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いま話題のアクアポニックスとは? 水槽を自作する方法やビジネスとしての将来性を解説

いま話題のアクアポニックスとは? 水槽を自作する方法やビジネスとしての将来性を解説

地球環境に負荷のかかる農業が見直される時代となっています。農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」においても循環型農業が推進される方針となり、農業における環境負荷の軽減や持続可能性は、国を挙げての取り組みとなりつつあります。そんな中で今注目を集めているのがアクアポニックスです。日本ではまだ一般的ではないかもしれませんが、海外を中心に広がりを見せている新しい栽培方法です。SDGsに象徴されるように、環境問題への取り組みは企業に課された義務となりつつあり、国内でもアクアポニックスを導入する企業が現れてきました。アクアポニックスとはどのような栽培方法なのか。そのメリット・デメリットや導入事例などについて解説します。

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アクアポニックスとはどのような農業法? 仕組みや構造

アクアポニックスとは、水産養殖(アクアカルチャー)と水耕栽培(ハイドロポニックス)を融合させた新しい生産方法です。
自然環境に優しく、かつオーガニック野菜が栽培できることから、近年注目が集まっています。

水産養殖では、飼育・養殖している魚の排せつ物などによって水が汚れてしまうため、大量の水を循環させたり、入れ替えたりする必要があります。

アクアポニックスは、そうした魚の排せつ物を微生物の力で分解することで植物にとっての栄養分に変え、野菜などの栽培にも生かそうというシステムです。さらに、排せつ物が分解・吸収されてきれいになった水は、魚にとって住みよい環境を提供してくれます。

このように、魚の飼育と植物の生育を循環させる仕組みを利用した養殖・栽培システムが、アクアポニックスなのです。

屋外・屋内型の違い

アクアポニックスは水を循環させるシステムであり、そのための施設が必要です。
設置する場所としては屋外型と屋内型があります。

屋外型では、植物の成長に必要な光として、日光を利用します。そのため、屋外型のアクアポニックスは太陽光型システムと呼ばれます。

一方の屋内型は、日光の代わりに人工光であるLEDライトを利用します。そのため、屋内型はLED型システムと呼ばれます。

アクアポニックスに適している魚や野菜

アクアポニックスに適した野菜

・レタス、クレソン、サンチュ、バジルなどの葉物野菜
・小ネギ
・ミニトマト
・キュウリ
・ワサビ など

また、アクアポニックスに適した魚には、以下のようなものがあります。

アクアポニックスに適した魚(食用)

・ティラピア
・鯉
・イワナ、ニジマス
・チョウザメ
・ドジョウ
・エビ など

アクアポニックスに適した魚(観賞用)

・メダカ
・金魚
・グッピー
・錦鯉 など

米国やオーストラリアなどを中心に海外で広がりを見せつつあるアクアポニックスですが、すでに国内で施設を導入し、積極的に普及拡大に取り組む企業が現れています。

株式会社スーパーアプリ

PC・スマートフォン向けゲーム制作会社であるスーパーアプリが、ゲーム開発で培った技術を生かし、2022年12月より、日本最大級の施設(2,800平方メートル)となる『マナの菜園』を稼働開始させました。

栽培・養殖品目は、リーフレタスやロメインレタスなどの葉物野菜と、ティラピア(イズミダイ)やチョウザメ養殖からスタートしています。

>>◇詳細はこちら

株式会社アクポニ

日本初のアクアポニックス専門企業「アクポニ」では、都市型パッケージ農園「アクポニハウス」のショールーム展示や、異業種連携を通したアクアポニックス生産設備の実証実験などを行っています。

また、地域に開かれた農場「ふじさわアクポニビレッジ」として、野菜の一般販売やイベントなどの計画も進めています。

>>◇詳細はこちら

アクアポニックスのメリット

アクアポニックスは従来の農業とは異なる特徴を備えた循環型農法であり、さまざまなメリットがあります。

アクアポニックスが注目を集める理由となった主なメリットには次のようなものがあります。

水やりや土作りが不要

アクアポニックスでは、土を使わない水耕栽培で植物を育てます。そのため、農業では一般的な土耕栽培に必須の、土作りも水やりもする必要がありません。

水槽の水替えも不要

水産養殖、水耕栽培をそれぞれ単体で行う場合、水中の成分が一定環境に留まるため、魚の排せつ物、カビ、微生物の老廃物などが溜まりやすくなり、ある程度の期間で水替えをする必要があります。

アクアポニックスは、水産養殖で溜まる魚の排せつ物が植物の栄養分になるなどの循環が働くため、水槽の水替えが不要になるのです。

農薬・化学肥料が不要

水耕栽培では土を使わないため雑草が生えず、虫の生息する場所もないため病害虫が発生しにくく、除草剤や殺虫剤などの農薬を使わずに栽培できます。また、魚の排せつ物など、水産養殖で発生した有機物が分解されて養分となるため、水耕栽培では必須のはずの化学肥料も不要となります。

節水効果の高く環境に優しい

水産養殖も水耕栽培も、それぞれ本来は水質をきれいに保つために大量の水を必要とします。アクアポニックスでは、魚の養殖エリアと植物の栽培エリアで水を循環させるため、節水効果が高く、環境に優しいという特徴があります。

設置場所や規模が自由に選択できる

アクアポニックスでは土を使わないため、屋外・屋内問わず好きな場所に設備を設置することができます。また、家庭内での鑑賞用や家庭菜園といった小さなものから、企業による大規模施設園芸まで、規模も自由に選ぶことができます。

アクアポニックスのデメリット

一方で、アクアポニックスは新しい農法であり、次に挙げるような課題がデメリットと考えられなくもありません。

初期費用が生じる

アクアポニックスは基本的には施設園芸となります。水を循環させるための設備や管理システムなどの初期投資が必要です。土さえあれば小さな投資からでも始められる露地栽培に比べると、初期費用がかかることは確かでしょう。

認知度が低い

アクアポニックスは、地球環境に優しく、農薬・化学肥料不使用で栽培ができる農法として注目されています。一方で、まだ新しい農法であるために一般の認知度が低く、ブランディングが不十分といえます。

市場での需要という点から、アクアポニックスの認知度の向上は今後の課題となるでしょう。

人件費がかかる

アクアポニックスは、一般に行われている露地栽培・施設栽培とは異なる栽培方法です。そのため、従来使用されてきた定植や収穫用の農機が利用できず、人件費がかかる可能性があります。

また、まだ技術の普及が進んでいないため、養殖・栽培を管理する人材の育成にかかるコストも考える必要があります。

アクアポニックスの水槽を家庭に導入する方法

アクアポニックスは水産養殖と植物栽培で用いられる水を循環させることで成り立たせるシステムです。

この基本的なシステムさえ基になっていれば家庭内で導入することもできます。
主な導入方法として、次の2つを紹介します。

専用キットを購入する

アクアポニックスを家庭内で実現できる専用キットが一般販売されています。
魚のエサを与えるだけで植物が育ち、水質が汚れることがないので掃除の手間もほとんどかかりません。

また、魚の排せつ物→微生物による分解→植物の生育→きれいな水を魚に提供、といった自然界の生態系の縮図を体験することができます。
専用キットでは観賞用の魚の世話をしつつ、葉物野菜や観葉植物の栽培も楽しめます。

屋内に置くこともできる大きさであり、価格も数万円からと手ごろなため、気軽に楽しむことができます。

DIYで自作する

アクアポニックスは、魚、微生物、植物の3要素によって生態系を作ることが基本です。アクアポニックスの自作に際しては、基本的な仕組みを理解した上で、次の3つのポイントを押さえておきましょう。

・魚の飼育槽と野菜ベッドをそれぞれ別に用意する
・魚の飼育槽から野菜ベッドへは排せつ物などで汚れた水、野菜ベッドから飼育槽へはきれいな水が循環するように配水装置を作る
・多孔質素材のハイドロボールなど、微生物の住みつきやすい環境を整える

あとは、飼育槽・野菜ベッドの容器、配水管、ポンプなどに用いる資材や機器を購入して組み立てることで自作が可能です。

どういった資材を使うかは自分で決められるため、アクアポニックスのシステムさえ理解できれば、屋内の小規模なものから、家庭菜園規模の中規模なものまで自作できるようになります。

アクアポニックスは難しい?よくある失敗事例と対策

アクアポニックスは導入事例が少なく、そもそもの評判を聞く機会が少ないかもしれません。導入を検討する前に、よくある失敗事例とその対策を紹介します。

水質が悪化する

基本的に水は放置しているだけでも水質が悪化します。水産養殖も水耕栽培も、それぞれ魚と植物の老廃物などが水中に溜まるのでなおさらです。

その課題を解決できるのがアクアポニックスですが、水温、pH、塩素など、水の管理を適切に行わなければ、アクアポニックスといえど水質の悪化が見られることがあります。

魚と野菜の割合や選び方が不適切

魚と植物の割合が合っていないと、アクアポニックスはうまくいきません。
魚が多すぎると排せつ物の分解処理能力が追いつかず、魚にとって有毒なアンモニアが蓄積してしまい、逆に少なすぎると、植物の生育に必要な栄養分を供給することができません。

また、循環立ち上げ初期は、水質が魚の生育環境に落ち着くまでに少し時間がかかります。最初に入れる魚は環境の変化に強い品種を選びましょう。

季節に合った野菜を栽培していない

野菜は植物ですので、生育に適した季節があります。季節に合わない野菜を栽培すると成長が悪くなり、最悪の場合は枯れてしまうこともあります。

野菜の成長が不十分だったり、枯れたりしてしまうと、本来植物が吸収するはずだった栄養分が水中に残り、生態系のバランスが崩れて魚への影響も懸念されます。
生育環境に適した野菜を栽培するようにしましょう。

光が不足している

植物の成長に光は欠かせないものです。アクアポニックスは屋内でも設置できますが、その際に気をつけなければいけないのが光です。
日光が当たりにくい場所に置く場合は、植物にLEDライトを当てる必要があります。

害虫対策をしていない

アクアポニックスでは、魚や微生物に悪影響を及ぼす農薬は使用できません。土がなく、水が循環しているアクアポニックスでは虫が発生しにくくなっていますが、屋外であれば周囲の雑草や水たまりに、屋内であれば水まわりや生ごみなどに虫が発生する可能性があります。

虫を媒介してアクアポニックスの植物に病害虫をもたらすリスクがあるので、虫を発生させない、アクアポニックスに虫を寄せつけないといった対策を取る必要があります。

アクアポニックスのビジネスとしての将来性は?

企業としてアクアポニックスに取り組むことを検討する際、最大の関心事はやはりビジネス性でしょう。

残念ながら、国内での認知度の低さ、初期投資の大きさ、技術の普及、人材育成など、アクアポニックスにはまだ乗り越えるべき課題が多く、現時点ではすぐに収益化が見込めるものではないかもしれません。

しかし、地球環境への負荷軽減という観点では大いに期待されています。世界中で異常気象が頻発し、気候変動リスクが現実のものとなってきている昨今、企業の環境問題への取り組みは、単なる企業イメージアップのためだけではなく、取引関係にも直接影響する課題となっています。

そのような状況の中で、アクアポニックスはSDGsが掲げる全17ゴールのうち11の目標達成に貢献できるという見方があり、前掲の「アクポニ」のように、社名にアクアポニックスを冠する企業が出てきています。アクアポニックス関連企業は、オーガニック関連イベントへの出展や、異業種連携を盛んに行うなど、将来性に期待した取り組みを進めています。

新しい技術や事業の普及においては、イニシアチブを握ったほうが有利に働くことは言うまでもありません。まだ発展途上にある現時点で着手しておくことで、今後大きな利益となって返ってくることが期待されます。

ビジネス導入する際は補助金も活用しよう

アクアポニックスに取り組むためには、設備導入などの初期費用が必要です。
SDGsに対応しているアクアポニックスは、公共性の高い事業であることからも公的な支援を受けられる可能性があり、実際に補助金を活用して取り組んでいる事例もあるようです。

中小企業庁の事業再構築補助金などはアクアポニックス導入のために手を挙げやすい制度だと言えます。

地球環境に優しい新農法アクアポニックスに期待

微生物を介した魚と植物の共生系を利用したアクアポニックス。地球の生態系を模した新しい栽培方法であり、その持続可能性と、農薬・化学肥料の不使用といった点から、徐々に注目が集まりつつあります。

実際に設備を導入し、ビジネスとしての収益化を視野に実証実験を始めた企業も増えつつあります。また、アクアポニックスは小規模かつ屋内で取り組むことができるため、家庭用キットも販売されるなど、一般の人でも楽しむことができます。

まだ一般の認知度は低いものの、地球環境への負担軽減効果の高さから、米国やオーストラリアを起点に、世界中で広まりつつある養殖・栽培方法です。今後、日本においても取り組む企業が増えることで、ブランド化が進む可能性があります。
実証実験の事例や補助制度などの動向を注視しつつ、アクアポニックスのビジネス導入を検討する価値はありそうです。

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