましたが、酒造会社さんが酒瓶1本あたりのコストで商売するのに適した料金体系が好ましく、結果として1本あたりの単価でサービスを提供しています。

現在は加藤吉平商店さん以外にもさまざまな酒造会社へサービスをお話ししており、およそ6割の方にその場で導入を即決いただいています。

木村さん:新規事業開発を知る方であれば分かると思いますが、6割の方が即決されるというのは、本当にすごいことです。作り手が透明性ある記録によるブランド保護に価値を感じているという印象を受けました。

輪島さん:そうですね。いかに商品の価値を伝えられるかというところで、情報を伝えるコミュニケーションの部分でも機能を実装することができます。物理的なものに載せられる情報量は限りがあるためそこをデジタル化し、当社のサービスで本物を証明しつつ、商品情報をWEBサイトで見せる機能を活用したいという声もあります。

海外、特にヨーロッパでは視覚によるイメージ的な情報よりも、文章から商品やその作り手の深い背景を理解した上で購入したいという意向が強いように思います。現に、海外の美術館では展示品の説明文が非常に長く、来場者も展示品よりもこの文章に目を向けている場面が多く見られます。

これまで、生産者が丹精込めて作ったものを生活者に伝えるすべはそうありませんでしたが、ブロックチェーン技術の活用によって、実現されつつあります。このサービスも元々は全国の農家さん方のもとを行脚する中で発案されたものですので、ゆくゆくは生産者の方々に、こだわって作った農産物を世の中に伝えていく手段として活用してもらえるようにしていければと思っています。

木村さん:生産者から話を聞くと、消費者の方にアプローチする手段がないというお声はこれまでよく耳にしてきました。そうした中、デジタル技術を使ってメッセージを届けられる可能性がある、それが海外となるとより伝わりやすいというのも面白いところですね。本日はありがとうございました。

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